「別に女がみんな馬鹿だって言ってるわけじゃないよ」「ただ馬鹿だなって思った相手がみんな女だっただけさ」
!ゾウの鼻さまの書き出しの言葉より 「別に女がみんな馬鹿だって言ってるわけじゃないよ」 「ただ馬鹿だなって思った相手がみんな女だっただけさ」 なんで俺を好きになったのか?と聞いたら「馬鹿じゃないからだね」と言った。男同士だとかそういう偏見はないのか?と聞いたらこの返事である。俺の恋人はどうしてこうも言葉がきついのだろう。不思議だ。 「俺、結構バカだと思うけど」 「そうだね。でも僕には女よりも君の方が好きってことさ」 不思議な告白だ。ルーク・ハントは俺に愛を囁くことがまるでルーティンであるかのように丁寧に愛を語る。彼の凄いところはそれが軽々しくならないところだった。そして俺がその愛の言葉について突っ込んだ時に彼はむっすりと不機嫌そうな顔になる。昔はよく「そうは言っても女の体に興味を持つこともあるだろ」と自嘲の言葉をぶつけていた。今思うとあれは俺の心を慰めるためのものだった。ルークはいつだってターゲットを見つけたらそれに一直線であったし、俺が飽きられる日もあるのではないかと怖くなっていたのだと思う。ルークはその綺麗な顔をくしゃりと歪ませる。ヴィルに怒られるので普段から表情筋には気をつかうルークが、である。最初は自分の言葉が遮られるのが嫌なのかと思っていたが、むしろこれは「俺がルークの言葉を信じていない」ことが嫌らしいと途中で気づいた。ルークからしてみれば気づくのが遅い!!と怒るべきことだろうが、#名前2#はその時初めて自分からルーク・ハントに愛を囁いた。 「俺もお前のことが好きだなあ」 はにかむようなその微笑みにルークは顔を真っ赤にさせた。ほんとうに?と尋ねる。#名前2#は笑いながら「本当だよ」と頷いた。 「僕の方が、君のことが好きだよ」 小さく細くなった声でルークは囁いた。それは向かいに座る俺にギリギリ聞こえる声だった。ルーク? 名前を呼んだ。ルークはいつもみたいに笑って「なんだい?」と返事もせずにもぞもぞと顔を袖で隠そうとする。 「ルーク。ルーク・ハントさんやーい」 「ああ、もう! 今僕が恥ずかしがってるの見えない!?」 「見えてる」 「……! もう!!」 だって、お前のそんな可愛い顔は初めて見たよ俺。うそ。いつも可愛いけど、昨日のルーク・ハントよりも可愛い顔を見せてくるからルークって不思議だ。 ルーク・ハントの愛の言葉はとても軽い。ルークにとっては「愛の言葉」というものは常に世界に浮遊しているようなもので、そこに深い意味はなかった。愛情を自分で持っていても仕方がないからあげる。#名前2#は好きな人だから特に多くあげる。そんな気持ちだった。#名前2#がそれを受け取ってくれなくても、突き返されることはなかったので。その愛情を嫌がられることはなかったので。ルークはその日も愛をつぶやいたのだ。 なのでルークには男だとか女だとかの好みは一切なかった。#名前2#が「女じゃなくてよかったのか?」「男同士に偏見はないのか?」と聞いてきても#名前2#と同じでそんなのは最初から気にしてない、というのが正しい言葉だった。 ぼくにはきみしかいないよ。 いつもの言葉は水素みたいに軽くてふわふわ浮いて#名前2#の胸を通り過ぎていく。ルークの愛の言葉は#名前2#の胸にはとどまってくれない。いつも#名前2#は疑っている。今回も僕の言葉はあの部屋の隅っこあたりでぷかぷか浮いてホコリや蜘蛛の巣みたいにつかまってるのかなあとそんなことを思ったのに。 「俺もお前のことが好きだなあ」 一瞬、その部屋の陰りがなくなったかのように見えた。#名前2#は酔っ払いみたいに顔を赤くさせて恥ずかしそうに笑っていた。ほんとうに?と小さく聞いてみたら#名前2#は「本当だよ」と頷いた。 だって、あそこにあったよ、僕の言葉は 君は僕のことも信じなくてただ、なんとなくで付き合ってたんじゃないのかい 胸の中でぐるぐる動いた言葉と口から出てきた言葉は全然違っていた。 僕の方が、君のことが好きだよ 僕の方がずっと、ずっと君に渡すための愛を持ってるんだ。そんな一言で終わらないぐらいに、そんな笑顔で収まりきらないものを持ってるのに。どうして今、こんなに負けたような気分になるんだろう。