証明すべきもの「欠けている」「釘」「悪徳」
ちゃんねるとジャファーの話続編です。これ、普通にアニメ版としてでも読めるんでしょうか…? よくわかりません。お好きなようにお願いします。 「私が、一番になりたい。お前の、一番に」 幽霊が、泣いている。初めて見たはずなのになぜか「初対面」という気がしない。いや、あの寝ぼけてみた夢は、本物だったのか。あの、赤い幽霊は、今赤い服を着て普通の人間と同じ肌色で、悲しそうに見つめるコイツなのだろうか。……俺はこいつの名前を知っている気がした。それを呼んであげなければならないような、そんな気がしたのだ。 「ジャファー?」 幽霊はまた一層泣き出してしまった。いちばん、一番と繰り返す幽霊に俺はなんと返せばいいのか分からなかった。 俺の家は事故物件というもので、元からポルターガイスト現象とかあるのかなとワクワクしながら住んだところだった。最初のうちはそんなこともなかったが、ある旅行から帰ってきたときにうちにもそういう騒ぎが起こるようになった。一人暮らしで寂しくしていたことだし、動画のネタにもなるなあと思って放置していた。ガイストさん、と呼びかけると反応があったので俺はとりあえずそう呼ぶことにしていた。 ポルターガイストはジャファーという名前によく反応していた。うちに設置したルンバにジャファーと名付け養生テープで名前を書いて貼っていたのだが、ポルターガイストがあまりにも怒るのでテープはさすがに外した。うちの皿はポルターガイストに割られないようにプラスチック製のものに変わり、落とされたら困るものを机の上に設置するのをやめて、物もどんどん減らしていくことになった。物が減っていく中でも、絶対に落とされることのなかったランプを見ていればさすがに俺も気づく。このランプは曰く付きなのだ、と。DMで教えてもらったアグラバーについての本もたくさん読み込んだ。ジャファーは悪徳に満ちた宰相であった、という意見もあったが「そうではないかもしれない」という論も見かけるようになった。俺が知らないうちにアグラバーについての話がいっぱい出ていたし、研究も進んだようだった。アグラバーの格差社会の話、ジャファーの成り上がった世界の話など。俺には想像もつかない話がいっぱいあった。それを読みながら、ジャファーのことを嫌いになれない理由のことを考えたけれど言語化は失敗した。好きだと思ったから好きだという。その程度の理由しかなくて、俺はなんだか自分が情けないように思えたのだった。 俺はある日、とある女性と出会った。彼女は同性愛者だったが、親のために男と結婚したいのだと言った。彼女は俺にアグラバーについて教えてくれた人だった。俺はそれにうなずいた。別に結婚してもしなくてもいいやと思っていた人生である。生活を共にするわけでもないから、と言われて軽くうなずいた。親に挨拶をして、式を挙げる。指輪をつけてそして俺の名字が彼女と同じになったとき、俺はふとランプを思い出したのだった。そういえば、最近ポルターガイストにあってないなあ、と。 「ねえ、そこにあるのって」 「え?」 彼女に指さされたのは一本飛び出ている釘だった。そのまま歩いていたら俺の足に刺さったことだろう。 「怖いわね。気を付けた方がいいんじゃない」 「……うん、そうする」 俺が笑うと彼女は手早く釘を抜いてしまった。どう考えてもさかさまに出るはずのない釘を見ながらポルターガイストが何か力を蓄えてきているのを感じていた。 ある日、いつものようにポルターガイストの被害がないかと確認していたらランプの先が欠けていることに気づいた。買ったときにはこんな傷なかったはずだ。ランプの直し方なんて俺には分からない。どうしようかなあ、と思いながらランプを膝にのせて検索してみた。骨とう品の修復で、いいのだろうか。さっぱり分からないけれど直さなければいけないのでは、という気になっていた。その日はちょっとだけショックな気持ちを胸に抱えて寝た。 そのせいだろうか。夢に、男が出てきた。黒と赤の衣装で、マントをつけて、ターバンをつけていた。 「一番でなければ、意味がない」 男が泣いていた。慰めてやりたかったのに、俺の体はすり抜けてしまう。落ち込むなよ、と声をかけるも彼には聞こえてないようだった。泣きじゃくる男に俺はだんだんと可哀想な気持ちになったのだった。せめて話を聞いてやれればいいのに、とそう思っていたら男が突然顔をあげた。俺とぱっちり視線が合っている。 「結婚したではないか」 「え」 「俺を大切にすると言ったくせに。お前は女を選んだではないか」 俺は、この男に話しかけられている。俺の名前を呼んだわけではない。今、この見ている視界が誰かのものかもしれない。それでも、俺は自分へ向けているものだと思った。 一番になりたい、と泣く男に俺は言いたかった。勘違いしてんじゃねえ、と。いろんなものを片付けても、ランプを絶対に捨てなかったのは、つまり、そういうことなのだ。