ほら見て、これがわたしの宝物

!女々しい赤井さん !バスジャック事件くらいの時系列 彼に傷つけられた傷跡が愛しい。鏡でそれをじっくりと見つめていたら鏡の中の男は満足げに微笑んでいた。首につけられた傷はまるで首輪のようだ。恋人に強制的にたつけ傷は 「秀一? 何してるんですか」 「ああ。いい傷だと思ってな」 「……。はあ」 #名前2#は心底わからないという顔を見せた。日系アメリカ人である彼はたまに日本人のような仕草をする。すいません、痛かったですかと聞かれて何と答えようか迷った。痛かったと言ったら#名前2#はもうつけてくれないかもしれない。痛くなかったと言えば被虐趣味を疑われ終いには#名前2#は自分と距離を置く気がする。 「……。まあ、いいです」 「すまん」 「分かってて付き合っていますから」 この物言い。時に#名前2#は赤井という男を皆との共用物のように扱う。今だけ独占している。これが終わればまた皆のものになる。そんな考え方なのだろうか。 赤井にはもう#名前2#から離れることなど出来ないというのに。#名前2#はそんな赤井の考えを知ってか知らずか背中を押した。早くしないとジョディたちに怒られると言うが、彼女のはただの嫉妬だからそのままにしておいていいと思った。 #名前2#には日本に妹がいる。可愛い妹さんだ。しかも血が繋がっていない。最初見た時は浮気かと思った。自分を捨てないでほしいと思わず泣いてしまった。#名前2#は「妹ですから」と言ったが信用出来なくて調べあげてしまった。血の繋がらない兄妹。日本の法律では結婚することも可能だ。 妹さんを紹介された時もひどかった。 「秀一、妹の春香です。春香、こちらはパートナーの赤井秀一」 「……#名前1#春香です。お兄ちゃんを、よろしくお願いします」 その時の妹の顔は苦虫を噛み潰したようなひどい顔だった。気分はホームズ、ワトソン、メアリのようなものだった。立ち位置としては自分がメアリか。だが推理力はホームズの方だろう。 「君は兄を好きだったのか。残念だが、お兄さんは俺がもらう」 頬を叩かれた。水がかけられる。兄妹は似た者同士だった。店員が近づいてくる。俺たちは逃げるようにその場を立ち去った。 その晩、ひとりで家で#名前2#の帰りを待っていた。#名前2#は妹を家に送ったら話し合おうと言ってくれた。すぐに帰るとも。だが#名前2#は帰ってこなかった。いつ帰るか分からないからと待っていたが得られたものは冷えと疲れで弱った体と略奪されたかもしれないという怖さだけだった。 寂しさで涙が溢れた。なぜあの時あんな言葉をかけてしまったのか分からない。自分でも分からないのだ。ホームズたちのようだと思ったから? いや、あれはただの考えであって自らをホームズと呼ぶためにあんなことをしたのではない。 #名前2#が妹をエスコートするのに腹が立ったから? ああいった場ではそうなるのが自然だ。アメリカでだってジョディをエスコートしていたり、おとり捜査の時はもっと色々としていたのに。 #名前2#を取られると思った? それは誰に対して? 普通、そんな考えを持つのは妹のはずだ。なぜ赤井の方がそんな考えを持ってしまうのだろう。 「#名前2#……」 呼んでも返事はこない。#名前2#は自分のことを愛しているのか分からない。心配になる。怖くなる。#名前2#はいつも大事なところで1歩を引きずる。わざと引き摺らせた足なのに「ごめんね」と謝ってやめてしまう。謝るくらいならやめないで欲しい。もっと欲を持っていい。もっと言葉にしていい。遠慮なんか捨てればいい。そう思うのに#名前2#はいつまで経っても「みなの赤井秀一」を抱いていて、今だけ今だけと我慢してしまう。 考えていたらまた涙が出てきた。歪な恋人関係はこのままでは破綻してしまう。そしたら、きっと#名前2#は赤井を手放してしまう。彼曰く開放というやつで、自分の言葉に置き換えると捨てられるのだ。 「ただいま」 「……#名前2#。帰ってきてくれたのか」 「遅くなりました。妹と話し合ってたらこんな時間に…」 妹。その単語だけでずきりと胸がいたんだ。#名前2#は自分を捨てるかもしれない。芽生えた予感は全く消えてくれなくて、#名前2#の顔も見るのが怖くなった。 「俺は別れないからな」 「え?」 「お前が逃げようと、俺は追いかけるからな。お前を犯罪者に仕立てあげてでも、お前を、そばに……」 本心ではない言葉がつらつらと流れていく。#名前2#は立ったままだった。そして何も言わずにスーツを脱いでジャケットをハンガーにかけた。ネクタイを外す音がする。しゅるしゅると布が擦れる音だけが響くのは官能的だが受け取る方は全くそんな気分になれなかった。 「秀一。何か勘違いしてますが、別れるなんて思ってませんよ」 「嘘だ」 「嘘じゃないです。ほら」 手を取られて#名前2#の脈をはかった。普段通りの鼓動だ。そこで初めて#名前2#の顔をちゃんと見た。湿布が貼られていた。 「その顔……」 「妹と取っ組み合いの喧嘩です。久々にやり合いました」 「殴られたのか」 「突き飛ばされたもので。狭い部屋だったので顔と頭を強かにうって昏倒してました。そのまま病院です」 ほらねとポケットから出されたのは病院の領収書だった。アメリカよりは安いなと言うと「日本ですから」と笑われた。 「妹に好意を持たれていたのは知っていましたが、向こうはちゃんと吹っ切れて婚約もしました。近いうちに結婚さるでしょう」 「……。指輪はしてなかったな」 「金属アレルギーなんです。アクセサリーもしてなかったでしょう?」 「#名前2#は、俺のこと怒ってないのか」 言ってからすぐに後悔した。#名前2#はぽかんとした顔でこちらを見ている。みなの赤井秀一だったら言わないセリフだろう。 「怒りませんよ。むしろ、貴方がそんな風に嫉妬してくれたことに喜んでます」 堅苦しい顔でなんてことを言うのだろう。そういう甘い言葉を言ってくれるような男ではなかっただろう、お前。言いたいことはあるのに、なぜかむぐむぐと言葉を隠して結局「ありがとう」という言葉が出てきた。 「なんですか、その涙は」 「?」 「無自覚に流したんですか、天然って怖いですね」 目尻に溜まった水が掬い取られた。きっと嬉しさのせいだと言うと抱きしめられた。いつもならこんな事してくれないのに。恥ずかしくてただじっと固まっていたら可愛いとつぶやかれた。甘えるように首に頭をこすりつけその匂いを肺いっぱいに吸い込んだ。#名前2#が首を噛んでくれてる。また涙が出る気がした。