「威圧的」「見える」「思考」

「まるでせむし男だな」  そう威圧的な声をはなって俺を見下ろしている方々がアンクルのチームメンバーということ、らしい。ウェーバリーの部下に配属されたせいでチームのエンジニアとして登録されたはいいが長らくメンバーも決まらないまま俺とギャビーと2人で活動していた。実質ただのコンビである。ウェーバリーはいつも指示を出す側で俺はその手助け、実質働いていたのはギャビー・テラー1人である。それでもチームとしてメンバーはいつか加入させるつもりだよとウェーバリーが言うので俺もギャビーも「真偽は置いといて」その言葉を信頼していたのだった。  そして加わったのがナポレオン・ソロ、イリヤ・クリヤキンというエリート2人である。アメリカからもロシアからも連れてきてしまったらしい。ウェーバリーこわっと呟いたら聞かれていたらしく背中を叩かれた。2人の経歴はスパイによくある「上に人質を取られているタイプ」だった。誰もが好きでスパイをやっている訳では無い。限界以上のものを引き出すために卑劣な手段を講じる上層部はどこにでもいるものだ。それこそウェーバリーのような男たちがという意味で。 「このせむし男のような背中の曲がり方をしているのが#名前2#だ。君たちと同じくアンクルのメンバーとして上司に認識されている」 「こんな弱そうなやつがか?」 「君たちよりも電子機器の使い方はお上手だよ」  ウェーバリーが煽るような言葉で言う。俺は喧嘩する気はない。やめてくれ、と首を振るとソロという方が「それで……君は自分のことを守れるのかい?」と最もなことを聞いてきた。 「そりゃあ勿論。捕まったらすぐに死ぬでしょうね」 「話にならないのでは?」 「俺が嘘をついてるのか本気なのか敵が分かるとも思いませんが」  俺以外の皆さんは捕まるなんてヘマはしないでしょう?と言うとギャビーも首をふった。 「癪だけど、#名前2#の利便性は保証するわ」 「奇遇だね私も今同じことを言おうとしていたよ」  ウェーバリーは笑って俺の肩を叩いた。ウェーバリーのこういう所が嫌いなんだよなあと思ったが何も言わなかった。  俺の見ている限り、このフィールドを上手くコントロールしているのはナポレオン・ソロで……ここをひっちゃかめっちゃかに掻き回すのはウェーバリーの方だった。リーダーがそんな存在でいいのか分からないが「チームから離れる」という選択肢は今は生み出されていない。  今日もまたイリヤの強行突破に俺が無理やり付き合わされ、ナポレオンがカバーに入った形になった。一応俺もフォローする形だったとは思うのだがギャビーにはそうは見えなかったらしい。 「#名前2#ってたまにわざわざトラブルに首を突っ込んでるんじゃないかとさえ思うわ」と言われた。そんなことない、と俺が否定してもギャビーは聞く耳を持たなかった。「#名前2#って今までマーリンみたいなメンターかと思ってたけど……違うわね。彼に失礼だわ。新しいあだ名を考えないと」なんて言い出した。俺にそんなあだ名をつけてたのか、とそれなりに一緒に任務を組んでいたのに初めて聞いた。ギャビーは「そりゃあ言ってないわよ、悪口だもの」とあっけらかんと言う。そこは別に教えてくれなくてもよかった。 「#名前2#に似合うのはジキルの方じゃないか?」  俺とギャビーの会話にソロが楽しそうに入ってきた。さっきまで血と硝煙とにまみれていた服はキレイさっぱり全て着替えてきたらしい。ついでにワインを持ってきた姿は完全にハニートラップのための演技にしか見えなかった。 「ああ、何となく分かるかもしれない」  ギャビーたちの会話にはついていけない。俺はさっさとアジトに戻ろうとしたが今まで黙ってカウチに寝そべってたイリヤがのっそりと「サンチョ」と言い出した。 「おいおい、俺たちの中で誰がラ・マンチャだって?」 「ウェーバリーのことじゃないの?」  #名前2#はサンチョだ、と呟いてイリヤはまた不貞寝に入ってしまった。任務はなんとか終わったから良しにするが俺を巻き込んで面倒な肉体戦に踏み切ったことはこいつの責任である。謝罪がほしかったがそれは全く与えられないまま一日が終わった。  イリヤが不貞寝からそのまま眠りについたことを確認してソロは自分の部屋に向かった。いつものように部屋に盗聴器の類はないことを確認してから、話の一部始終を聞いていたであろうウェーバリーに無線を繋げた。 「聞いてましたよね」 「なにがだい?」 「#名前2#の話です」 「そりゃあそうだろうよ。聞かない訳にはいかない」 「……イリヤのこと、どうするおつもりで」 「まだどうもしないさ。彼には自覚がない」 「#名前2#の方が先に気づくかもしれない」 「それもある。だが奴は同性愛なんてバカバカしいことを許すように見えるか?」  見えない。だからこそソロは困っていた。イリヤはギャビーと恋人ではない関係性を選んだ。彼女たちは恋人としては合わなかったとも言えるし、あえて何もせずに横にいる関係性を選んだとも言える。ソロは人生の楽しみとして女を抱きたいと思うがそれは恋ではなかった。恋に似たなにかである。  ウェーバリーはどちらかというとギャビーやイリヤよりもソロの思考回路に近い。人が好きではないので軽率に切り捨てることができる。唯一捨てていなかったのが#名前2#だったくらいだ。彼は運がいい。いや、もしかしたら良くないのかもしれない。ウェーバリーに捕まり、イリヤにもまた掴まれそうだ。 「安心してくれ、コードネームアンクルはそんな簡単に消えるようなものじゃない。死ぬ時はみんな一緒だ。有難いことに死に別れるという心配がないだろう」  ウェーバリーは笑って無線を切ってしまった。ソロは開けたばかりのワインをグラスに注ぎまた飲み干した。別に#名前2#とイリヤとギャビーとで三角関係が生まれようと恋人が生まれようと自分には関係ないのだが。何となく、この4人で死ぬということになったときに「一緒に死ねてよかった」なんてことは思いたくないなと、そんなセンチメンタルなことを考えていた。