Stay Home

コロナウイルスが流行ってる時間軸ということでよろしくお願いします  ゲームよりも前の話  なにか今回のリアルの騒ぎでトラウマがある人、不快な思いをされたことがある人は読まない方がよいかと思われます。 ✂ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー✂ 「#名前2#ー、いいよ、どうせあいつらは家にいられるんだからさ」 「そうは言ってもお前だって心配なんだろ」 「は、はあ!? 心配じゃねえし!!!」  不要不急な外出は控えなさい、と言われているこのご時世。外にいるのはほぼアンドロイドたちである。家に入る前には普及されたアルコールを振りかける。人間にかける数が減るので楽なのかどうなのか。既にアンドロイドにどっぷりと浸かっているこの世界では数値の上でしか比較できないがおそらくはコストパフォーマンスがいい、と言われている。  それなのに俺たちは人間の男二人でとある場所に向かっていた。マスクをつけてフェイスガードも一応つけているが効果があるのかは知らない。アンドロイドは別に呼吸などもしないからだ。俺は友人の父親に会いに行こうとしていた。俺の方から誘った。「こんなご時世だからどさくさに紛れて会いに行こうぜ」と持ちかけたのだ。  これはコロナウイルスが流行っているから誘った訳では無い。レオを誘うきっかけとしてコロナウイルスがあったのだ。俺はこの騒ぎでカールはどうしてるか心配じゃないのか、とレオを焚きつけたのだ。レオは驚くほど簡単にこの煽りに乗っかった。それを見てレオは本当に大丈夫なのかちょっと心配になったけど言わなかった。  カールには既に連絡を入れてある。デトロイトは感染者数は少ない。コロナウイルスの影響もあってかむしろ事件や事故も減ったと言われているくらいだ。だが外を出ると怒られるのもまた事実。SNSの発展は争いの種を拡散する力も持っていた。アンドロイドたちを使ってわざわざその火種を探すバカもいるのだ。不要不急の外出をすると嫌味を言われてしまう。だから出歩くのには多くの人が慎重になっていた。マーカスは最初は反対していたそうだがカールはOKをくれた。  家族のことにとやかく言うのは俺の主張に反するのだが、友人としてレオを心配するのもまた事実だった。  友人のレオは大人になってもアンドロイドにどこか引け目を感じている男だ。彼とは高校からの馴染みである。俺の家は母によってアンドロイドがやれることは人間でもやれるようになれ、と命令されておりアンドロイドはほぼ家にいなかった。レオの方は父親が脚を不自由にしてからはアンドロイドを家に入れるようになったらしい。細かなことは知らないがレオにとっては「父親の理想の息子」がアンドロイドであると思っていつもイライラさせられるのだそうだ。俺も一度そのお父様と話したことがあるがあの人は子どもに優劣をつけるタイプではないと思う。人には人のやり方があるし、マーカス(これはアンドロイドの名前)にはマーカスのいいところ、レオにはレオのいい所があるから成長してほしいと思っている。アンドロイドに成長を求めるという人は俺の人生では初めて会う人だった。カールは優しいけれど厳しさもある。そしてレオはその厳しさのところで心が折れてしまったのだと思う。  レオがどんなに頑張っても機械的で絶対的な正しさを見せつけてくるマーカスは目の上のこぶのように邪魔だったのだろう。レオはマーカスのことが嫌いで、そのまま、アンドロイドも嫌いになった。彼と仲良くなったのは俺の家にはアンドロイドがいなかったから。アンドロイドに世話にならないなんて最高じゃねえか!と向こうから話しかけてきたのだった。俺とレオは正反対の性格をしているがそれなりに仲良くできるのは俺もレオも一番最初に悩みを分かち合えたからだと思う。俺たちは自分の家族が苦手だった。  カールの家に行くとマーカスが出迎えてくれた。カールはどこにいる?と聞くとスタジオにいます、と教えてくれる。  ガラス張りの太陽光が差し込むこのアトリエはコロナ対策によって急遽植物園の温室のようにデザインされたのだった。マーカスが手配したがそのデザインを決めたのはレオだった。マーカスから連絡がいくとレオが絶対に怒るので俺を経由して連絡したのだ。レオは「俺はこれが好きなんだよなあ」と選んだものをカールに見せたら「いい趣味をしているな」とほめてくれた。感性が似ているのか本当にそれが分かっているのか、カールはにこにこと完成したガラス張りの天井を見ていた。  カールはあの機械で宙に浮いて絵を描いていた。俺は素直に「芸術は分からない」と言っているがレオはそれを言うのも恥ずかしいらしく「まーた変なもん作ってんのかよ」と言う。カールにとってはその素直な言葉の方がよかったりするんだと思う。もしくは息子からの言葉に嬉しさを感じているのか、ふふふっと笑ってアームから下りてきた。 「来たな、二人とも。アルコール消毒は済ませたのか?」 「来た時にぶしゅっとね」 「やらされた」 「やりました」 「はははっ」  カールは大声で笑ってレオに自粛生活は大丈夫なのか聞いていた。レオは人が見てないところですぐに食生活を悪くさせてしまうので俺もカールも心配なのだ。カールはレオの体をつつく。レオはそれから避けようとするけどこのスタジオにはものがいっぱいあって避けるのも一苦労だ。カールは器用に車いすを操りレオを追いかけた。 「うわ、レオ、こっち来るなよ」 「うるせー、お前も逃げろ!」  マーカスがカールの後ろについたらもう無敵だった。鬼ごっこのように俺たちはすぐに負けてしまった。マーカスはアンドロイドだから息を切らすことも汗をかくこともない。俺とレオがぜーはー言っているのに一人涼しそうな顔でしゃがむ俺たちを見ていた。 「鈍ったな、二人とも」 「まるでラプンツェルのように過ごしてたからな」 「彼女は人を一人、塔の上連れてこなかったか?」 「女一人でやべえだろ。あいつ、もしかしてアンドロイドだったんじゃねえか」 「それはないでしょう」  俺とレオのふざけた会話の中にマーカスはあきれたような声で入ってきた。いつもこんな正論パンチしかない返事だったらレオも参ってしまうだろう。小さなことだがレオにとってはかなりのストレスだ。ぽん、とレオの肩を叩き4人で部屋に戻った。  汗をかいてきもちわりー、と言うとカールが風呂を貸してくれた。家に帰りますよ、と言ったがレオはあっけらかんと「あ? 聞いてねえの?」と言い出す。 「は? なにが」 「……親父」 「言ったら断られるだろうからな」 「いやいや、あの何がですか?」 「最近の騒動で忙しいでしょうからこの家に一緒に暮らしたらどうでしょうか、と提案しました」 「……マーカス」 「はい」 「え、それって、え……??」 「レオのついでだ。君の生活も心配だからな」 「いやあ、そんな心配せずとも俺レオよりちゃんとやれますよ!?」 「おい、俺をダシに使うな」  そのあと、在宅ワークだとか色々と理由を探したのだが笑顔のカールと俺を置いていくんじゃねえという強い意志のレオとに引きずられて俺もこの騒動の間だけ家に住むことになった。  キュルキュルとLEDライトが光っている。レオはアンドロイドたちの規則だとか正論だとか正しさに基づいた一辺倒の返事が大嫌いだった。彼らのその言葉になんど自分はぶつかり、ぶちのめされたのか。数えればキリがない。それでも#名前2#と一緒にいる時のマーカスは嫌いではなかった。シャワーを浴びた#名前2#にそわそわと話しかけようか考えているマーカスの頭にはきっと選択肢がいっぱいあるのだ。#名前2#に向けての正しさとはなにか分かっていないから。 「マーカス、俺ってどこに泊まればいい?」 「俺の部屋の隣が空いてるだろ」 「掃除すっかあ」 「あ、いえ。もう既に用意はできています。ゲストルームが」 「そうなんだ?」  #名前2#はマーカスに用意された洋服に着替えて親父に話しかける。俺のこともー、という話が出ているからまあただの挨拶だろう。話しかけることも出来ずに終わったマーカスを見て俺はニヤニヤと笑ってしまった。 「おい、マーカス。あの洋服お前が買ってきたのか」 「? そうですが」 「#名前2#、あいつはピッタリした服は嫌いだぞ」 「!! そう、でしたか」  前までの#名前2#は着ていたが「あの服着てると後ろ姿がアンドロイドみたいに思われるんだよな」と言い出したので最近はゆったりしたシャツやパーカーを買いに行かせている。マーカスは最近の#名前2#は知らないからしょうがないのだが、めちゃくちゃ悲しそうな顔をしていた。言うなればご主人の機嫌を取れなかった犬っころである。マーカスがまたなにか言いたそうに#名前2#の方を見る。それが面白いけれど同時に気持ち悪さもあった。アンドロイドが人間に恋をするなんてそんな馬鹿げたことがあるか? 「レオ、あんまりマーカスをいじめるなよ」 「ああ? いじめてねえよ」 「レオはそう言って人に嫌なこと言うだろ」 「言ってねえし!!」 「はいはい。そういう事にしといてやるよ」  #名前2#に引っ張られて部屋に荷物を置きに行かされる。アンドロイドと生活してないもんだからすぐに自分でやろうとする。俺なんかよりも#名前2#の方がよっぽどマーカスにいじわるだと思うんだがな。  家にいなければならないというのは存外に退屈である。一人の時はそれはもう自堕落に過ごしていたのだが、ここに来てからはマーカスとカールという「家にいることに慣れてるもの」の圧力が強い。レオが俺のことを巻き添えにしたのも何となくわかった気がした。ただ、ふとした時にマーカスは俺のことをよく見ているなと思う。レオに対してはカールの性格が引き継がれているのかそういう機種なのか厳しいのがデフォルトなのに。  これなんかオススメですよ、と渡された詩集に外で買ってきたのだろう花を渡されたらさすがの俺も「あれ……?」と思った。それをちゃんと口にするのも危ないかも、と思い言わなかったのだが。 「あいつ、どう見てもお前に惚れてるだろ」 「…………アンドロイドがぁ?」 「アンドロイドだろうが恋もするんじゃね?」  今見てるのは形もないAIに恋する男の話だけどな、とレオが付け足した。俺の方からマーカスに惚れるのなら、何となくわかる。そういうこともあるのだろう。だが自分の場合はアンドロイドの方から、である。あの、あの、人工知能たちだ! 「フィクションの中の人工知能とアンドロイドって違うじゃん」 「まあな。それは言えてる」 「あいつらって情緒的には赤ん坊と同じじゃん。絶対にそれって恋愛かどうかなんて分からないじゃん」 「案外そうはならないかもな」 「は? どういうこと」 「お前がさっき自分で言ったんだろ、マーカスが花と詩集渡してきたって。それ、ロバート・バーンズだろ」  レオは普段の粗野な性格のせいで忘れがちだがいい芸術資本に囲まれたおぼっちゃまである。何が言いたいかと言うと、幼い頃の何でも興味を持っていた時期に素敵な品の良いものに囲まれていて、その資本を彼は腐らせた。そしてそれをたまに出してくる。みんな知ってんだろ、と言うように。俺はロバート・バーンズについてはオールドラングサインを作った人らしい、ぐらいしか知らない。  俺が黙ったのを見てレオは大人しく詩集を開いて見せた。タイトルは「ア レッドレッドローズ」だった。 「ここにさ、6月の恋人の話が出てくんだよ。恋人はまるでバラのようってな」 「………それで?」 「だから、バーンズの詩に合わせてあいつがバラを買ってきたのならそりゃ恋じゃなくてどうすんだよって話だよ!」  まるで犬のような叫び声だった。どうするとは、つまり俺の身の振り方のことだろう。どうしよう。恋とか愛とかそんな綺麗なものに人生を捧げることは無かった。いつだって何かに必死で恋人なども置いてけぼりにしてきた自分に恋をしたのはアンドロイド。いくらなんでも面白すぎる。 「前向きに検討するよ」 「げっっ、マジで言ってる?」 「言ってる。ていうかレオが先に言い出したんだろ」 「うーーわ、言わなきゃ良かったな」  レオは笑いながら「まあ頑張れよ」と声をかける。こういうところでフラットな生き方になれるのは尊敬する。レオはなんだかんだ言ってもカールの息子だなと思った。