ナイトサファリ「星」「健気」「思慕」

※サメぬい出てきます  俺が村の女と結婚するとそう言った時、幼馴染は海賊になった。二人でこの村で生きていくとは思ってなかったし、ゼフが外に行きたいと思うのは予想できていた。ただ、なにも幼馴染で親友の俺が結婚するってなって海に出るのはひどい。ゼフが海に出ていく時、泣かねえからな!!と俺は叫んだ。ゼフは笑って海を出て、俺はその姿を見送って泣いてしまった。あいつはこれから悪者になる。だというのに、とても晴れやかな出発だった。  ゼフを見送ったあと、マリアと結婚をした。マリアは俺に「海に出なくてよかったの?」とたまに聞いてくる。その度に俺は「この村で死にたいんだよ」と返していた。  時たま送られてくる手紙には嫁さんは元気にしてるのか、とか聞いてきたがあいつは俺のことを心配することなど一切なかった。ある意味特別な信頼だ、と妻は笑っていたが俺にはわかる。ゼフからの嫌がらせだ。俺には嫌がらせをするのに、ゼフは俺の妻と娘にはとても甘かった。娘が生まれたと手紙を送ったら(届くとは思わなかったが)、なんとゼフはちゃんと返してきた。ゼフに助けられたのか脅されたのかとよく分からない船が俺たちの島に寄ってマリアとその娘、エヴァに、とサメのぬいぐるみを寄越したのである。なんでサメ?と俺は思ったが妻も娘もそのサメを大事にしていた。 「知らないの? サメは止まると死ぬのよ」 「そりゃあ知ってるけど」 「道標の代わりなんじゃないかしら。船に乗ったら星がしるべになるように。陸ではサメがそうなるんだわ」  妻は俺よりもロマンチストだった。娘もそんな妻に似てか子ども用のサメぬいだけは捨てずにとっておいた。俺にはそんなプレゼント貰ったことないー、と言ったら娘も妻も笑っていた。 「お父さんはいいの、いっぱいもう貰ってるでしょ」 「ええ?」 「エヴァ、残念ながらね、おじさんになると素直にはなれないのよ」 「えぇー、めんどくさいなあ」  全然話が分からないけれど娘たちにめんどくさいオジサン扱いされたのは分かった。ちょっと悲しかった。しくしく、と泣き真似をしたら娘に本気でドン引きされたのでやめた。  夜、マリアに話を聞いてみたらクスクスと笑いながら教えてくれた。 「あなたってば。本当に気づいてなかったのねえ」 「えー、なにが」 「私ね、ゼフさんに前に言われたのよ。#名前2#のことを頼んだって」 「あいつがぁ? 何かされなかった?」 「すっごくブッサイクな顔だった。でも、すごく愛があるなあって思った。あなたの事が本当に大切なんだなって。あの手紙は、愛の形なんじゃない?」  妻のいたずらっ子のような微笑みは俺が惚れた時と変わらない。いつまでも可愛くってそれでいて寂しそうだった。俺が好きなのはマリアだよ、と言ってもマリアには伝わらない。マリアは俺以上に#名前2#という男についてよく分かっているみたいだった。  死ぬ間際の彼女は俺に囁いた。  あのサメのぬいぐるみ、あなたにあげるわ。  死ぬ時に他の男のプレゼントを口にするなんて、君はひどいやつだ。本当に酷い。俺を置いて死んでいくなんて。  泣き言を叫ぶ俺の手を握りしめてマリアは亡くなった。彼女が日々大切に世話をしていたサメのぬいぐるみは俺の手元にやってきた。  幼馴染が何を思ったのかイーストブルーでレストランを開いたという。何言ってんの!?と電伝虫で聞いてみたら「お前の働く枠も残してあるからな」と一言言われて切られてしまった。  健気にも俺はサメのぬいぐるみを抱えてレストラン・バラティエに突撃した。 「いよぉ」 「……。待ってたぞ」  着いたのは夜中。バラティエに行くにはどうすればいいんだろう、と思ったらサメぬいが本当に道標の仕事をしてくれた。慣れない船の操縦で死ぬかと思ったがサメぬいはどこか変な方向に行くとすぐ助けてくれたのだ。道中、サメぬいに話しかけながらいたので動いた時には感動の嵐だった。本当に助かる。しかし海上レストランなんて変なものを開いたものだ。それに……。俺に知らせてきたのも。あいつは、何かエスパーのようなそんな超能力でもあるんだろうか。悪魔の実でも食べたのかもしれない。  そんなことを思いながらノックすると扉はゆっくりと開かれた。 「遅かったなあ」 「慣れない船を漕いできたんだから上出来だろ」 「それもそうか」 「お前のくれたサメぬいのおかげで迷わずに済んだよ、ありがとな」 「ああ? 俺がやったのはただのぬいぐるみだぞ?」 「えっ……。えぇっっ!!?!」  じゃあこのサメぬいは一体………。サメぬいはもう動いてはくれなかった。ゼフは俺を見て「やせたな、お前」としみじみとオッサンのようなことを言う。 「そういうお前は物理的に削いできたな」 「部分痩せだ」 「何言ってやがる!」  昔のような軽口を叩きあいながら中に入るとサメぬいはかすかに動いたような気がした。もう一度見てみたが何も動いてない。ゼフは慣れた手つきで酒のつまみになりそうなチップスとワインを持ってきた。 「そういえば……強い思いは物に宿るって聞いたことがあるな」 「そうなのか」 「マリアの気持ちが宿ってたんじゃねえのか」  マリアの気持ち。本当にそうなのだろうか。ゼフを見ると楽しそうにワインを飲んでいる。お前の思慕があるんじゃねえの、と笑うようなことはできなかった。ゼフの向かいの席に座ってワインを受け取る。一気に飲み干すと「折角のいいワインが台無しだ」とめんどくさい声が聞こえた。 「いいじゃねえか、俺とお前の仲だぞ」 「何言ってやがる!」  さっきの俺のセリフを今度はゼフが言う。久々に再会して笑いの沸点が低くなってる。げらげらと笑ってしまう。ひとしきり笑ったところでゼフは「ここで働いていけよ」という。 「どうせ家じゃ1人なんだろ」 「サメぬいがいるっての」 「だから、それは動かない……」 「うん……でも、もし、またバラティエに行くって俺が船を出したらこいつがまた道標になるかもしれないだろ?」  お前のところには今度から俺が通うよ、と笑ったらゼフは酔っ払って赤らんだ顔でまたげらげらと笑った。 「そうだな! お前はそういうやつだ!!」 「何言ってんだお前」  そのまま2人で夜通し話したあと、そのまま俺はバラティエの従業員に発見され、ゼフが俺が働くのをかなり楽しみにしていたと知るのはまた別の話である。