愛にはなりそうもない方のわたし

 俺の好きなものはねえ、#名前1#かなあ。  #名前1#がそのセリフを聞かされたのは秋学期に学校に残っていた時。友人のロイと徹夜でゲームをするために夜食を作りに入った食堂でのことだった。全然話すこともなかったリーチの双子にからまれるようになり「なんで!? 俺って何かしたっけ!!?!? 意味が分からない!!!」と泣き言を吐いていた#名前1#に友人が聞かせてくれたものだった。 「なにこれ」 「マジカメのストーリーズ」  そんなのはわかっている。なんで録音していたのかが問題だ。しかも投稿してるのジェイドだし。 「……?? 今のって幻聴? 雑コラとかじゃなくて?」 「残念ながら現実だ」  つらい。今作ってるペペロンチーノの辛さよりも心に響いた。フロイドに好かれるってつまりトラブルメーカーになるってことだ。絶対に嫌だ。#名前1#は決意した。あいつに嫌われるようになってやろう、と。ロイはそれを聞いてぱしゃりと写真におさめた。マジカメにハッシュタグをつけて投稿する。 #頑張れ#名前1#くん #フロイドくんとの勝負 #ばかばかしい  すぐにジェイドからの反応があった。フロイドが怒ってるのですぐに会いに行きますね。明日にでも、とコメントがついた。ロイはそれに了解という返信をつくり#名前1#と一緒に部屋に戻った。  長期休みに家に帰らないと料理などは自分たちでしなければならない。徹夜明けでも朝食を作らないと腹が死ぬ。もそもそと#名前1#は食堂のキッチンにやってきた。面白そうだ、とロイもついてくる。#名前1#はいつも不思議に思っているのだが、キッチンにいると自然とオクタヴィネルの三人がやってくる。何らかの陰謀があるのでは、と思っているのだがあいにくとそれはまだ判明していない。 #名前1#は彼らに嫌われると決意しても何をすればいいのかわからなかった。好かれるのも面倒だし、嫌われるのもある意味面倒なのである。自称ギークの#名前1#はフロイドたちにちょっかいをかけられるのが何よりも嫌いだった。ただ、お金を払ってちゃんと食事をもらおうとするのだけは肯定したいところだけれど。 「うん、いつも通りおいしいですね。どうです、このままモストロ・ラウンジでコックとして働くというのは?」 「いやいや、けっこーーです!!」  今のところ#名前1#は逃げの一手しか出せていなかった。何かやりたい。その気持ちはあるのだけれど、そのとっかかりもつかめていなかった。ロイは#名前1#の考えてることが表情から読み取れる。こいつめんどくさいこと考えてるなあ、と思いながらも何も言わなかった。 「俺ね、#名前1#がキッチンで音を立ててるのが好きなんだあ」 「へえ? 意外ですね、フロイドが音を気にするなんて」 「#名前1#はね、すごいんだよ。気持ちよくってわくわくする音も、落ち着く音も出してくれんの。魔法使ってるのかなあって思ったけどそうじゃないんだって」  あかんぼうか。#名前1#の突っ込みは心の中で消えてしまう。聞いていたジェイドとアズールはよかったですね、とにこやかに微笑んでいる。アズールの方はそのまま#名前1#を勧誘することをあきらめていないという顔をしていた。 「あーあ。俺、#名前1#がずっと料理してるの聞いてたらもっと頑張れるのになあ」 「いやです」 「えーーなんでぇ? #名前1#が嫌がるやつは俺が全員絞めてあげるのに。あっ、でも#名前1#の料理を客でくる奴らが食べるのも気に食わねーかも」  そのセリフを聞いてなんで俺が喜ぶと思ってるんだろう。#名前1#は一周回って心配そうな気持でフロイドを見てしまった。 「ねーねー#名前1#はどう思う? 俺たち以外に料理ふるまうのってさあ」 「……。あの、俺は今のままで十分なんですが」  今の、普通の、寮生のままがいい。お金をもらってたまに誰かのリクエストにこたえるくらいがちょうどいい。ちょっとうちの寮長ってめんどくさいけど、まあそれも許せる。そう思っての発言だったがフロイドはいきなり照れた顔つきになった。 「俺も#名前1#がゆっくりしながら作ってるの見るのが好きかなあ」 「なるほど、そこまで両想いとは知りませんでした」  ふっと、うさんくさい笑みでアズールがフロイドに微笑んでいる。ロイは静かに笑っていた。こんな茶番劇が広げられるなんて聞いてないぞ! ジェイドも一緒になって「よかったですね、フロイド」と笑っている。 「#名前1#さん、今後ともぜひフロイドに料理を食べさせてあげてください。今と、同じように」  後半の言葉を強調していってくるアズールに#名前1#は勝てなかった。うなだれてはぁーーとため息をつく。 「わかりました。どうぞリクエストしてください」 「えっ、いいの? じゃあ俺#名前1#にあーんってしてほしい!」  墓穴をほったのは#名前1#の方だった。ロイの腹筋は死にそうである。大声を上げずになんとか笑っていられるのも今のうちだ。フロイドも口に手を当ててのどを鳴らすようにこらえていた。 「……いいですよ、それぐらい」  #名前1#は死んだような目で答えた。  ロイが考えるに、#名前1#はフロイドといい相性だと思うのだ。ジェイドにそういうと「へぇー、意外ですね」となぜか彼の方が驚いたような声を出していた。 「いや、お前がけしかけたのに意外って……」 「いえ、僕はフロイドの恋を応援してるだけなので。#名前1#さんに関してはよくわからないということの方が多いです」 「あー、そういうことか」  #名前1#は潔癖症である。すごく強いというわけではないが、他人と同じものを共有するのは許せない人間だ。ロイのように付き合いが長かったり、なついている相手には許せるので潔癖症とは少し違うのかもしれない。本人の言なのでロイは気にしたことがなかった。 「あいつが自分と同じ大皿で食べさせてたり、あーんも許したってことは。つまり、あいつの方も嫌いなわけじゃないんだよ」 「……なるほど」 「まあ、フロイドに好かれるとリドルくんがうるさいからそれが嫌なのかもな。リドルくんのユニーク魔法は軽くトラウマってるぽいから」  ロイの言葉を聞いてジェイドは心得たようにうなずいた。 「わかりました。今の言葉、しっかりとフロイドに伝えておきます」 「え? あ、ああ……うん」  いや、あの後ろの陰にいるのってフロイドじゃないのかなーとは言えずにロイはこれ以上の面倒ごとに巻き込まれないうちにさっさと自分の寮に戻ることにした。