あらゆるすべての「野次馬」「直感的な」「結論」
サーヴァントたちがマスターにチョコを、いや贈り物をするのは恒例行事となっていて。毎年みんな趣向をこらして贈り物をしている。たまにスタッフもそれに便乗してチョコなどをもらう時もある。ダ・ヴィンチちゃんはやっぱり俺たち技術班の味方なんだ~~と食べたら実験台にされたことも懐かしい。 新しいサーヴァントたちは先輩のサーヴァントに話を聞いたりして自分だったら何を送るのか考える。その相談相手には時たま俺たちが選ばれることもある。とても有難いのだが英霊というのは規格外で、これを一緒に考えるのはとても難しい。とある一人の英霊に俺も相談されたが、絶対に答えられないと別の方に相談した方がいいですよ!!! と逃げてしまった。彼はあの後どうしたのか、俺は怖くて見に行けてない。 もちろん、スタッフである自分たちもマスターには送る。お世話になっているという意味の親愛のものである。俺は別の人に贈ってあげたかった。恋愛の好きという気持ちではない。お礼をしたいという意味のものだ。多くのスタッフたちから夢がないと笑われたが、大体みんなここでの生活で色恋沙汰を楽しみたいという気持ちはあれど自分が当事者になるなんて考えてもいなかった。だから、何かあると野次馬としてわらわらと集まってくるのである。今回はそれを蹴散らしたが、なぜかミランダからはにまにまと笑われて「そんなの言ってられるの今のうちよ」と言われた。 英霊に贈り物をしたら受け取ってもらえるのかどうか。それを考えると食べ物がいいのかなとも思うが、難しい条件でもある。誰が何を食べられるかはよく分かってないのだ。チョコレートをあげたら歴史的にNGでした、とトラブルを作ってしまったらたまらない。それを避けるためには同時代の人に話を聞くほうがいい。 「それで、なんで俺の元に来るんだ」 渡辺綱さんは自分の持っていた刀を置いて静かに俺を見た。サーヴァントに宛てがわれた自室は好きにしてもいいということだったが、がっちりとした畳にコンクリート質の壁は違和感があった。本人は全く気にしてないようだった。 綱さんはうちのカルデアの中では比較的新しく来た英霊だが、英霊にしては珍しく話が通じる人である。最近来ていた英霊たちがヤバそうな人たちばかりだったので(スタッフ如きが話しかけられるような人ではなかったので)綱さんのような性格の人は重宝されていた。最初こそ困惑していたようだったが、相談を受けてくれる体勢ではある。彼は話は聞いてやろう、と上から目線で言った。それでもありがたかった。 「ウチのカルデアには清少納言さんがいませんしあと平安時代に生きていたサーヴァントというとあなたぐらいしか……」 「ハァ……。俺はそんな色恋沙汰のことなど知らないが。金時に聞いてみたらどうなんだ」 「ゴールデンのチョコレートがいいの一点張りであの人にそんなチョコレート贈ったらセンスが疑われそうで」 「おい、さらっと金時のセンスを下げるな」 「あっ、すみません。そういう意味ではなくてですね、金時さんに相談してそのまま頷いてしまったら、もう金時さんの感覚に頼りっきりで俺の気持ちが籠ってないと思われそうという意味です」 ああ~~~、と綱さんは顔をしかめたあと、そういえばとまた俺に視線を合わせた。 「……俺じゃなくて、道満殿がいるじゃないか」 「あ、ああ~~」 「なんだその顔は」 「いや、俺……。あの人に嫌われてるっぽくて」 直感的なものだった。実際に口に出された訳では無い。ただ、彼は俺といるのを避けているみたいだったし、話しかけるときもいつも俺じゃなくて違う人に頼むのだ。 「……その結論を導くのはまだ早いかもな」 「えっっ。まさか、俺、殺されるとかですか……?」 「なんでそうなるんだ?」 結局、綱さんはチョコレートは紫式部殿にあげても大丈夫だが渡す時にはお世話になった礼であることを強調しておけと言って俺を追い出した。いいアドバイスをもらった、とほくほくした気持ちで部屋を出てくると誰かサーヴァントが目にも止まらぬスピードで俺の横を通り過ぎた。一体誰だったのだろう。とりあえず、部屋に戻ってお礼を書いたカードを用意しよう。 * * * ――これからあなたの元に#名前2#がチョコレートを持ってくるかと思いますが。彼は、あなたに恋愛感情など抱いてないようなので。お気をつけた方がよろしいのではないですか。 紫式部は困っていた。目の前の蘆屋道満は怖い人だが、それ以上にめんどくさい人だった。 彼の言う#名前2#は紫式部にとっては生徒の一人でしかない。自分が歴史などに疎いままカルデアにいることが恥ずかしい、と図書館に来て勉強するようになったいい生徒である。他にもミランダというスタッフからも同じようにチョコレートをもらう予定だ。ミランダから教えてもらった。#名前2#からのチョコレートも同じものだと分かっている。それをもらえるというのはとても嬉しいけれど、蘆屋道満その人の反応がとてもうざい。 言われなくても知っております……。そう返せたらどんなによかったか。 「それで、彼はチョコレートもらったと言ってましたか?」 「あ、ああ……。スタッフの間ではそういうことはないと言っていましたよ」 「そうですか……。まあ念の為、調べに行きますが」 この場合の調べる、とは霊体化して#名前2#の部屋に忍び込み探すもしくは式を送り込み探させる、である。カルデアにいるとプライベートなどあってないようなものだが、#名前2#の場合はそれが一層薄っぺらいものになっていた。 彼が蘆屋道満から嫌われていると勘違いしていることを伝えたらどんな顔をするのだろうか。紫式部は少しだけ気になったがこれ以上厄介事に巻き込まれてしまうのは嫌で自分の生徒に任せることにした。後世の言葉に、人の恋路を邪魔するものは馬に蹴られて死んでしまえというものがあるようだし。きっと、#名前2#のことだから大丈夫なはず。 リンボの手の中にある豪華な包箱は無事に彼の元に届けられるのだろうか。もし、ちゃんとリンボの思いが遂げられたらおとぎ話のように語り継がれるものになるだろう。紫式部は蘆屋道満の顔をしてまだあーだこーだ言うリンボの話を聞き流すように頭の中でそんなことを考えていた。