よくもまああなたって人は

好きな人の体重を知ってしまった。いわゆる健康診断で事務的に測ったものだし、人の数値を勝手に盗み見してしまったことは言い逃れできない罪なのだがこんのすけは何も言わなかった。 同じくらいの体重だった兼さんを呼んで抱きあげようとしたら失敗した。 「なんだよ、急に……」 「ごめん、ちょっとお姫様抱っこの練習がしたくて」 「はあ?」 その日から俺はもっと体を鍛えることにした。大倶利伽羅をお姫様抱っこしようとした時失敗するのは無様で嫌だった。 それとなぜか大倶利伽羅とお風呂の時間が被るようになった。裸をできるだけ見ないようにしていたのに彼は無防備に近づいてくる。仕方なく仕事を沢山やってから風呂に行くようになった。ある意味仕事が効率的になった。代わりに風呂担当に怒られた。 雨の日は髪の毛がもじゃもじゃする。何とかワックスで止めてから皆に挨拶するとすごく褒められた。特に燭台切や歌仙からは好評だった。大倶利伽羅はどうかなと探したが見つからなかった。残念じゃないと言えば嘘になるが馴れ合うことを嫌う彼なので仕方ないと思った。こんな機会早々にないと陸奥守と写真を撮った。 次の日、大倶利伽羅が服にアイロンをかけて髪の毛もワックスでいじってすごく綺麗な姿で現れた。俺は昨日の大倶利伽羅に何の言葉もかけてもらえないことが辛くて寝るのが遅かった。遅く起きてしまった。失敗だった。大倶利伽羅の周りは人で溢れていて馴れ合いは嫌だという声も聞こえてきた。どうせ陸奥守が写真を撮ってるだろうと思い声はかけなかった。 陸奥守にもらった写真は写真立てに入れて大事にしている。大倶利伽羅に見られたら気持ち悪いと思われそうなので彼が近侍の時は机の中に閉まっている。すぐに触ってしまうので指紋もひどい。メガネ拭きで拭いておかないと。 体を鍛えるのも段々とヒートアップし始めた。もう一度兼さんを呼んでやろうとしたら断られた。堀川に言われたらしい。堀川にも嫌われたのかと話を聞きに行ったら「主さん、男は告白をためらってはいけません!」と言われた。恥ずかしかった。 告白しよう。もう堀川との恋愛相談を経たあとの俺はそれしか考えていなかった。でもどんなシチュエーションがいいか分からない。それとなく聞き出せるほど俺は大倶利伽羅に親密な関係じゃない。 ……。親密な関係じゃないじゃないか。 大事なことを忘れていた。俺は大倶利伽羅と親密じゃない。話したくてもすぐにどもってしまうし、向こうもそんなに話すほうじゃないし、馴れ合うことは嫌いだし。待て待て、もし告白したら向こうは「親しくもない主が告白してきた」と辛い思いをするんじゃないか? 主だから仕方ないと断りの文章を色々と考えさせてしまうんじゃないか? これはだめだ。大倶利伽羅を辛い目にあわせてしまう。仕方ない、告白はなしだ。でも、俺の自己満足でも大倶利伽羅に俺のことを知って欲しい……。 「大倶利伽羅」 「なんだ」 「俺はお前の主だ」 「ッ! そんなこと、知っている!」 「………えーと、それだけだ」 大倶利伽羅は泣きそうな顔になっていた。俺も泣きそうになった。主と認められてないのかもしれない。 こんのすけに俺は自殺するから後任審神者について教えて欲しいとお願いした。すると審神者は自殺出来ませんと言われた。 「え、なんで…?」 「審神者は刀剣男士をこの世につなぐヨスガですから。自殺は出来ません。刀剣男士たちが阻止しますよ。そういう仕様です」 それは……。俺が自殺しようとして大倶利伽羅が来てくれたら主と認められているということではないか? うん、ワンチャンあるな。今日はもう遅いから明日、自殺の準備をしよう。おやすみなさい。 その夜夢を見た。大倶利伽羅が俺に抱きついてくれる夢だった。筋肉質になったろうーと笑うと和泉守のためかと聞かれた。 「ちがうよ、お前をお姫様抱っこするのにもっと頑張らなきゃって思っただけ」 大倶利伽羅は泣きながら俺にキスをした。暖かい唇だった。自殺する前にこんないい夢を見られるとは。うん、きっと俺の自殺は明るいものだと教えてくれている。 「なあ大倶利伽羅。俺は明日死ぬことにした」 「……は」 「お前が助けに来てくれたら俺はお前に主としては認められてることになるらしい」 どすん、と腹に何かが落とされた。はっと目が覚めると大倶利伽羅が座っていた。 「な、なんで……」 「答えろ。俺があんたを主と呼べば自殺しないのか」 「え、え、」 「いいから答えろ!」 「は、はい! 自殺しません!」 「よし」 大倶利伽羅は何事もなかったかのように腹からおりて俺の布団に潜り込みそのまま寝付こうとする。何が起きているか分からないのは俺だけのようだ。