ハッピーエンドを連れて来い「瞬間的」「消える」「曇天」

  ようやくこぎつけたデートだというのに天気は生憎の曇天だった。今日は○と外に行き、服を選んでもらうはずだったのだ。このままだと予定が消える可能性もある。#名前2#のスマホに連絡を入れようとすると向こうも既に僕にメッセージを送っていた。 「今日の天気、ちょっと微妙だな。またにするか?」  また、というのは具体的にいつなのか。今日のことを僕がどれだけ待ってたのか#名前2#は知らないのだ。 「いや、行こう。雨はそんなに長くは降らないだろうから。店の中に入ってればいい」 「それもそうか」  #名前2#の説得はうまくいった。デートなのに着ていく服がまだよく分からない。学校の制服ではダメだと言うし……。普段の私服が#名前2#に気に入ってもらえなかったのだから今回のデートがあるわけだが。 「……。これでいいか」  迷ったが薄いシャツにスラックスをはいただけにした。#名前2#に会うのにこんなにシンプルでよいものか考えたが服を選んでもらうのだからありのままの自分を見てもらわなければならない。これでいい、と自分に言い聞かせて鏡舎に向かった。  #名前2#はもう既に鏡の元にいてマレウスのことを待っていた。外出許可を出してくれたファレル先生と何か話し込んでいる。マレウスはその会話の中に自分の名前が出てきたことに驚いて立ち止まってしまった。 「…ほんとビッックリしましたよ。マレウスたちというか、妖精はみんなそういうもんなんですかねえ。だってドルガバですよ!?俺、頑張ってもアクセサリー買えればいい方ですもん」 「妖精というかドラコニアが特殊なんじゃないか? 妖精の王だろ」 「いや、そうは言ってもですよ!? H&M知らないんすよ!? 最初のデートで俺、ドルガバで揃えたっぽい男の横に立つのか……って悲しくなりましたからね」  ファレルの笑い声が響いてきた。マレウスは服の価値を気にすることはあまりない。もちろん王として、上に立つ者として気を遣うことはあるがそれを恋人にまで当てはめる気はなかった。#名前2#が着ているのならそれが1番だと思う。それにあの時着てきたカーディガンのコーディネートも似合っていた。でも#名前2#にとってはそうじゃないのだ。隣に立った時に人に見られることを考えている。安っぽい男がマレウス・ドラコニアの横に立っていると思われるのが嫌だという。  そろそろ行った方がいいかもしれない。ファレルの尻尾はゆらゆらと揺れながら鏡の方を指していた。  待たせたという言葉と共に鏡のもとに行くと#名前2#が楽しそうに出迎えた。前回のデートとは少し違った表情でマレウスも安心する。ファレルはマレウスを見て笑うのを我慢した表情で「鏡、繋げてありますからね」と言う。 「……先生、僕の話は」 「マレウス、雨降る前に行っちゃおうぜ」  #名前2#がマレウスの背中を押した。瞬間的に見えたのは#名前2#の赤い耳だった。なんで#名前2#の方が照れているんだろう。背中を強く押されて鏡の向こう側、いわゆるモールと呼ばれる場所に来てすぐにマレウスは後ろを向いた。#名前2#は顔を赤くさせてマレウスを見ていた。 「……。今日の僕は、#名前2#の隣にいていいだろうか。変じゃないかな」  震えた声が出てきてマレウスは自分でもずっと緊張していたんだと変な気持ちになった。#名前2#はちょっとビックリした顔をしたあと、恥ずかしそうに腕で顔をおおってしまった。 「……今日は、シンプルで合わせてくれたのかなって勝手にうぬぼれてたからさ。今、そう言ってくれてすげえ嬉しかったって……答えに、なってない。ごめん」 「ううん、……#名前2#がそう言ってくれるのは嬉しい」  はやく行こう、と#名前2#の手を取ったらぐっと手を引っ張られた。#名前2#?と振り向くと意を決したような顔で#名前2#が僕を見ていた。 「その恰好、すごく。似合ってるから」  僕はそこで初めて誰かのために服を着替えることの喜びを知った。  ファレル先生~!と名前を呼ばれたので振り向くと#名前1#が走って近寄ってきた。どうした、と聞くと「すいません、相談に乗ってくれませんか!? あのドルガバ野郎!」と叫んだので吹き出すかと思った。結局くもりデートはどうなったのかと思いきや、マレウスに何を着せても似合いすぎるということでH&Mはやめてもっと似合う/似合わないの差が激しいアウトドア系に手を出したらしいのだが。 「あいつ……顔がルイ・ヴィトンなので何着てもそれなりにクールに見えるんですよね。腹立ちます」 「それは、男としてドラコニアに向けてるのか? それとも恋人としてドラコニアを見るやつらに?」  #名前1#はぐうっと押し黙ってしまった。 「ファレル先生ってたまに俺たちの恋路をひっかきまわして楽しんでるように思います」 「バレたか……」  反応が面白いからという理由でこれ以上突っ込むのをやめても、どうせまた相談という名目で惚気に来るのは分かっているのに思春期の子どもというのはよく分からない。