夢じゃ腹はふくれない
自分を見つけて走ってくる#名前2#を見て「あっ、転ぶだろうな」と思った。普段の行いが悪いせいではないのだが、どうにも不運である。水にぬれた歩道に蹴躓いて#名前2#はずべっとこけそうになった。おっとっと、となれたように彼は片足でジャンプして前方にあった水たまりを飛んできた。 「お待たせイッキ」 「待ってないよ。それより君の方こそ大丈夫かい。さっき盛大に転びそうになってたみたいだけど」 「あれぐらいは慣れてるし水たまりも飛び越えられたし大丈夫」 行くぞー!!と意気揚々と#名前2#が僕の腕を引っ張る。今日ははじめての普通の買い物をする日だ。そして、シオンが僕らの間に挟まらない貴重な日でもある。 話が決まったのは二日前のバイトの日のことだ。#名前2#が「シオンの誕生日忘れてた……!!」と絶望したような声をあげたのが最初だった。そのときイッキはちょうどファンの子らと会話していて店長は電話が来ていてそっちにかかりっきりでいた。#名前2#の話を聞いていたのはトーマとミネである。 「誕生日だったらここでお祝いしたらどうです? せっかくですし、店長もいいって言うと思うんですけど」 「いや……シオンとは毎年二人でお祝いしてるから……」 「そうっか」 「ケーキとか大丈夫ですかね。予約が難しそうだったらケーキはここでケントさんに作ってもらえばいいんじゃないですか?」 「そ、それは……ありなのか? いいや、ケントと店長に聞いてみよう。材料費とキッチン借りるお金と、えっとー……」 「ここで働いてるんだからいいじゃないですか! それくらい!」 「いや、でも……」 「それよりもプレゼントとか用意できてるんですか?」 「できてない……高校生には何あげればいいんだ……」 「うーん、ハンドクリームとか? ちょっと高いブランドものの」 「俺はマイに香水をあげましたね。大学生になるんだからそれくらいいかなって」 「なんだそれ……。イケメンしか許されないやつ……」 #名前2#さんからもらったものならシオン、なんでも喜ぶと思いますよという言葉は二人とも心の中にとどめたらしい。この会話のところで僕と店長はスタッフルームの中に入った。タイムカードはもう切っている三人はだべりながらシオンにあげるプレゼントには何がいいかと話していた。店長はにっこりと「話は聞いていませんでしたよ」という姿勢でここで誕生日パーティーを開くことを提案していたが断られてしまった。 「あの、パーティーじゃなくて別のことをお願いしたいんですが……」 #名前2#が店長と話し合いをはじめた隙に僕も着替えようとロッカーを開けたらミネがそおっと近寄ってきた。 「イッキさん、チャンスですよ!」 「え?」 「#名前2#さんのこと誘うチャンスですよ! シオンちゃんの誕プレ選びとかで言えばいいんですから!!」 えっ、そうなの!?とトーマが言う。珍しい、彼が驚くなんて。そんな現実逃避をしたかったけどミネは容赦なく僕を揺らしてきた。もはや顔をいからせて言ってくるのでどうしても逃げたくなる。えいっと腕を振り上げるとぱしん、と誰かの手で受け止められた。 「ごめん、お邪魔したかな」 「#名前2#……」 「今、大丈夫?」 ぱっと手を離されて腕も自分のところに戻ってくる。ミネは楽しそうに「シオンさんのプレゼント、イッキさんと選んだらどうですかー?」と言い出した。 「イッキは確かに得意そうなイメージあるなあ」 にこにこと#名前2#が僕に笑いかける。その顔を見て僕はいいよ、と頷くしかなかった。トーマとミネがやったね、とアイコンタクトしているのにも気づいてしまった。 そうして始まったデートだけれど#名前2#は予算5000円で何とかなるかなあと言ってきたのでブランドもののメイク用品とかどうかな、とすすめてみた。一つ持っておくと楽しいと思うよ、というと「そういうもんなのか……?」とよく分からないという顔で僕を見てきた。多分#名前2#からもらったものならなんでも喜ぶと思う。それこそ簡単なハンカチでもなんでも。でもそんなことは言えないしデートは楽しみたいし。苦笑いしながらも#名前2#と駅ビルの中に入っていった。