君の音が聞こえた

※リゾット夢に正確にはなってない気がする ※雰囲気で読んでね  願い事なんてざらにあるわけではない。自分の願いを叶えるために努力するのは当たり前だし叶うように仕向けるのも努力のうちだ。つまり、神様にお願いして「すごぉーい! 叶えてもらえたんだね!」みたいな話を見ると「自分の努力はしてないのか……? それで大丈夫なのかお前は…?」とついつい口に出してしまうことがある。  つまり、映画のような、むかしむかしあるところに、で始まるおとぎ話はこの世に存在しないというのが俺の持論だった。あるかないかの話を証明することは難しいが、あるものに対しての認識についての評価は仕事をする。今の俺の「前世の記憶」なるものはおとぎ話ではないはず、なのである。  前世の記憶というと宗教的なあれそれに見えてしまうかもしれない。そうではない。単純に昔の仲間だった死んだ男たちが今ここで会えただけの話である。それを「感動」と呼ぶか「おとぎ話」と呼ぶか「奇跡」と呼ぶか。はたまた「地獄」と呼ぶかは人それぞれだと思う。 「そうだろうか」  彼はパラパラと本をめくっていた。何の本かは分からないがその棚を見る限り奇書フェアのそれだろうなと思った。同じバイトの男である。#名前1#からしたらそういう男で、#名前2#からしたら昔のチームリーダーのリゾットだった。 「俺はそうは思わない」と言葉を続ける。なんだ、まだ話していたのか。 「おとぎ話とは、つまりそれを経験した人がいるから誰かは夢見るものではないだろうか」  そんなことあるのだろうか。経験してないからこそ不思議な話として仮託しているのではなかろうか。……経験を現在進行形でしている俺が言うセリフではないけれど。 「#名前2#、お前はおとぎ話をどうとらえる?」  たっぷり2分ぐらい考えたあと「誰かの夢物語」と返事をした。俺は死んだ仲間に会いたいと思ったことはない。 「その側面もある。だが、それ以外について考えてみろ」 「ちゃんと考えてるだろ」 「考えていない。お前のそれは見たくないものを都合よく消しているだけだ」  教師でもないのに大儀な言い方をする。腹が立ったので踵を蹴った。 「だろう、という表現はよくない。それはお前の疑問を表す。考えを述べるならば、ではないか、である、などの断定形にすべきだ。私が言うように」  大学1年生の時にお世話になったとある授業のとある先生のありがたいお言葉は俺もよく覚えている。あの人は昔の前世の俺からすると「敵」の人だった。それが今や大学生のためにレポートの書き方を教える教師である。不思議な世の中になった。    俺の呟きが疑問であるならば、リゾットとのこれは正しく議論ではなく授業だった。 「おとぎ話は努力で実るものでは無い。おとぎ話というものは奇跡のひとつだ。登場人物の彼らはそれをプラスだろうがマイナスだろうが享受する役目がある」  そんな断定をされて「なるほど」と頷けるような人間ではない。だったら俺達の願うような世界は何だったのかという話になるではないか。俺たちが生き残りたいと思っていた世界は努力では実らないおとぎ話の世界だと言われるのだろうか。マイナスの奇跡を享受しなければならないということだろうか。  ここは戦いのない世界だ。俺もこいつも名前が違う。リゾットも#名前2#もあの世界での名前である。俺もこいつもあの時の髪色も目も違くて、服装さえも違う。なのに、なぜか分かった。会った瞬間「ああリーダーだ」と思った。前世を信じている訳では無い。俺達は等しく死んだのだから。ただ表す言葉がなかっただけの話である。便宜的に「前世」というが、それが俺である証拠もない。 そう、証拠はないはずである。 「つまり、俺がお前に従う理由はないしディアボロ先生のことを嫌う理由もないのに何でだ」 「おい、おとぎ話はどこにいった」 「ん?」  俺の頭の中では勝手に完結もせずに消えていた。リゾットは顔を顰めて「お前の付けるあだ名はよく分からないな、ディアボロ先生というのは1基礎のあの先生だったか」 「ああ、うん……」  煮え切らない俺にリゾットは眉をしかめた。結局のところ、「前世らしきもの」に振り回されてしまっていると思う。リゾットは前世の記憶がない。全く見た目も違うのに俺にとってはリゾットだと思ってしまう。他の奴らもそう。みんな姿かたちが違うのに「ああ、プロシュートだ」「あそこにいるのはギアッチョか」なんて思ってしまう。みんな忘れていて俺ひとりが過去の記憶に振り回されている。 「いや、ごめん……。ちょっとトリップしてた」 「そうか……。そういえば、何の話をしていたか忘れたんだが」 「フェアでさ、ボルヘス怪奇譚ってやってたからさ。おとぎ話とこういう怖い話って分ける必要があるのかってそういう話」  だって、悪役からしたらおとぎ話って怪奇譚みたいなもんなんだよ、と俺が言うとリゾットは真面目な顔で「そうか……」と考え込んでいた。  リゾット、と呼びかける#名前1#はバイト先の同僚で下の名前は難しい漢字だったので読めない。彼はたまに変なことを言う男だが善人だということは分かっている。  前世の記憶とでも言うのだろうか。自分にはリゾットという男の人生を記憶していた。しかし今の自分にはスタンド能力はないし、ましてやイタリア人でもない。この記憶があって良かったと思うこともない。無用の長物のように扱っていたそれが変わったのはこの本屋のバイトについてからだった。  #名前2#。 「#名前1#」  2つの音が重なった。むかしむかしから知っている仲間だった。いきなり初対面の男に呼び捨てされて彼も戸惑ったことだろうが、#名前1#は自分を見た瞬間「リゾット」と口を動かした。従業員のための名札はついている。それを目にしているはず。だけど出てきた言葉は前世の記憶の方だった。  ああ、これはまずい。自分も彼もこんな記憶に振り回されるのだろうか。ひどくイラついた。自分は彼にとってはリゾット・ネエロであってこの世界の自分を見てくれないのだと思った。  それなら、と自分は考えた。リゾットという言葉は聞かなかったことにしよう。彼が自分を見てくれる時まで待とう。  そう思ってはや数ヶ月。#名前1#に対して意固地になって我慢し続けていたら何があったのかひょっこりと彼に好意というものを抱いてしまった。誤算というと変な話だが、ヘテロセクシャルだと思っていたのだから仕方ない。いつ彼が本当の自分を見てくれるかと思っていたらこちらの方が先に落ちていた。笑えてしまう。でもこの「好き」という気持ちが前世の彼に向けたものなのか今の彼に向けたものなのか自分でもよく分からない。これには困り果てた。どうしようか、と考えている時に幼なじみに相談した。幼なじみの少女は「前世の記憶」というものに理解のあるひとだった。 「ねえ、考えてもみてよ」 「……何をだ」 「記憶の中の彼と今見てる彼って同じ人なの? 記憶の中の彼と違ったら、その#名前1#さんって人のこと嫌ってた?」  幼なじみの言葉はひどく俺を傷つけた。前世だなんだと言って#名前1#に一方的に期待していた俺の方が振り回されている気がした。 「あなたが好きなのは、目の前にいる人? それとも、記憶の中の人?」  そんなのもう、決まっている。俺の言葉に幼なじみは満足気に笑っていた。 ツイッターでの同一キャラ・同一お題で書かせていただいたものです。 市縞さん、まるさん 遊びに付き合って頂きありがとうございました