きらきら輝く君と影の僕

 元から殺風景な部屋だったのでたくさんのサーヴァントの手を借りて自分好みに変えさせてもらった。と言っても棚を作ったり、革製品のクラフトをしたりと大きな変化は壁紙を貼ったりということだけだったがまあまあ楽しかった。サーヴァントとしてここにやってきて、人理修復を終えて。1度座に帰ったが何の因果か新たな特異点のためにまたカルデアに戻ってきた。昔の自分の部屋を見るとそのまんま残っていて、一方的に帰った俺の事をマスターやスタッフは待っててくれたのかと涙してしまった。  魔神柱の残滓を倒しながらサーヴァントも増えてきた頃、新宿のアーチャーが召喚された。新宿での記憶はないものの元々が悪の親玉モリアーティである。悪巧みを考えるのはいつもの事らしかった。時代も違う、国も違うということであまり接点はなかったのだがある日行われたアーチャーの飲み会で彼は隣に座ってきた。樽酒を飲む俺に「うんうん、いい飲みっぷりだ」と女みたいに杓をしてきた。何が狙いだ。俺の言葉にモリアーティは「ううん、特に何かあるわけじゃないよ」と笑う。しかし目を細めた奥には燻った炎が見えて俺は少し嫌な予感を持っていた。飲み会のあとモリアーティはゲロを吐きそうだとしがみついてきたので一緒にトイレまで来た。面倒を見ることなんてほとんどなかった男なのでトイレに顔を突っ込んだモリアーティを見ても何もしなかった。終わったらしいのを見て洗面台に引っ張った。顔と喉を綺麗にするとタオルで拭く。力を入れたつもりはなかったがモリアーティの髪の毛はボサボサになっていた。 「君ってばひっどいね」呆れたような声に俺はすまんと小さく謝った。 「お前が初めてだったから」言い訳にもならないような言葉にモリアーティはキョトンとした顔を見せて顔を手で覆った。そんなギャップいらないよぅと声が聞こえる。ギャップって何だ。  モリアーティは突然俺の部屋に来るようになった。部屋を見て俺と部屋を何度も見返して俺にギリギリ聞こえるくらいの声で「えー、うっそ」と呟いた。俺の顔でこんな部屋にいるのが意外だったのか何なのか。 「凄いね、これ。君の趣味?」 「無闇に触るな」 「あたっ」  自分の獲物のナイフを投げるとモリアーティはすぐに避けた。ナイフが当たるよ、と笑っていたが英霊の力…スキルというもので投擲したものは回収される。ナイフはくるりと回って手に戻った。 「それ、呪腕くんも持ってるやつだよね」 「俺のスキルも強化された」  ふーんとモリアーティはつれない返事だった。ここにお前の興味を引くものは無い。さっさと帰れと言うと無理矢理に居座られた。椅子がなく、ベッドにも近寄れない。仕方なく床に座った彼は洋装のせいでキツそうだった。  マスターに頼んでジェロニモとバニヤンを連れて木で椅子を作った。君の部屋にようやく椅子ができるのか、と感慨深い様子だった。頑なに俺が拒否していた過去を思い出したのだろう。誰のために作るんだと聞かれてモリアーティと答えた。ジェロニモの顔は面白いことになった。  モリアーティ用に椅子を作ったのでお前はもうここに座ってろと言うとニコニコして座った。俺はナイフを磨き、体に仕込んでいるワイヤーの錆を確認し、レイシフト先で仕入れた革でクラフトをする。サーヴァントになる前に、仕事以外で唯一覚えたクラフトは今でも俺の心の支えだった。モリアーティはニコニコしていたが次第につまらなくなったのか部屋に戻った。俺はクラフトを続けていた。  次の日、レイシフトを終えた俺をモリアーティが待っていた。君にこれをあげようと差し出したのはクッションだった。使わんと断ったが部屋に投げ込んでおくと返されて仕方なく持ってきた。丸太を削りだしただけの椅子とベッドを見て俺にこんなものはいらんと部屋の隅に置いた。夜、酒を呑もうと誘ってきたモリアーティはクッションを抱えて椅子に座った。結局お前が使うのかと呆れた俺にモリアーティは「有効活用と呼んでくれ」と笑った。モリアーティはそれからまた何度か俺にプレゼントをした。俺はそれを部屋の隅に置き、モリアーティは部屋に来たら自分でそれを使った。  またプレゼントが来た時に俺は突き返した。モリアーティは「気に入らないかい?」と笑った。ちがう、と俺は答えた。 「そんな回りくどい事をしないで最初から俺の部屋に来ればいい」  モリアーティは顔を赤くさせてメガネを外し顔を覆って変な声を出してからまた平静さを見せるようにメガネを掛け直した。 「ありがとう」  たった一言なのにモリアーティはさも恥ずかしそうに言うので何だか俺の方が面白くなった。 ・ ・ ・  アーチャーの中によくわからない男がいた。レア度はあまり高くないし、よく使われることも無いのだが初期からいるのかマスターとは気兼ねなく、さらにスタッフたちからもよく話しかけられる存在だった。道化のような格好をしてメフィストと仲が良さそうだったがその実彼らの会話は噛み合ってなくて聞いてるこちらの耳が変になりそうだった。  初めての会話は何だったのだろうか。事務的連絡ばかりできちんと話したのは弓兵の飲み会の時だった。興味本位に近づいた私は彼の飲みっぷりに驚きその上限を試すようにどんどんと飲ませた。だが彼に仕返しのようにアルコール度数の高いものをジョッキで飲まされて胃と喉に大ダメージを食らった。ゲロを吐きそうだ、と呟いた私を彼は助けてくれた。雑な助け方だと思ったが「初めてなんだ」と困ったように言う彼は道化とはかけ離れていて興味が湧いた。それと同時に彼のその顔が記憶に残ってしまい、ことある毎に思い返された。 「あら悪の親玉さんが悩み事かしら」  しゃなりと飾りのつけられた腕が視界に滑り込んだ。美しい手。可憐な声。小さな身長。アサシンの方の女神だった。横には大英雄と呼ばれるアーチャーがいた。 「……そちらこそ、珍しい組み合わせじゃないか」 「俺とこの女神様は1番最初からカルデアにいるからなあ」 「彼が召使い役なの」 「はは、ファラオが怒りそうだね」  返事にキレもない。自分の体たらくに気分がさらに落ち込んだ。この胸に巣食うものにはっきりと名付けてしまいそうなこの状況で、自分の情けないところを見ると果てしなく嫌な気分になった。英霊としてのイメージが付与されている分強固なものだった。 「そんなに悩んでても気分は良くならないわよ」 「……。好きで悩んでなんかないさ」 「人間って本当におバカさんなのね。自分に素直になれないの?」 「ステンノ、その辺にしといてやれよ」 「だって見てて不快だもの。刑部姫の漫画みたいにもっとハッピーなのが好きだわ」  そんなの読んでたのか、知らなかったなあとアーラシュが言う。ステンノは笑いながら歩き出したのでアーラシュもモリアーティに声をかけてからついて行ってしまった。自分に素直になる。そんな事が出来なくなるのが大人になるという事だ。成長をしなくなった女神様には伝わらないのだろう。ついたため息はどこかの誰かに届いた。  #名前2#の部屋に用事があるんだが、一緒に来るかね。ジェロニモに誘われた時は本当に自分に聞いてるのか周りを確認した。ジェロニモは笑いながら「君だ君。新宿のアーチャー」と言う。いつも周りにいるアウトローのアーチャーたちはいない。1人なのかい、と質問に質問で返した私にジェロニモは「彼らなら対セイバーのクエストにいる」と笑って返した。 「#名前2#に頼まれていたクラフト材を渡しに行くのだ。ゴーストから取れる骨なのだが彼のお気に入りでね」 「ふぅん……」 「彼の部屋に行ってみると驚くだろう。1度見る価値はあるぞ」  ジェロニモの穏やかで、それでいて正しい教えに導く姿は好きではない。その相手を誰彼構わない所は聖人らしく、逆に彼の戦いの歴史が際立つように感じた。頷いた私はまるで幼児のようだったのではないだろうか。  ジェロニモは一緒に部屋に入ってくれるのかと思ったら私を置いてさっさと出ていってしまった。私は呪術的なオモチャやクラフトや金属の檻に囲まれたベッドを見て狂気を感じた。無辜の怪物というスキルは恐ろしい。彼の場合は精神に侵食しているようだった。近づいてよく見ようとすると彼の得物が飛んできた。軽口を叩いて誤魔化すとナイフを片手で回転させて「さっさと帰れよ」とストレートに言われた。腹が立ったので嫌がらせのように居座ったが部屋にはよく分からない匂いが立ち込めていて、「#名前2#の匂い…!」といった可愛らしいハプニングは起きてくれなかった。  #名前2#に対してのこの思いに名前をつけることがないまま、部屋に何度も訪れていたら椅子ができていた。丸太を削り出したものだったが彼は「座らないのか?」とトイレで見せたあの表情になった。座り心地がいいとか悪いとか関係なく、ただ嬉しいとだけ思った。だが#名前2#はそれだけだった。変な匂いを焚きこんでごにょごにょ儀式をやってナイフを磨きワイヤーを削り、クラフトをする。どこからか持ってきたのか人の頭蓋骨に花を挿したのには正気を疑った。その日は特に会話をすることも無く部屋を出た。サヨウナラの挨拶はない。止めてくれる言葉もない。当たり前のことではあるが胸の痛みはひどかった。彼は普通に話していてもダメなのだ。何かこちらからアクションを起こさなければならない。  次の日、私は#名前2#の反応を確かめようとヴラド公が作ったファンシーなクッションを渡した。#名前2#はよくわからないという顔でそれを受け取った。夜、#名前2#の部屋に酒を持ってはいるとクッションは部屋の隅にちょこんと異物感を放って置かれていた。元から丸太で作ったベンチのようなものも異物なのだ。クッションを掴みベンチに座る。異物が3つ集まった。#名前2#の私を見る目がオブジェクトから確認すべきものに変わった。それが、嬉しかった。私はようやく彼の部屋の中でも私を保つ第一歩を得た。  私は距離感を確かめながらプレゼントという名の自分の住処を#名前2#の部屋に作った。入れ子構造の秘密基地はベンチの長さも相まって私と#名前2#とで入っても構わないくらいのものになった。吊り下げられたカーテンに油の入ったランタンにクッション、本などが増えていく。物が増える事に#名前2#の見る目は変わり、私はどんどん私になって行った。それに喜びを感じていた。この関係はなんだろうか。貢いでいるように見せかけてその実、ただのクラフト作業である。悪の親玉と言われたこの私がクラフト作業。中々に面白い光景だ。次は歯ブラシでも持ち込もうかと考えていたその日、#名前2#は初めて私に突き返した。この可能性を考えない日はなかった。いつかこれを止めさせられたら、と思っていた。彼の狂気が私を心から追い出してあの小さな楽園を壊してしまったらどうしよう、と。サヨナラか、と思った私に#名前2#はいつも通りの顔で「そんなに回りくどいことしないで俺の部屋に来ればいい」と言った。さっと顔が熱くなる。年老いた体から涙がほろりと流れる。私の心で怯えながら育ってきていた芽に光があたった。 その日は#名前2#が私の住処に入ってきた。檻がない所で寝るのは心細いという彼に、私の腕で捕まえていてあげようと言うと安心しきった顔で頷かれた。彼の中には私がちゃんといた。 簡易主人公設定 ナイフ投げのアーチャー。サーヴァント前は異形者。身体能力が高くサーカスで一通り仕込まれた。噂が噂を呼びいつの間にかサーヴァントに。無辜の怪物で姿がサーカス団の間抜けなピエロのようになってる。檻ぐらしをしていたのでベッドは檻で囲まれている。