踊れなくてもそれで良かったの

ふわふわ時系列でお願いします  前世の記憶だと7月7日はやっぱり思い出が深く。父に無理を言って「笹」を手に入れた。なのでアジーム家ではずっと七夕のお祝いをしていた。誰の誕生日でもなく、ただ楽しいからという理由で。短冊に願いごとと名前を書く。どんな願いも具体的に、というのは父の言葉だった。金があれば叶えられるが自分でやりたいものを書きなさい、と父は厳しくも暖かい人だった。俺は毎年同じことを書いていた。ジャミルも毎年同じことを書いているようだった。妹がジャミルのを見て「あー、ジャミルってばまた同じもの書いてる!」とはやし立てたことがある。ジャミルは恥ずかしがるわけでもなく「本心ですから」と笑っていた。  学園に来てからもその七夕の風習は変えておらず、スカラビアの寮生たちと一緒に短冊に願いごとを書いていた。願いが叶うという噂を聞き付けてグリムや監督生が来るのには驚いたが。 「まさか、カリム先輩も知ってるとは思いませんでした」 「七夕の話か?」 「はい。なんというか、こっちにはそういうイメージがなかったので」 「……。監督生のいた世界には七夕はお祭りしてたか?」 「うちは旧暦だったので8月でしたがやってましたよ。給食……向こうはランチタイムでクラスごとに食べるんですけど、その時には可愛いゼリーがついてくるんです」 「いいな、それ」  この子は俺と同じ世界から来た気がする。時代は分からないがとにかくイメージしているのは同じ日本だと思った。この子は帰れるといいなあと思う。俺は結局、#名前2#・アルアジームとしてこの世界で生きていくしかないのだから。 「ゼリーじゃないがうちの飯も七夕のために豪華になってるんだ」 「……! いただきまーす」  ぱくり、と大きな口を開いて食べ始めた監督生を見ながらなんだか自分にも子どもがいたらこんな感じに成長を感じることがあるのだろうかとそんなことを思った。俺はもうあの世界に戻れないのでお世話してきた利用者たちは俺を忘れたまま亡くなっていたりするのだろう。毎日顔を合わせていても人が分からないくらいに認知症が進んでいたあのご老人たちはきっと俺を忘れる。もしかしたら監督生も、この世界から出たら俺たちのことを忘れるのかもしれない。それは、少し寂しいなあと思った。  毎年同じ願いごとを書いていたが急いで短冊をもうひとつ作り、願いごとをすることにした。 「監督生が無事に戻れますように」  それを吊るそうとしたらべたべたと黒いものが着いた短冊が見えた。ぱぱっと手短なところに自分の短冊をつるしたあと、ホウキで空を飛んだ。じゅうたんと迷ったが一直線に上に目指すのはホウキの方が楽だったのだ。すると「おい、どうしたんだ!」とジャミルも追いかけてきた。 「……いや。何だか変な短冊があると思っただけだ」  黒いモヤみたいに見えたそれは肉球のスタンプだった。グリムだ。何か書いたはずなのにはずかしくなったのか上から何度も黒く塗りつぶされていた。 「これじゃあ、願いごとは見えなくて困るなあ」  ふはっと笑いだした俺を見てジャミルは「そんなのあいつらの勝手だろう。早く降りてくれ」と俺の手を取ろうとする。ふとジャミルはどんな願いごとをしたのか気になった。 「ジャミル、お前は今年は願いを変えたか?」  何せ寮長であり、主人である俺がオーバーブロットなんてものをしたのでそれについて何か言ってもおかしくないよなと思ったのだ。ジャミルはキョトンとした顔で「いつもと変わらないが」と言った。何を突然言い出したかと思えば、みたいな子どもを見るような目で俺を見るジャミルがおかしかった。  空を飛んでいる#名前2#先輩とジャミル先輩を見ながら何だかんだで仲良いなああの2人、と思った。 「あの人たち、お互いのこと大好きなんだよね」 「ラズールさん」 「やっほ」  スカラビア寮で#名前2#先輩を心配していた1人だ。ジャミル先輩が飛んだせいで手持ち無沙汰になっているホウキに魔法をかけて保管室に戻していくのを見て魔法ってやっぱり便利だなと思った。 「ジャミル、#名前2#に見られたくないからっていつもテッペンに飾ってるんだ」 「へー」 「その反対に#名前2#はいちばん手近なところに飾る。面倒なんだって」 「あはは! 正反対ですね」 「だから多分#名前2#はさ、自分の願いは見てもらっても構わないって思ってるんだろうね」  ラズールさんの手によってくい、っと引っ張られたそれには「監督生が無事に戻れますように」と書かれていた。 「……#名前2#先輩って、そういうところがずるいですよね」 「よかったな、3人分の願いごとがかかって」 「3人分?」  ユウが七夕に願ったのは無事にグリムが卒業することだったのに。 「#名前2#と、オンボロ寮のモンスターくんと、ジャミル」 「ジャミル先輩?」 「あいつの願いは去年から変わってない。てか、多分ずっと同じ願い」 「……まさか」 「#名前2#の願いが叶うようにってそればっかりだよアイツは」