「嘘」「気付き」「そう」
※スカラビア寮のストーリー解放前に書いている夢であることを念頭にお読みください #名前2#・#名前1#はカリムと同じくらい、いや別の意味で手がかかるタイプの生徒だった。ジャミルと同じくカリムの従者だが、学校に来てから「従者」になったタイプだった。ジャミルの家よりもかなり格下の一族らしく、ナイトレイブンカレッジに入学が決まったことで慌てて従者として設定された。らしい。ジャミルもカリムもよく分からないままとにかく「新しい従者の#名前2#・#名前1#」が寄越された。#名前2#の方もカリムたちの顔を分かっていなかったらしく、入学式典の前に彼は「カリム様ーーー!! ジャミル様ーーーー!!」と叫んだくらいだった。最早伝説とも呼ばれている1場面である。その場に居合わせた教師も寮長たちも同じ新入生たちもあの一瞬の静寂とジェイドの吹き出す声と一斉に広がった忍び笑いを忘れることは無いだろう。#名前2#はやばいと思ったのか静かになったがジャミルは顔から火が出そうなほどに恥ずかしかったし、カリムは「あいつめちゃくちゃ面白いなぁ」と笑いを堪えきれずにいた。 式典のあと、#名前2#は「ようやく見つけましたよ! カリム様! ジャミル様!」と駆け寄ってきた。身長はジャミルよりも数十センチ高く、カリムを包み込めるのではないかと思うくらいにデカかった。筋肉も多く、2人と比べると#名前2#はとにかく圧がある存在だった。ただそこに浮かべている笑顔はカリムのお眼鏡にかなったようで「お前、いいやつそうだな!」とカリムの方から1歩だけ距離を縮めてもらった。それがどんなに凄いことなのか分からないまま#名前2#はまるで大型犬のように「はい!!」と力強く頷いたのだった。 前スカラビア寮の寮長ことイウナンとその従者ルイアンは#名前2#のことを今でも笑い話にしているらしく時たま手紙が届けられる。#名前2#は元気にしているか、と言われてジャミルは「元気が有り余りすぎてカリムと騒いでいます」と返事を書く。イウナンはそれを手紙で読むのが楽しいらしく、わざわざスマホではなく手紙で聞いてくるらしい。ルイアンの方は普通にジャミルに電話をかけてくる。 なんで2人とも俺に連絡を入れてくるんだ、と最初のうちは怒っていたがイウナンからしびれを切らした様子で「#名前2#とはどうなったんだお前は!」という手紙が来てようやく自分が心配されていることを知った。ジャミルはその返事を何と書こうか時間をかけて考えた。嘘をついても仕方ない。ジャミルは正直に、「あいつはただの友人ですよ」と書いて手紙を返した。嘘つけ、と言われるかもしれないが本当に友人である。なぜなら、#名前2#の方からいつもそう言われているのだから。 #名前2#は元々従者として教育を受けていた訳では無い。そのため、執事としては驚くほど不満足な出来だった。ジャミルはカリムのことはいいから、お前はとにかく卒業することを目指せと1年生の途中で命令した。食い下がられることも考えていたが、#名前2#は自分の勉強も満足にいっていなかったためか、その命令にも大人しく従った。 「おい、俺はお前の任を解くと言ったんだぞ」 わかってるのか、とジャミルは確認したが#名前2#は最初にあった時と同じように笑うだけだった。元から誰かを助けることが苦手だと#名前2#は言っていた。そんなお前が騎士になれるのか、とジャミルは少し心配していたのだが意外にも#名前2#は命令を受けてからの方が仕事を果たせていた。カリムがトラブルを起こせば助けに入る。ジャミルを呼ぶ。大きな被害になる前に収める、などなど「なんで普段からこれが出来なかったんだ」ということが多々あった。 俺、なんか、気張らない方がいいんですよねえ、と#名前2#が笑うのでジャミルは「そういうもんなのか……」と納得してしまったが従者としてそれは評価できない気もした。 同じ従者だからと、ジャミルは自分には様付けしなくていいと言うと#名前2#はあっさりと敬語を外した。カリムの方も外していいぞ!と気軽に言うものだから幼馴染でもないのに#名前2#は昔からの友人であるかのように気安く話しかけるようになった。ジャミルはそんな光景が何だか疎ましくもあったがカリムが表裏のない信頼出来る友を欲しがっていたのかと考えると我慢するしか無かった。自分の気持ちがどこかトゲトゲしいのには気づかない振りをした。 カリムはよく「助かった」と言う。ジャミルがいて助かった。#名前2#がいて助かった。ジェイドがいて助かった。あっさりと快活に、それでいて軽々しくはない程度で主人は礼を述べる。それに比べるとジャミルは中々「ありがとう」と言えなかった。特に、#名前2#に対しては。 「おっと」 「ジャミル、俺が取るからいいよ」 #名前2#はひょい、と棚の上にある地図をとってくる。今日は国ごとの特産物とどんな魔法士がいちばん多いのかという地理的な話だった。ジャミルとカリムのペアにひとつ、自分のペアにひとつ。大きな地図を#名前2#は取ってさっさと人混みからでてきた。 ああ、と頷いたジャミルに#名前2#は笑う。まるで恋人にするかのようなその仕草だが、ジャミルと#名前2#とは友人だ。#名前2#の方から「本当にジャミルはすごいよなあ。友達のことなのに俺の方が誇らしいよ」と笑って言われた。#名前2#はジャミルを褒める時に「いい友人だよ」と言う。ジャミルの気持ちを止めるかのように何度も、何度も言う。ジャミルは大人しく「あいつからはそういう対象に見られてないのか……」なんて思うタイプではない。ジャミルはそれなら、と#名前2#に何かと任せるようになった。もちろんカリムの面倒は自分が見るが、#名前2#に自分の世話もさせるようになった。案外楽かとも思ったが、意外と人を振り回すのも大変だ。特にジャミルのように普段は「世話をする」方だと尚更。礼を言わなくなったのもその1つだが、#名前2#の方にはダメージはない。いつも通り過ごしているだけだ。ジャミルによる口撃は全く意味がなかったらしい。ここまで来るといっそのこと諦めた方がいいのでは、と思う。どうせ卒業したあとも#名前2#とはカリムと一緒に仕える身なのだから今そこまで頑張る理由もないだろう。そう考えたらじくじくと痛む胸も何とか塞がりそうだった。いや、塞がってくれないと困る。これ以上ジャミルは#名前2#のことで頭を悩ませたくなかった。 翌朝からジャミルは#名前2#に世話をしてもらうことをやめた。元々される必要もなかった身分である。#名前2#は何かと手持ち無沙汰な様子をしていたがカリムがいつも以上に人を振り回すので段々と#名前2#も大人しくなっていった。ジャミルは#名前2#の身長や力を借りなくても魔法で何とかできる。#名前2#のことを気にしないようにしてマジカルペンを使うとカリムはじっとジャミルを見て「今日はなんだかいつもと違うなあ、ジャミル」と笑った。 「そうか?」 「ああ。わざと#名前2#を引き離してるみたいだ」 ほら、あいつ犬みたいに俺たちのこと見てるぞ、とカリムはペンで#名前2#を指した。 「……気のせいじゃないか」 「嘘だな」 カリムはニコニコと笑ってジャミルを見ている。錬金術の授業で助かった、そうじゃなかったら絶対に先生に目をつけられていた。 「#名前2#のこと、もっと信用しても良いんじゃないのか」 「はあ?」 「お前が思ってるよりも#名前2#だって考えてるだろ」 カリムはそれだけ言って大鍋を覗き込んだ。いい具合に緑色の液体に変わってんぞ!とカリムが言うのでジャミルは#名前2#を見るのをやめた。本当に? あの男が、自分以上に考えることなんてあるのか? 考えても考えても答えは出てくれなかった。