あなたははてな

 自分のことを信じてくれて愛してくれている奥さんにも言えない秘密はある。そして俺の場合のそれは肉親の弟の話だった。弟、黒羽快斗は怪盗キッドらしいのだ。いやいやいや、と言いたいところだが本当らしい。あのクソおやじ、黒羽盗一の才能を潤沢に引き継いで女の子にモテモテだった弟はおやじが死んだ理由を探すために怪盗キッドとなった。ちなみに先代のキッドはあのおやじである。もう何も言えない。おかしいだろ、普通に考えて。なんで怪盗になって自分の父親を殺した奴らを探すんだよ、よわっちいくせに。心の中で#名前2#は言いたいことをぐっとこらえて仕事を今もしている。  なぜこんなにもイライラするのかといえば、#名前2#が警察に勤めているからである。先述した#名前2#の妻も警察の人間である。どうしようもない、と思いながら調査書をまとめる。打ち間違いを確認しながらスクロールをして印刷、自分でハンコを打ちまくる。と、突然に電話がかかってきた。画面を見るとあの弟からだった。目が細まる。嫌な気分になっていた。  弟との年齢差が激しく、#名前2#は昔は後ろをひょこひょこついてくる快斗を可愛がって面倒を見ていた。おやじに手品の特訓を無理やり仕込まれながら、弟と幼馴染の女の子の面倒を見ていた。快斗が思春期になってからは距離感も難しくなって#名前2#と快斗の間に会話が生まれるのはほとんどなくなった。#名前2#にとっては、快斗は今でも可愛がれる存在なのだが、いかんせんバカなことをしていることとそれに気づかなかった愚鈍な自分とに腹が立ってしまうのだ。結婚してからは弟とさらに疎遠になってしまった。電話がかかってくるのもかなり久々なのだ。バイブレーションでなり続けるスマホを片手にトイレへかけた。  もしもし、兄ちゃん? 快斗の声が耳に響いた。あんなカミングアウトしたあとでよくもまあ冷静な声を出すものだ。自分のことをひた隠して兄の仕事を増やし、それでいてメッセージアプリの方には兄を応援するような言葉を送りつけて、裏ではきっと兄のことを笑っていたのだろう。そう考えると頭がいたくなってしまう。兄ちゃん? とまた声がかけられる。ああ、すまん、仕事中なんだよと返事をした。しゃべりながらぐじぐじと頭が痛み、電話を今にも切ってしまいそうな気分に襲われた。動きそうな指をおしとどめて「それで、何の様なんだ」と気分の沈んだような声をだした。 「兄ちゃん、あのさ。今、兄ちゃんの家に来てるんだけど」  頭が痛い。ずきずきと血流が激しくなっている。あまりにも非常識すぎると非難したかった。そんなところはあのクソおやじと似たまんまだとあざ笑う自分がいる。妻もいない今の家に人が入ることなど考えられない。潔癖症の妻のヒステリックに叫ぶ姿が頭に浮かぶ。お前は俺をバカにしてるのか。ぽつりと出てきた言葉はすぐに口をふさいだが快斗の耳には入ってしまっていた。 「え……?」 「ッ!」  もう言い逃れをできないのだ、と頭の中で誰かがささやいた。ぶちっと電話を切り、妻にメッセージを送った。隠していたことがばれてしまう。その恐怖と快斗の自分へのさげすむ姿が頭の中に思い浮かばれる。口の中が乾き吐きそうな気分になった。 短編のリハビリ。 主人公 黒羽家の長男。麻薬を扱っている。 主人公の妻 警察。潔癖症持ちの病気もち。 怪盗キッド 何も知らない一般人。