あなたってひどい人
クリスマスには毎年マスターが忙しくする。我々のマスターも同じだが今年からは玉藻の前の仕事が増えてマーリンの出番が減っていた。だからなのか、#名前2#の周りにはあの魔術師がうろつくようになっていた。 マーリンはこのカルデアで初めての星5サーヴァントだ。マスターはステンノ様とビギナーズラックの二乗効果と言っていた。ビギナーズラックというものが俺にはわからなかったがとにかく凄いんだ、ということは分かっていた。 マーリンはそれだけ早くからカルデアにいるのにカルデアの先輩としては全く使えない男だった。すぐに女に手を出そうとするし、レイシフトからは逃げようとする。いつでも「いいぜ、やってやろうじゃねえか」と言えるアーラシュを見習った方がいいと苦言を呈したらマーリンは「そりゃあ私は大英雄じゃないもんね!」と可愛くもない顔で反論をした。すぐにナイフを投げた。 クリスマスもあと少しという日にマーリンは珍しく#名前2#の部屋にやってきた。彼らが普段から会話するのは部屋の外、食堂や行きずりの廊下だったからだ。ノックもなしに入ってきた彼に#名前2#はナイフを投げた。マーリンはやっぱりひょいと避けて「ねえねえ、」と声をかける。 「なんだよ」 「この大きなテントは何だい? 今まで無かっただろうに」 「モリアーティのやつだ」 「は?」 「だから、モリアーティのだ」 その時のマーリンの顔はなんとも言えない顔をしていた。裏切られた、というべきか何でこんなことに、と悲惨な顔つきと言うべきか。#名前2#はマーリンがこんな表情をするとは思わなかった。人間として死んでいた情緒がモリアーティのおかげで幾分か取り戻せている。#名前2#は本気で心配して「大丈夫か」と声をかけた。 「……大丈夫じゃない」 マーリンがその一言しか出せず動けなくなった。#名前2#は仕方ない、と彼の手を取り食堂まで来た。辛い時はご飯を食べるのが1番だ。#名前2#は最近ハマって買い込んでいるあんまんを取り出した。レンジで温めてからマーリンの前に差し出した。 「大丈夫じゃなかったら食うのが1番だ」 真面目な顔をしてそんなことを言う#名前2#にマーリンはまたもや泣きたくなるのだった。 #名前2#は知らなかったがマーリンはこのクリスマスは忙しくもないから#名前2#とのんびり過ごそうかと思っていた。だというのにこの千里眼はマーリンと#名前2#が一緒に過ごしているところを見せてくれない。モリアーティとかいうアーチャーと#名前2#が一緒に笑う光景が見えた。その時思ったことは「なんで?」の一言だった。マーリンには#名前2#と1番仲が良いという自負があった。それはある種の思慕であったが、彼も#名前2#も恋愛という考え方を持っていなかったのでこれまで流されてきたのだ。クリスマスという聖夜に、女性にかまけることもなく#名前2#の元に真っ直ぐ行こうとしていたのに。すげーなぁ、と#名前2#に褒めてもらうつもりだったのに。不思議と涙が零れた。マーリンがマスターに後に相談したところでは、親離れってやつ……?と言われたが実際のところマーリンにはこれが恋なのかそうでないのかよく分からなかった。ただ#名前2#が自分よりも近いところにあのモリアーティを置いているのが許せなかったのだ。そして部屋にやってきたのだ。大きなテントとその中にあるベッド。昔の檻のベッドはどこに行ってしまったのだろうか。マーリンは途方に暮れた。ほんとうに、#名前2#は、そばに居なくなったのだ。 #名前2#はホームズとチェスをしてきた、と苦々しげに言うモリアーティを招き入れてマーリンがな、という話をした。訥々とした会話の#名前2#からの言葉でもモリアーティにはマーリンの気持ちが痛いほど分かった。それがどういう由来の感情なのかは分からないけれども。友人を取られたくないというホームズのようなものか、子離れ親離れできない類なのか、モリアーティのように恋愛沙汰なのか。二人とも人間らしくなさすぎるのだ。 「#名前2#、君はもう少し人の心を考えるべきだと思うよ」 モリアーティにそう言われると#名前2#は頑張らなきゃなあと思うし、もう少し観察してみようという気分になる。じっと彼を見ていたらへらりとモリアーティが笑った。ベッドの中でまじまじと見つめるメガネのない彼はしわの多い老人だが#名前2#にはとても好ましいものに見えた。 冷たい指先をモリアーティの頬に押し当てた。ひぃっと驚く彼を気にせず#名前2#はしわをなぞるように指を動かす。この甘やかな触れ方をしていても#名前2#にはモリアーティと恋人関係だとか体を混じらせようという考えがなかった。そこまでの情緒はない。モリアーティも分かってはいるのだが、どうしたって体が反応してしまう。離れたくないけど離れたいような、なんとも言えない気分だった。 「ん?」と#名前2#が口を動かす。 「モリアーティ、どうしたんだ」 「!? な、なにがだい」 「何か変な顔してた」 ええ、そんなはずはない。これでもポーカーフェイスは得意なのだ。モリアーティは心の中で否定しながらも#名前2#の真っ向からの視線に参ってしまった。観察するという実践を自分でしてくれたのは嬉しいが、こんなときにして欲しくはなかった。#名前2#はなんだ、どうしたんだ、俺がなにかしたかと問いかけてくるがモリアーティには全く答えられる気がしなかった。