こころがこもったことを言う
※創作監督生(♀)が出てきます 「ユウー!」 「あ、先輩」 あのオンボロ寮の監督生はこのナイトレイブンカレッジでは唯一の女性である。長い金髪をなびかせて、サムの店で買い付けたマニキュアをつけて、渡されたスカートをわざと短くはいて歩いている女性である。彼女は別の世界から飛んできたというらしいが#名前2#は詳しいことはよく知らない。彼女が誰かから性的な目で見られていたりする時は守ったりしているが、彼女の好きな食べ物も得意な教科なども知らなかった。ただこの学園では珍しい女性に話しかけてみたらOTAKUについて彼女は存外に詳しかった。#名前2#はとにかく彼女に話しかけていたが、その線引きもあったことは確かである。#名前2#はある意味学園内でいちばんユウと近くていちばん遠かった。 ある者は女と話したいだけだと笑っていたし、ある者は彼女をちゃんと守らないなんてと憤慨していた。渦中の人物であるユウとしては#名前2#のような学生はいるものだと思っていたし、下手に女扱いしてなあなあと遠ざけるよりも楽だった。 #名前2#がきたら話しかける。来なかったらスルーする。そんな関係だった。 「見てみてこのマスク」 「あ、すごい。スパイディだ」 「ねー! うちの寮生でめちゃくちゃ絵を描くのが上手いやつがいてさ、お願いしたら頑張ってくれた」 じゃーん、とマスクを付けると赤い布地と白い肌とが映えているようでダサかった。あっ、このマスクは観賞用だわ、とユウは心の中で思ったが#名前2#はニコニコと感想を待っている。 「あの、残念ながら……つけてもスパイディみたいにはなれないっぽいです……」 「それは分かってるけど! えっ、ダサい?」 率直にいえば……とユウが頷くと#名前2#はとても悲しそうな顔をした。ゲームのキャラクターのように顔が動いている。見ていておもしろかった。 「そっかあ、じゃあ部屋に飾っておく」 「そうした方がいいです」 #名前2#はマスクを外すと胸ポケットにしまいこんだ。オクタヴィネル寮に戻るというのでモストロラウンジでなにか奢ってくださいよ、と頼んでみた。 「いいよ、何が飲みたい?」 「えっ、いいんですか。じゃあジンジャーエールでいいです」 「じゃあってなんだよ」 変なやつだなあと#名前2#は笑いながら行ってしまうがユウは適当に言った言葉が本当に叶えられるとわかって足が重くなる。うーん、このまま行っていいのだろうか。この前の事件でアズールのオーバーブロットの暴走を止めて以来オクタヴィネル寮の人間とは話していなかった。#名前2#以外は。 あの事件でアズールはユウに嫉妬していた。#名前2#さんは僕らの先輩なのに、と。大事な先輩を取られたかと思った彼らにはちょっとだけ申し訳ないことをしたと思う。でもまあ、時間もあいたし大丈夫だろうなんてユウはのんびりと考えていた。 「いらっしゃいませ#名前2#さん!」 「珍しい、双子がそろってる」 「#名前2#さんじゃーん、ここにお客で来るのは久々だねぇ」 「ユウが奢って欲しいって言うからさぁ」 #名前2#がそう言った瞬間に双子ふたりの視線が鋭くなってユウにぐさぐさ刺さった。くそ、こいつら嫉妬心が激しくないか。ユウはいじめられて泣くような女ではない。ぎゅ、と#名前2#の腕をとり体をくっつける 「先輩、わたしジンジャーエールが欲しいなぁ!」 「あーはいはい」 #名前2#がユウの頭を撫でて「席に案内してもらえるかな」と笑いかける。まるで援助交際の男女の姿である。この世界にエンコーがあるのかユウは全く知らないけれど。 ユウはいつもは座らない高そうなソファー席に案内されて本当にこいつら#名前2#には甘いよな、と双子を睨む。何度も言うが#名前2#とユウとは1番仲がいいわけではない。それをこの双子は勘違いしているのだ。 「#名前2#さん、来ていらしたんですね!」 問題のアズールが来た。ユウにとってはいちばんめんどくさい男が来た。アズールはニコニコと笑いながらユウとは反対隣に座る。しなだれかかる姿はまるで恋人か何かのようだけれどアズールと#名前2#とはそんな関係ではない。ちゃんと知っているのだ。 「可愛い後輩に奢りに来たんだけど。ジンジャーエールふたつ頼む」 「はい、注文しておきました」 まるで健気な乙女である。アズールのその姿を見ていると面倒臭いを通り越して可哀想な気にさえなってくる。#名前2#にはアズールもあの双子も弟のようにしか見ていないのに。双子がにこにことしながらひとつずつジンジャーエールを持ってくるのが見える。#名前2#には冗談でもモストロラウンジに連れてってなんて頼むもんじゃないな、と思った。