古い写真と煙草ひと箱

 家の整理をしていた。あまりにもものが多すぎる!と怒った姉が俺を連れ出して家の整理をさせていたのだ。母はすぐに「あれは捨てるな」「これはお気に入りだ」と言い出すので実働部隊は俺と姉の2人のみだった。  押し入れからでてきたアルバムは一見そうは見えなくて危うく捨てるところだった。中身は父と母の結婚式の写真だった。2262年の結婚になる。今から50年前の結婚式だ。父も母も若かったし化粧のノリも今とはやはり違っていた。これが当時の流行だったのだろう。むしろ対面で結婚式を挙げるのも減ってきている今を考えると、結婚式をあげることが夢であったという昔って本当にすごい。 「ちょっと#名前2#! 仕事してよね」 「姉さん、見てこれ。あとで父さんたちに見せてあげようよ」 「へー、結婚式の写真なんだ。あ、これ、セガキおじさんじゃない?」 「本当だ」  わいわいきゃーきゃー言いながら姉とアルバムの写真を見ていた。知っている人も知らない人もいる。もしかしたら最近はやりの皮膚形成をしていて顔が変わってる人もいるかもしれない。 「ねえ、この人」 「なになに」 「この人、ちょーーイケメン!!」 「なんだ男か」 「これは至宝のイケメンだ……。やばい、ほんとやばい。えっ、白いコートに黒いサングラスに柄シャツって完全に結婚式に来る姿じゃない」  やべえやつじゃん、と思った。父か母かどちらかがそんなやばい男と関わっているのか、と思い姉の騒ぐ写真を見てみたらどこかデジャヴを感じる男がいた。 「………??」  姉はまだ騒いでいるがそろそろ動き始めるだろう。アルバムはひとまず置いといてさっさと片付けを終わらせることにした。  母は写真を見て「やだ、なにこれ! イケメン………」と目を輝かせて父を困らせていた。父は自分の顔がコンプレックスでわざわざ皮膚形成によって顔を母のために変えていた。それを知っててわざわざ「イケメン」と喜ぶ母のことをどうかと思いながら「知らない?」と聞いたら「全然」と首を振られた。 「俺も知らない人だな」 「これちゃんとした結婚式なんでしょ? 部外者呼んだって知ったら大事じゃん」 「いや、あの時は同時に式を挙げることも多かったんだ。金もなかったし。もしかしたらもう1組の結婚式の招待客がここに来たのかもしれない」  父の言う言葉に俺もひとまず納得して家に帰宅した。姉はまだあのイケメンが気になるらしく「絶対調べるんだから!!」と叫んでいた。俺も感じたデジャヴが気になる。どこで見たのかは覚えていない。まあそのうちに思い出すだろう、とのんきに考えていた。  そのイケメンが話題にあがったのはそれからすぐのことだった。姉からチャットで送られてきた俺の結婚式の写真に彼がいた。両親の写真に映りこんだ時と変わらない姿で木々の合間に隠れて立っていた。 「ねえ、彼って」  姉は多くは語らなかった。俺は心霊写真だろ、と受け流すことにした。今日日、心霊写真なんて言葉はほぼ使われていない。姉はそうだよね、と苦笑いで頷いたがそれでも心配そうな表情は変わらなかった。  その日の夜、俺は自分の持っている写真を見比べてみた。驚くことに男は俺の持っている写真に何度か現れていた。洋服はいつも同じだ。白いコートに柄シャツ、黒いサングラスだった。もうこれは心霊体験として2300年代の奇跡としてなにか形に残しておきたいレベルだった。昔は霊力だとか審神者だとか色々と言われていたらしいがもう今はそんなことも言われなくなっていた。お祓いなど何百年と昔の仕事を頼む人はほぼいなかったが受け継がれているのは知っている。なんとか都合をつけて会いに行くとしわくちゃなおばあさんに出会った。口コミでは高評価だったし、サクラチェッカーを使ってもクロではなさそうだったので信頼しているが実際のところ心霊写真というものは初めてで効果があるのかないのかはよく分からなかった。  おばあさんは俺を見て目を見張った。 「そう、彼に憑いたのねえ」  おばあさんの言葉は俺ではない誰かに話しかけていた。怖かった。ばしん、と机を叩くとおばあさんはびっくりしたように俺を見た。 「悪い人じゃないのよ」  暖かで穏やかな笑みなのにその奥にあるのは何か蠢いてるもののような気がした。怖くなり、俺は適当に1万円札を置いてその場所をでてきた。  今にして思うとあの場所はどこだったのか、記憶にかすみがかって思い出すことができない。なぜこんなことをちゃんと順序だてて思い出しているのか。それは、俺の視界にあの見覚えのある白いコートがあったからだ。俺はあのおばあさんにもう一度会わなければならないだろう。悪い人じゃないって、それは。本当に信用に足りるのだろうか。聞かなければなるまい。