そういうの映画で観たから

Note

同人誌のサンプルです。これはプロローグ(全文)

 FBIの中ではかなり派手な格好をしている男だった。華々しいというよりは毒々しいカラーリングの小物で自分を覆いかくし、それらを身に纏う本人はブロンドの髪の毛を輝かせブランドもののスーツを着ているというアンバランスさ。  足元に見えるのはブランドものだがスニーカーである。FBIで「ユニコーンとスニーカー」という言葉を聞けば絶対に彼しかいないと思われていた。#名前2#・#名前1#という博士は学会の発表でも今とほぼ変わらない姿で出てくるので有名だった。だが彼が天才であることは誰にも疑いようのない事実であり彼に対して博士号を与えないわけにもいかなかった。  彼の風貌は夭折したあの映画俳優によく似ていた。彼が講演会へと顔を出す度に、周りの人間はあの俳優がもし歳を重ねたらこんな姿になるのだろうかと夢想していた。頭も良ければ顔もかっこいい。さらにはFBIという職業により、彼はスーパーマンのようにどこか別の世界からやってきた超的存在ではないかと揶揄されることもあった。その度に彼はつかれた顔で「俺はこの国が好きなんだ」と棒読みで返していた。棒読みだろうとなんだろうと、そのセリフがよく似合っていた。周りはそれを聞く度にはやしたてた。さすが#名前1#だ、と。  彼はアメリカ合衆国という国を愛しているわけではなかったが、何かの隠れ蓑にするにはこの国はもってこいの存在だったので度々口にしていただけだった。しかし、その言い訳の言葉も美化されて噂として広まっていく頃には「愛国心を持つスーパーエリートFBI」になっていた。それを否定するのもまた労力がかかる。  #名前1#は自分にまとわりつくレッテルに諦めをもっていた。どうせ自分が何を言っても適当な尾びれがついて泳いでいってしまうのだ。それに、そうやって噂されている間は#名前1#の過去には触れなかったのでわざと放置しているところもあった。  それでも周りは#名前1#の過去を掘り下げることがあった。#名前1#はそういう時ほど自分の美貌と頭脳を活用してすり抜けた。彼を嫌う人間ほど彼の美しさに心を奪われた。  かの天才ドクター……ユニコーンとスニーカー男がファミリーと豪語してきたBAUを離れて組織犯罪対策班、通称OMTに移されたのは彼にとっても大変不本意なものであった。ふだんはそんなに怒ることもない彼が不機嫌な顔で「怒っています」というアピールをしながら行動するのはむしろ無様な姿として捉えられていた。それは本人も、一緒にオフィスへ入ってきたブラックも同じように思っていた。だが、彼は周りの視線も無視して大事なラップトップも愛用のキーボードも煩雑に扱っていた。個人的に確認したいと持っている資料さえも机にばらまくように放り出す。はぁ、と深いため息が出ていた。彼のその気だるげなやる気のない表情は本物のあの映画俳優のようだった。  #名前1#は椅子に座ると小物類をひとつずつ外していく。まるでオモチャのようなそれらは#名前1#のメンタルを守るためにある……のではなくBAUでチームメンバーからひとつずつ増やされていたものだった。最初はいちばん仲の良かったガルシアに「わたしのディーン様を守ってくれる魔法のアイテムよ!」と言われて渡されたユニコーンの指輪だった。それを大事に持っていたら本当にそれで命が助かったことがあった。それ以来、BAUのメンバーはことあるごとに何か#名前1#に渡すようになっていた。それも女児向けの、なにやらファンシーでポップなものを。ブロンドの髪にブルーの瞳。ハリウッドにいそうな男が拳銃を構えているその手にキラキラと人工的に輝くプラスチックの宝石の指輪があればどんな人間だって二度見してしまうだろう。君はディーンのように早死にするなよ、とホッチに言われて周りが自分と夭折したあの伝説的俳優と重ねていることに気がついた。#名前1#は最初こそそれらのプレゼントを嫌がっていたが、それらのアイテムのおかげで#名前1#は今も生きていることも事実であり段々と抵抗することをやめた。それらをまたディーンの作品にあわせて「理解なき抵抗は終わった」などとからかわれるのが日常だった。そんなからかいを受けながらも、#名前1#はジェームズ・ディーンの享年ははるか昔に超えていた。  #名前1#は夭折した俳優という枠であれば、ジェームズ・ディーンよりもブルース・リーの方が好きだったしトム・クルーズのような俳優の方が好きだった。リーに憧れて截拳道もマスターした。その趣味がFBIに入ることになって有効活用するとは自分でも思ってもみなかった。  小物を剥がし終えたあと、ダンボールに無造作に詰め込んでいた荷物をひらいた。愛用のラップトップとキーボードを真っ先に外に出す。#名前1#はラップトップを利用しているがそれとは別でキーボードも用意する。同じく博士号をとっているドクター・リードもデジタルは嫌いだといつも紙の資料を求めていたので周りからは「変人コンビ」と呼ばれていた。#名前1#はその呼び名を嫌がりリードはニコニコと笑う。その光景が当たり前だった。今までは、の話である。 「君のような人間がそんな行為に走るのは珍しいね」  ゆっくりと、しかし確実に「こんなことしても無駄だ」と言ってくる先輩捜査官に#名前1#はふっと薄い唇をゆがめた。人を小馬鹿にするようなその表情は彼が本気で怒っている証拠だった。というのも、このチームはいわば再編というものであり#名前1#は引き抜かれてきてしまったのである。所属していたチームのリーダーだったホッチは頑張って止めてくれていたようだが権力に負けてしまった。ホッチの頑張りは知っているため、#名前1#は仕方がないとも思いながらいた。そう、さっきまでは。  このチームにあの赤井秀一が入ると聞いて#名前1#はこんなに不機嫌なのである。赤井秀一という男は使えない男ではなかった。むしろFBIの中でも一二を争うほどではないかと言われるほどの頭脳派で、截拳道も使いこなす素晴らしい若者だった。もちろんこんなことを言ったらFBIの中でも頭脳派と言われる集団がこぞって名前をあげるだろうが、新人に対しての評価と聞くとみな何も言わない。  新人に対してのこの評価は大して信用に値しない、というのが捜査官たちの所感だった。新人をわざと持ちあげるだとか、弄ぶような言葉だったりするのだ。その悪癖が今も止められていない点で言えば改善の余地なしであるが。  同じく截拳道のマスターである#名前1#に、周りは「君の後輩だ」なんて言っていたけれど言われる本人はそのお仲間意識が大嫌いだった。なぜ嫌いなのかは周りは知らなかった。#名前1#は元から人の好き嫌いが激しい人間であったし、多少偏屈なところもあったので今回の癇もそういうものだろうとみなされていた。 「いいか、俺はなあの若造が嫌いなんだ、それは前もって言ってたはずだ」 「ああ、君からもデヴィッドからも十分に聞いていた。だが、このチームに彼は必要だ」 「必要⁉ あの若造が⁉ ジークンドーを操るあのイギリス男が必要だって⁉」 「その言い方は失礼ですね。こんなところでもまだ出身国による差別を受けるなんて」  話に割り込んできた声は#名前1#よりもいくらか若い。#名前1#は顔をしかめ、ブラックはにこやかに挨拶をした。  赤井秀一。目つきの悪い男だがそれすらも自分の魅力にしうる美形だった。日本人の名前だが、育ちはイギリスらしくとても綺麗なクイーンイングリッシュをしゃべる。一部の人間から(#名前1#のような者のことだ)はこのクイーンイングリッシュについて文句を言われるが、彼はそれらを気にした様子もなかった。そもそも彼はFBIになるためにアメリカ国籍をわざわざ取得したのだ。赤井はれっきとしたアメリカ人だった。#名前1#の言う「イギリス男」は確かに出身国による偏見である。それに。 「君の言うイギリス男というのは、わたしのことも同様に差別する言葉だよ#名前1#」  #名前1#の新しいボスとなるブラックもイギリス生まれである。育ちはアメリカというだけで。二人にまっすぐに見つめられて#名前1#はうなるように「すまない、今のは俺が悪かった」と謝った。彼がイギリスを嫌っているわけではないことを知っている二人はその雑な言葉にもOKの意を示した。  #名前1#は赤井秀一が嫌い。ただそれだけのことなのである。だから何か彼をつつけるような言葉を探している。#名前1#は嫌いな人間を攻撃できると分かったらビシバシと言ってのけるような男なのだ。それでもこのFBIで評価を得ているのは彼自身に確かな能力があることと、彼のキャリアに関係していた。  なぜ#名前1#と赤井が同じチームへ配属されることとなったのか。それは彼らにはわからないことだった。一緒になれば余計な軋轢が生じるだけだというのに。ブラックなら理由を知っているかと思ったが、どうやら彼も知らないらしい。「君たちがそろうなんてね」とあいまいに笑うだけだった。  #名前1#は赤井から目をそらすのはなんだか癪だと思い、赤井は見つめられているのでそのように視線を合わせている。かみ合わないふたりにブラックはどうしたものか……と考えていた。と、そこにヒールの足音が聞こえてくる。ここに新しく配属される捜査官といえば……。 「はじめまして! 今日からここに配属されたジョディ・スターリング捜査官です!」  扉をあけた途端にすぐに大きい声が発せられた。カジュアルな格好をしているが、スーツの下に隠れている肉体の筋肉はしっかりとしているようだった。ちゃんとテストを通過してきた若者らしい。みずみずしい果実を割ってみたら彼女のようになるのかと思うほどの若々しさにあふれていた。  ヒールの足音を聞いてすぐに「誰か女性が入るのか?」と疑った自分を#名前1#は恥じた。本当に女性が来たが、自分と同様に好きな格好をしてやってくる捜査官もいるのに。今度は自分もハイヒールを履いてこようか、と思いながら自分のスニーカーを見ていた。 「ああ、君は……」 「! お久しぶりです、ブラックさん」 「君の名前がチームの候補にあがってきたのを見たときは本当にビックリしたよ……。FBIを目指しているとは聞いていたけどね、まさかこのチームに自分から所属願を出すとは思わなかったよ」 「どうしても、父の仇をこの手でとりたかったんです……」 「アカデミーでの君の活躍は聞いていたよ。すばらしい成績を残していたそうだね」 「女性にしては、でしょう?」  自嘲するように笑うジョディにブラックは何も返せなかった。FBIは男女同様に扱うが、肉体的な差異と成績は考慮されてくれない。男の方が優秀な成績を残すことは常に隣り合わせであり、女性の捜査官たちはその「当たり前」に負けないようにしなければならなかった。ジョディは表情をくるりと変えて「ここではもっと活躍しますよ」と笑った。  #名前1#は聞こえてくるふたりの話を頭の中で構築していた。昔に会った少女かもしれない、と思ったがそれを掘り下げるのはある意味無遠慮なものなので話題としてあげることはためらわれてしまった。  ジョディの見た目は相当若い。記憶の中よりは成長しているものの、まだ二十代だろう。捜査官になるため、相当な訓練量をこなしてきたはずだ。#名前1#は赤井を放置してジョディににこやかな笑みを浮かべた。女性だからとか、不穏な過去があるだとか、しがらみ関係なく自分の能力をうまく使いこなす……もしくは使いこなそうと努力できる人間は好ましい。 「俺はドクターの#名前2#・#名前1#。これからよろしく」 「噂は聞いたことがあります。どうぞ、よろしく」  ジョディの対応に#名前1#はそういう感じなのか、と納得した。ならば、それに合わせてこちらも動くまでだ。ジョディが珍しそうにごちゃついた#名前1#のファッションに質問してくるのでひとつひとつ丁寧に答えようとしたが「あ、もう大丈夫です」と適当なところでストップをかけられてしまった。まだガルシアのプレゼントの4つ目しか話していなかったのに。  赤井は同じ新人だというのに動こうとしなかった。ただジロジロとジョディのことを見つめるだけ。その様子がまた#名前1#の中に澱としてたまっていくのだが、ここはひとまず我慢することにした。#名前1#は体をどけるとジョディに道をあけた。意を汲み取った彼女はまっすぐ進み挨拶をする。 「ちゃんと会話するのは初めてですよね……。わたしはジョディ・スターリング。よろしく」 「ああ……。こちらも話には聞いていた。赤井秀一だ、よろしく」  新しく加わった若手ふたりの姿にブラックは満足そうにうなずいていた。さっきの#名前1#と赤井との会話を考えれば、よっぽどこの二人は相性がいいように見えた。これから楽しくなりそう、なんていう予感はなかったけれどそれでもコミュニケーションはまずまずといったところだった。  #名前1#は適当なデスクに腰をすえると「それで、このチームについては俺もよく知らないんだが」と話すようにうながした。ブラックは咳払いを数度すると「これで全員集まったようだから」と前置きしてチームで追いかける組織のことについて話し始めた。  このチームは元々はテロリスト対策班として編成されていたチームだった。それがとある組織……ここでは「ブラックリスト」と呼ばれる組織のみを追いかけることになり、チームの再編成が行われた。それによってジェームズ・ブラックはリーダーとなり、メンバーも仕分けられた。赤井やジョディといった若手を引き抜き、#名前1#のように他のチームから大事だと思われるメンバーも引き抜かれた。寄せ集めというには前身の殻が残っていて、チームメイトというにはまだ距離があるメンバーたちだった。 「この組織についてわかっていることはそう多くないんだ。今、確実にわかっていることは彼らのコードネームは酒の名前であるということ。日本を拠点として動いているということだ」 「日本?」 「意外なところだ……」  ざわざわとする捜査官たちに手をみせ、ブラックはまた話を続けた。 「ブラックリストたちは莫大な資金と、巧妙に世間に隠れる技術を持っている。日本という国がそれなりに犯罪率が少ないことを逆手にとってね」 「酒の名前がコードネームというのは?」 「これは立場を同じくする場所からの秘密のタレコミというやつだね。どこが、とは言わないけれど。まあ、これに関してはそれを報告した相手とわたしのことを信用してもらうしかない」  ブラックの言葉にみなは顔を見合わせたが#名前1#と赤井の二人が「わかった」「了解」と返事をしたことで何も言えなくなっていた。#名前1#は言葉がかぶったことにギッと赤井をにらんだが彼の方は気にした様子もなかった。 「それでは、それぞれに資料を配る」  ブラックのスピーチが終わったところで#名前1#はさっさと自分のデスクに戻った。相も変わらず散乱したままだが全く気にせず椅子に座り込んだ。 「なあジル……。そうイラつくんじゃない、周りの人間が君に怯えてしまう」 「……分かってる。ああ、いや。すまない。……すまない、ちょっと頭を冷やしてきていいか」 「そう言って君は逃げるくせがあるからな。許可したいところだが答えはノーだ。ほら、新しいチームでも君のメンタルを心配してガルシアからもらってきたぞ」  ブラックが手渡したのはギラギラと食べ物では見かけない彩りをしたカラフルなドロップの瓶だった。#名前1#はそれを受け取るとひとつ口に含む。とりあえず黙っていろという暗黙の指示は受け取られた。  ブラックと#名前1#にはそれなりに年齢差があれど#名前1#の口調はやけに崩れている。周りはざわざわとしていたが#名前1#は気にしていなかった。チームのひとりが意を決して#名前1#になんて呼びかければいいか聞いてみる。BAUにいたときにはドクターがふたりもいるということでファミリーネームで呼ばせていたらしいと噂できいていた。 「ドクターで構わない」  素っ気ない#名前1#の答えに男はそれ以上話しかけることはできなかった。先ほどブラックに愛称で呼ばせていたばかりである。その温度差にまるでここだけ吹雪が過ぎ去ったかのような気さえしてくる。その冷え固まった集団に気軽に声をかけたのはジョディだった。 「すみません。このデスク、異様な汚さですけど誰のですか?」 「俺のだ」  汚いか? と聞かれて「ドクター。これを汚いと言わなかったら何になりますか?」とジョディがつっけんどんに言い返す。#名前1#はドロップを口の中で転がしながら無言で片付けはじめた。書類を整理し、キーボードとマウスはカバンにしまわれた。ラップトップはそのまま。代わりに新しいタブレットを用意する。これまたファンシーなカバーがつけられていた。こちらはロリポップ柄である。また周りがどよめくが#名前1#は椅子に座り「挨拶はもういいんだよな?」と言い始めた。赤井やジョディも自分の荷物を置こうと段ボールをもちはじめる。 「ボス、俺の席はどこになりますか?」 「ジルの斜め前だよ」 「⁉ ブラーーック! こいつと俺のデスクをもっと離してくれないのか⁉」 「作戦を立てる時にはどうせこのデスクは使わないんだ、我慢してくれ」 「ボス。私も#名前1#のように椅子を交換してもいいですか?」 「自腹でよければかまわないよ」  四人がまるで教師と学生のような雰囲気をかもしはじめ、チームはようやくぎこちなくも彼らを迎え入れることになった。  黒の組織を追いかけるチームの第一歩はそうやって始まった。