ぼくは絶対主人公にならない

 今の2年生は先輩方から「個性の殴り合い」と呼ばれているらしい。それを教えてくれたカーム先輩がいちばんこの学園の中で強めの個性を持っていらっしゃると思うのだが我慢した。カーム先輩を怒らせると怖い。カーム先輩も怖いけどファンクラブの方も怖い。  2年生。なんと寮長が三人もいる。リドルとカリムとアズール。これだけでもう凄いのだがまだまだある。シルバーとカリムのふわイラタイムだったり、規則の厳しいリドルだったり、ネコみたいに気まぐれなフロイドだったり。いつも疲れてしまう。うちは同学年がやばいというよりも、先輩と後輩がめんどくさい人がいっぱいいる感じだけれど。ラギー曰くポムフィオーレは魔寮らしい。失礼だ。ラギーだって……と思ったがレオナ先輩のパシリで大変だなあと思うくらいで……。あんまり、問題点がない、かもしれない。いや、彼の卑怯さ……わりとみんな卑怯だしなあ。  そんなことをつらつらと語っていたら話を聞いていたジャミルは笑って言った。 「いや、まあ#名前2#のところは魔って感じが似合う」 「ジャミルも失礼だな……」  ただ、失礼ではあるもののそれは正しくて何も言えなかった。というより、うちの同級生がうるさいのもある。  ジャミルはふっとかっこよく笑って俺に「ほら、早くノート返せ」と手を出してくる。ノートはまだ書き終わっていなかった。ごめん、今やる。ジャミルは「わかってる」と頷くだけだった。カリムに見せることも考えてかジャミルのノートはいつもきれいだ。これでカリムより点数が低いと聞いたけどそんなこともあるのか……と不思議になってしまう。  ……ジェイドと大喧嘩をした。元々オクタヴィネル寮のやり方は気に食わなかったがアズールは可哀想でしょうだなんてまるで悲劇のヒロインが恫喝するかのような口振りでジェイドが話しかけてきたのでそのまま喧嘩になった。フロイドは珍しくこの喧嘩に割って入ってこなかった。「めんどくせぇなあ」とどこかに消えたと思ったら同じバスケ部にいたジャミルを引き連れて俺とジェイドをひっぺがしたのだった。口汚くののしり合う俺らを見ていつもこうか!と叫んだがちょっとテンションが上がりすぎただけである。  ジェイドと俺とはそれ以来会話していない。全く、だ。元々そこまで関わるようなものじゃなかったが、大きな喧嘩をしたとあっては学園長も寮長も出てきてしまい俺はヴィル先輩から謹慎を命じられたのだった。謹慎中は勉強もなかなかできないのでこうしてジャミルに泣きついたわけである。カリムの方で忙しいんだ俺は!!と文句を言っていたがジャミルは何だかんだで優しかった。平均的な俺に頼ってどうするんだ、と卑屈っぽい表情も見せられたが二年生で一番信用できそうなのはお前しかいなくてさあ!と言ったらノートを貸してくれた。優しい。 「それにしても、ジェイドがあんなに喧嘩することなんてあるんだな。びっくりしたぞ」 「俺も。初めて見た」 「お前は喧嘩してた側だろうが」 「いや、なんて言うかさ。フロイドも絶対に入ってくると思ったんだけど素直に喧嘩させてくれたからさ。珍しいというかビックリしたんだ」  なるほど、とジャミルは頷いていた。話していたせいでペースが落ちたがなんとかノートを書き終えた。ありがとなジャミル!と手を握ると「カリムみたいなことするなよ……」と苦笑いで返された。今やったのはカリムじゃなくてカーム先輩の方である。発音だけ似ている。 「いいじゃん、握手ぐらい」 「まあ、お前に頼られるのはいつものことだしな」  ジャミルが笑っていうので俺も「それもそうだな!」と笑った。  寮に戻っていく#名前2#に手を振り自分もカリムの世話に戻ろうと思うと廊下にはジェイド・リーチが俺を睨んで立っていた。ギザギザの歯を見せてまるで不機嫌なフロイドだった。いや、双子だからこそ似た顔になるのか。忌々しいという視線で見るのは#名前2#ではなく俺である。 「どうしたジェイド」  挑発するようにわざと笑顔になるとジェイドはさらに陰を強くさせた。 「分かっているでしょう、#名前2#にベタベタと」 「それは残念だったな、まさか俺の方に来るとは思わなかったが」  我ながら白々しい言葉だった。低能な王をうまく指示していたというジャファー宰相には遠く及ばないような言葉だ。だが、今回はこの程度で十分だった。ジェイドは俺にまだ何か言おうとしていたが「あいつに話しかけなくていいのか?」と言うと黙り込んだ。ジェイドと#名前2#の喧嘩がなぜ起きたのかはどうでもいい。何かあったのだろうとは思う。ただ、ジェイドの目論見は外れて大喧嘩になり、#名前2#は俺の方に来たというわけである。#名前2#は俺たちの代はやばい、と言っていろんな人間の名前を挙げていたがいちばんヤバいのは#名前2#である。彼の心がほしくて罠をしかけていたのがこうやって2人もいたのだから。 「まあ、頑張って仲直りしろよ。それこそ、薬でもなんでも使ってな」  ジェイドが無言でマジカルペンを手にしたのでさすがの俺もここでさっさと部屋に戻ることにした。