あなたの好きに塗ってください
人間は故郷の味があるというが、おれは日本人ではあるがイタリアの味がふるさとだとおぼえていた。 国籍が日本というだけで、おれはイタリアと日本のハーフである。親につれられてイタリアへ行くことは多く、そこで自分で作り、人に振る舞い、味わい尽くしたイタリアの料理がふるさとの味だった。 毛利さんたちがおらず、家に一人だったコナンと一人でコンビニをうろついているおれを捕まえたのは今は工藤の家に住んでいるという沖矢昴さんだった。 未成年がフラフラとするのは危ない、とお説教を受けたあと食事の支度をするというので自分が代わりに、と手を挙げたのだった。イタリア料理の中でも比較的簡単なカネデルリを作って振る舞うと、沖矢さんは「おいしい」と感心して言った。 「#名前2#さんの手料理? 僕も食べたい!」 「はいはい」 「#名前2#くんはどこでこういうのを習ったんですか?」 「おれに教えてくれた祖母たちの手がうまかったんですよ」 カネデルリは硬くなったパンを使う。それに生ハム、サラミ、牛乳……と色んなものを混ぜ合わせて作るのだ。子どもに作らせるには汚れまくるものであったが丸めて団子のようにするのは楽しかった覚えがある。 コナンにはスープの中にカネデルリを浮かべて出してやるとニコニコと食べ始めた。蘭ちゃんはこういうの作らないの? と聞くと「さすがにこういう郷土料理まではいかないよ……」と言われた。 沖矢さんは「こういうのを作ったら、お隣の女の子の気を引けるでしょうか?」と楽しそうに笑う。哀ちゃんはどうだろう。オシャレさんだから、もっと華やかな料理の方がいいかもしれない。もしくは……。 「硬いパンに困ってたら、レシピを教えるとかの方がいいんじゃないですか?」 沖矢さんはいつも閉じているかと疑うほどの糸目をぱちくりとさせたあと「それもそうですかね」と立ち上がったと思ったら、エプロンを持って戻ってきた。 「ご教授、よろしくお願いします。センセイ」 「えっ、マジですか」 幼い頃の記憶を掘り起こして、沖矢さんに作り方を教えると彼は飲み込みがとてもはやくすぐに覚えていった。 後日、哀ちゃんから「あの人に何教えたの? ずーーっとイタリア料理を持ち込まれるんだけど」という苦情を受けるまで、沖矢さんがそんなに凝り性だとは思ってもみなかった。