悪人(わる)

 ボーダーには1人暮らし系学生が沢山いる。なぜって、家族の敵討ちやらなんやらとか、提携の多さで保護もかなり手厚いからだ。まあ、それもボーダーの人気アップの一環なんだろうけどありがたいものはありがたい。みじめな気分になるけれど受け取るっていうのも大切だ。  かくいうおれもその1人。そんでもって、そのおれの家に入り浸っているのが太刀川という男だ。太刀川とかなんかかっこいい苗字で、大学内でも噂のイケメン()な奴だが生活能力は皆無に近い。  まあ、さすがにお米を洗剤でとぐとか洗濯機に洗剤入れすぎるとかベタなことはしない。ただ、味付けのセンスが皆無、洗濯機をまわしても干すの忘れる、とか。なんか重要なことができない。  上部はそんな太刀川を危惧して(たぶん、だっさい奴がA級一位とかアブねえよ、そうだな!みたいな会話されてたんだろうなあ)おれのところに放り込んだ。  いわく「自立させろ」おれは太刀川のオカンじゃないんだが。  太刀川はそれ以来おれの部屋に入り浸っている。  困る。何が困るって、おれの彼氏を呼べないってことだ。ゲイってわけじゃないが、彼氏は彼氏だ。太刀川と暮らしてるなんてバレたらおれは絶対怒られる。ボーダーに強制されてるって言ってもきっと無駄だろうし。  なんとか今までは嘘で騙しとおしてきたが今度は無理っぽそうだ。彼氏がおれのことを気にしすぎてストカし始めてる。え?と思ったやつもいるかもしれないが、これはマジだ。メンヘラ入ってる?と聞かれればイエスと答える。  まあ、かなり特異な人だったし予想済みではあった。だが。だが、だ。さすがにこんな修羅場は予想できなかった。  扉あけた目の前にはヒステリックにわめきながら柳葉包丁を振り回す彼氏さんとさわやかに避けながら肉まん食べてる太刀川さん。おれのお気に入りの食器類が無残なことになってる。明日からご近所さんになんていえばいいのか分からない。 知らない人のふりをしたい…! なんで柳葉包丁持ってんだよ。持ってる家ってかなり珍しいんだぞ!? なんで肉まん食べてんの?!? 今戦闘中なんだろ、一方的だけど!  おれの心の叫びは届かず、彼氏は先におれに気づいた。いや、もっと前から太刀川さんとは目が合っていたけど。 「なあ、#名前2#。#名前2##名前2#、俺が1番だよな? #名前2#は俺を優先してくれる。そうでなきゃおかしいだろ!?」 「あー、あのさ。直哉。ちょっと外でよう」 「なんで、なんで、だってコイツがまだ!」 「直哉。おれ、直哉のことが大好きだ。本当だぜ? だから直哉はちゃんと病気を治した方がいい」 「え…」 「おれの恋人は直哉だから言わせてもらうけど。ここまでするっていうのは異常なんだよ、直哉。 一緒に病院に行こう」  するとまた叫びだしそうだった彼氏、もとい直哉を太刀川さんは気絶させた。一撃で脳震盪。太刀川さん、俺が思うに人間卒業してる。 「すげーな、お前の彼氏」 「……そうでしょう? 昔はマトモだったんですけどね。最近、トリオン兵とかに遭遇率高くてこんなになりました。恋人としては、前の直哉に戻るまで一緒にいないとねえ」 「そんなもんか」 「長年の付き合いなんですよ。あいつが壊れてくのも横で見てて、助けられなくて、それでも手放しちゃいけないんです。償いなんすよ、これは」 「ふーん…」  太刀川さんは直哉を実家に送るのを手伝ってくれた。その際、何も言わなかった。  たぶん、心は傾いていた。#名前2#に。結構、生活面に関してはバカにされる俺だけど#名前2#はちゃんと1から教えてくれた。  そんなことが積もって、特別感が生まれて、一種の独占欲が生まれた。もう自立できてるけど自律できてないからって自分に言い訳して行くのを止めなかった。たぶんそれでバチが当たった。  その日はなぜかインターホンじゃなくてコンコンってドアたたいてた。  どうしたんだろう、と思って扉の近くまで行ったら気配が全然違うってわかった。 「鍵は開いてますよ」というと、気弱そうな。でもイケメンなお兄さんが立っていた。30代くらい。痩せてる。スーツが似合う。手には柳葉包丁。なんでだよ、と思ったけど口に出したら挑発になるな、と思って何も言わなかった。 「なんで、男がいるんだ。#名前2#は浮気するはずがない。じゃあ、なんだ? お前、#名前2#のストーカーか?」  独自の理論でぶつぶつつぶやいて、「お前を倒せば#名前2#は喜ぶかな?」と言って斬りかかってきた。  数分もせずに#名前2#は帰ってきた。そして俺たちに気づいた。  #名前2#が男のことをナオヤ、と呼ぶ。そのいとおしそうに見る目がほしかった。生まれた独占欲ってのは、人のものである#名前2#をほしがるものだった。俺だけを特別としていない。いや、もうそのナオヤを特別にする#名前2#が許せない。殺そうとしている自分がいる。  #名前2#はずるいやつだ。周りをしっちゃかめっちゃかにして、自分は素知らぬふりをする。でもまあ殺したらもう俺のほしい#名前2#じゃないし。やろうとする手を必死に抑えてナオヤさんを送っていった。