我慢はよくない、暴れて猛然
たまに虎杖くんは気づかないうちに宿儺に乗っ取られている時があるんじゃないかと思う。いや、絶対そうなのだが、俺のベッドに入っている虎杖くんを見てそんなことを思った。簡単に言えば現実逃避である。 人間、命を大切にしようという本能がある。志賀直哉の城の崎にてのように、生き物は命をかけて必死に足掻くことがある。俺はとある少年が入学してきてからまさにその足掻きを求められているのだと思う。出会い頭に俺のことを捕まえてべろりと舌を出して「抱け」と命令されるような生活である。つらい。現実逃避したくなる。 ここは俺の部屋。鍵はかけてある。一人暮らしをしている。なのに感じる人の気配。もはや泥棒であってくれとも思う。泥棒だったら警察、もしくは呪術師の仲間に助けを求められるのに。 俺のベッドは広くない。一人でゆうゆうと寝るために(もしくはベッドの上で過ごすのが楽になるように)それなりなサイズを選んでいるが男二人が並んで余裕があるはずもなく。抱きしめられている強い圧迫感に起きざるをえなかった。眠りは深い方だがこの力強さにはかなわない。 「いたどりくん」 「ちがう」 明確な否定とともに宿儺が顔を出した。やっぱりだった。宿儺はなぜか俺のもとにやってくる。なぜなのかと理由を聞いたことは無い。聞いたら殺されそうな気がしたのだ。俺は自分の生存本能を信用している。天災は身を縮こまらせてやり過ごすのが一番だ、と俺の頭は言っている。それに従うかは別として、そうするのが一番いいのだろうということは分かっていた。分かっていながら俺はにっこりと笑ってしまった。 宿儺になった虎杖くんにあるその痣はくっきりと色濃く見えているが俺はわざと「あのさあ、いたどりくん、寝てる人の邪魔をしないでほしいんだけど」と言う。宿儺はイラついたように俺の足を蹴った。蹴られるだけで済んだかあ、と他人事のように心の中の俺は言っていた。 この呪霊の力なら俺のことなんてすぐに殺せるはずなのに宿儺はまるで人間のように「宿儺と呼べ、さもなくばお前の口を縫い付けるぞ」と言う。いや、全く人間らしくなかったか。可愛らしく照れたように恐ろしいことを言う。 「宿儺さんや、部屋の鍵はどうしましたか」 「なに、俺と#名前2#との仲に鍵なぞ必要ないだろう」 「関係あるんですよねそれがね……」 「#名前2#が先に俺を呼んだのだから鍵などかけているのが悪い」 「えっっっ。全く呼んだ覚えとかはないんだけど」 「お前が『今日は寝れないなあ、』などと言ったのではないか。だから来てやったのにお前は寝ているし……」 はぁ、とため息を着くように言われたが俺は一人暮らしでさっきの呟きは報告書が終わらず絶望したように呟いた言葉である。 なんでお前が聞いているんだ。 思わず出そうになった言葉を必死に押し込めた。この言葉に関してはシャレにならない。黙れ、ともう一人の自分を殴った。 「#名前2#? 寝ないのか?」 「……宿儺はここで寝てくつもり?」 「当たり前だろう。何のためにここに来たと思ってる」 「いや、あのさ。起きた時虎杖くんになってたら、俺と虎杖くんが付き合ってるんじゃないかって噂が立つんだけど」 俺の言葉に宿儺はちょっとした沈黙のあと不機嫌そうな顔で「ちゃんと否定しておけ」と言い出す。 「こういうのは否定すると余計に……」 「はあ?」 「なんでもありません、否定します」 今確実に殺されそうだったと思う。言葉を間違えていたら絶対首が飛んでいた。 「それでいい。早く寝るぞ」 「はいはい……」 横になったらもぞもぞと宿儺は後ろにくっついてきた。可愛いと思っていいのかどうか。朝には虎杖くんになってないことを祈ろう。