このままの僕を愛してもらうよ

!義父×義息 !とある女性が死んだ(明言はしてないけど察してしまうかもしれない) !不穏な家族 !未成年の男と成人済女性の婚約 など色んな地雷を踏みそうな内容です  娘が、クローバーさんちの子どもを彼氏だと紹介してきた。珍しく家に来たいというから何かと思ったらそういう話であった。家にあげると2人は落ち着いたように家の中に入ってきた。クローバーさんと言えばおいしいケーキを作ることでここらでは有名な家である。私も月に一回、ケーキを買っている。  トレイだったか。品行方正で、ナイトレイブンカレッジに通い、将来も安定していそうな若者だった。私は娘に「彼氏だ」と紹介されたはずなのに彼の中では結婚することも私を義父と呼ぶことも確定しているらしかった。彼の口からは簡単に結婚という言葉が出てきたのだ。魔法士たちは強引な人間が多いのは覚えているがまさかこんなところまで強引だとは知らなかった。 「お嬢さんを、必ず幸せにします」 「……娘を、よろしくお願いします」  私は妻の分まで彼に頭を下げた。娘はありがとうお父さん!と喜んでいた。  ナイトレイブンカレッジは寮生なのによく娘と出会う機会があったな、と思ったが学園が開かれる日はいくつかあると聞いて私の世代と娘たちの世代では学校のあり方も全く違うのだと恥ずかしくなった。ここで「私たちの世代」の話をするのは何だか古臭く怒られそうだと思った。 「開かれると言うと……マジフト大会などでしょうか」 「はい。生憎と今年の大会はトラブルが起きて大変なことになってしまいましたが……」 「トレイくん、マジフトも強いんだ」 「そうか」  私はマジフトは好きではなかった。あんなに野蛮なスポーツがなぜ人気なのだろうと思うことさえあった。妻はマジフトが好きだった。フィールド全体を見ている、というのはこういう人を言うのだろうと思った。娘は妻とよくマジフトを見ていたのできっとそれに釣られて行ったのだろうと思う。私は娘のことをよろしく頼む、と言うだけにしてあとは娘とトレイの話を聞いていた。  トレイが笑う度に娘は少しだけ間を置いた。そして私の方を見てゆっくりと微笑むのだった。その意味を、私はついぞ知ることがなかった。  彼らが居なくなったあと私は妻の写真の横に娘のウェディングドレスを着た写真を置くことを夢見ていた。あの娘が結婚するのか、と思うと変な気持ちがした。  それにしても。自分より何歳も年下の彼氏を連れてくるとは思わなかった。数えてみたら6歳差……? 娘は既に働いてることを考えてみてもすごい選択をしたと思う。私はあえて文句を付けなかったがこれが正しかったのかよく分からなかった。  娘たちの交流がいつから始まっていたのか分からないが終わりは突然にやってきた。娘は突然失踪したのだ。私は結婚の話を楽しみにしていたクローバー家に頭を下げた。というのも、結婚の準備などは着々と進められていたのである。周りにも既に「#名前2#の娘とクローバーの息子が結婚する」という噂が立っていた。  謝罪のため、必死に取り繕ったが彼らは不思議なことに私とは温度差があった。仕方ない、そうなるだろうと思ってた。ヴァレットの言葉に私はどういうことだ、と詰め寄りたかった。娘がいなくなることが当たり前のように言われたのだから。だが、未成年の青年と結婚の約束を結びつけたのはうちの娘である。非常識なことをしているのはうちのほうだった。それを責められてもおかしくないのだ。私はふたたび謝り家を出て行った。  ケーキを買う楽しみもなくなり、私は仕事のために外に出るくらいしかなくなったのだが家にはなぜか月に一度ケーキが届けられた。手紙はそれよりも頻度が高く週に一度送ってきた。娘の元婚約者と呼べばいいのだろうか。彼がエックスとなる前に終わってある意味よかったのかもしれない。トレイ・クローバーはなぜか私のもとに手紙を送ってきたのである。ケーキはどうやって届けているんだろう、と一度聞いてみたら学校の教師のユニーク魔法に頼っているらしい。便利なユニーク魔法があったものだと思う。  彼の手紙はまるで自分の親にあてるかのようなものが多かった。学校の日常を語り、#名前2#さんは元気ですかと結びの一文がつけられている。私はそれにいつも返せるわけではなかった。書くことがなかったのである。私の手紙の遅さにあきれないかと思ったがトレイはめげなかった。私の好きなものやケーキの味を聞いてくるようになった。父もあなたが来ないことを心配していますよ、とも言われた。ヴァレットのことは何か月もすれば私の中で割り切った考えができていて、また行ってみるという返事もできた。  トレイは楽しそうに手紙を書いている。あの状態の彼を邪魔するとねちねちと怒られるのは知っていた。そんな彼に声をかけても許されるのは寮長のリドルくらいである。 「トレイ、すまないがちょっと仕事があるんだ」 「お? あー……緊急なんだな?」 「学園長がため込んでいたものが発覚したらしい。うちは確認すべきことが多いから手伝ってほしいんだ」 「わかった」  リドルはトレイが寮にずっといるのを見るのは久々だ、と笑った。ここ最近、オンボロ寮でファレルの仕事をずっと手伝わされていたのである。トレイがいて珍しいと声をかけたところケイトはトレイにめんどくさい絡み方をされたという結末である。リドルも内心ちょっと怖がっていたが寮長としての矜持がビビるなと背中を押してくれたのだった。 「あ~~、実はちょっとファレル先生に個人的なお願いしててさ。それでずっとオンボロ寮にいたんだよな」 「ああ、先生から聞いてるよ。ファレル先生のご迷惑になってないだろうね」 「もちろん」  その頼み事と楽しそうに書いている手紙が関係があるのはリドルも知っている。それを聞くのがまずいということも。むずむずと湧き上がる好奇心もあったがファレルのほうも「何も聞くな」と言っていたので我慢する。 「いつか、」 「ん?」 「話すことがあれば教えてほしい」 「……。ああ、絶対に」  そう言って笑うトレイの顔はやけに晴れやかでリドルはきっといいことがあったのだろうと錯覚してしまった。翌日、リドルはファレルがトレイに何かを渡しているのを見てしまった。それは女性向けではないかと思われるデザインのアクセサリーだった。トレイが好きそうな柄ではなかったのでよく覚えていた。 「ああ……すみません。ありがとうございます」 「いや、なに。これがあった方が都合が良くないか?」  彼らのその言葉はよく分からなかったが1週間ほど後に自分たちの故郷の女性が一人失踪し、自殺していたことが報道されたのだった。彼女のものと発覚するにあたり、証拠としてあげられたのはあの日リドルが見たアクセサリーだった。