彼女の本丸運営がまとまるまで

 とりあえず、昼飯をさっきのように食って出陣させることにした。時間に厳しい世祖はイライラしていたがなんとか手で遊ぶ爪弾きを教えてしのいだ。あんまり怒ると本丸がめちゃめちゃになるから困るとこんのすけが教えてくれたのだ。  それはそうと、なんの原理かは分らんが天井から紙が降って「出陣しろ」と書いてあるのだ。あまりにも文字がつながりすぎていて読めなかったのだが薬研が代わりに読んでくれた。一家に一振り、翻訳薬研。ぶっちゃけ、薬研よりもドラえもんほしいとか俺は思ってないぞ。 「えーっと、第一部隊の隊長が近侍ってのになるのか。でもまあ、正直近侍の仕事も俺がやるみたいだし普通の隊長扱いでいいよな」  とたんに加州と長谷から"えぇ~"という目線が送られてきた。が、無視だ。 「とりあえずー、隊長は……あー、そうか。レベル低いやついれるか。小夜、いけるか?」 「…うん。わかった」 「よっし、あと本丸に残るのはーあー、レベルの高めな…ゴコと薬研。お前ら残れ」 「わ、わかりました!」 「わかったぜー」 「あ、加州。お前は陸奥ときちんと仲良くなってから隊長として出陣だかんなー。ほれ、刀装作るから小夜おいでー」  こくりと小夜は頷いて、刀装部屋にやってきた。 「えっとー、短刀には歩兵だったか」 「うん」 「んで、打刀の長谷と加州と太刀の燭台切は騎兵か」 「そうだよ」 「ほれ、世祖。刀装つくんぞー」 「とーそー?」 「歩兵のレシピって知ってるか? 小夜?」 「全部、50でオーケーだよ」  はいよー。と#名前2#は世祖に力を籠めるよう促した。 「お、金色」 「特上だね」 「歩兵かー。えーっと、小夜と今剣、あと秋田がいるから、予備も含めて5個作るか」  金色の玉を量産していき、長谷と加州には投石兵と軽騎兵。燭台切には重騎兵を2つ用意した。 「……すごいね」 「そうなのか? 俺にはよく分からんが…。まあ、いいや。それ、お前らー。刀装つけて出陣だぞー」  刀装をもらう際に、燭台切はちょっと目をパチクリさせて「あ、りがとう」と言った。 「ごめんなー。うちんとこまだ馬いないらしくて、お前だけ機動遅めになっちまった。とりあえず、重騎兵で動きづらかったら軽騎兵に変えるから」 「……うん!」 「よし。あ、長谷と加州ー。お前らだけしか遠戦持ってないんだからしっかり仕事しろよー」 「ふん、解っている!」と長谷は言ったが加州がぶすっとした顔を崩さなかったので後で文句つけてやろ。 「短刀組はとりあえず敵との戦い方を知ってこーい。お前らみたいな懐刀はとにかく間合いに入るまでが大変だがそっからは強い。敵の弱い今、やってこい。刀装はがしとこぼれた敵は長谷と加州と燭台切が斬るから」 「はーい」  とりあえず、鳥羽に送って「さあ、お前ら! 掃除すんぞ!」と言った。 「掃除?」 「そうだ。ここ、埃っぽいんだよなー。俺、あんまり臭いのいやなんだよ。男衆ばっかの家に、世祖がなれたら困るだろー」  そういって、#名前2#は世祖のことをおんぶひもでおぶり、こんのすけを呼び出した。 「なんでしょうか? #名前2#さま」 「おうっ。ほうきとぞうきん。バケツに、あと長めのホースを用意してくれるか? あ、そうそう。あと、はたきとー…。でかいゴミ袋をくれ」 「了解しました。すぐに用意しておきますね」  こんのすけが姿を消したのを見て、#名前2#はゴコと薬研に向き直り「さっさと内番服に着替えてこい、ボケナス」と毒を吐いたのだった  あの、薬研兄さん。と五虎退が近寄ってきた。なんだ?と返すと、五虎退はいつもみたいな笑顔のまま、「#名前2#さん、どうしてぼくたちのこと使わないのかな!」と言ってきた。 「あー、そりゃ俺っちたちがレベル高いからじゃー…」 「あ、えっと…。ぼ、ぼくが言ってるのは、陸奥守さんのことです!」  ひくり、と喉が鳴った。か  あえて、みな言わなかった。あの人が腰に提げているのはまぎれもない同胞。しかし、加州たち曰く顕現されたのは初日のみ。検非違使と戦った時ですらも、あの人は刀を使わなかった。刀剣たちの殺気が浮き立つ中でもなんにも変らないまま上座に座った。  そりゃあ、自分だって使われたいと思う気持ちはある。だが、それは#名前2#ではなく世祖に向けてだ。  薬研は急に目の前の拾われた同胞が怖くなった。他の本丸ではブラック本丸から受け取った刀剣男士と仲良くなったりもしているらしい。だけど、だ。本丸にきたところで、そこにいる人間(さにわ)を主と認められるか? たとえば、その人間が自分たちを使うような…いわば戦闘系審神者とかなら認めてもいい。刀は本来振るわれるべき存在だからだ。そう。使われる。使役されるのだ。例えブラック本丸であろうが、ホワイト本丸であろうが使われることに代わりはなく人間が憎いというよりも審神者が憎くなることは当たり前なのだと思う。  ブラック本丸からきた刀剣男士はみな口をそろえてこういう。 「人間は信じない」  それは嘘だ。前の主のことは信じていたし、手入れをされれば心が安らいだ。嫌なのは審神者だ。自分が戦うこともなしに、戦場へ向かわせる。そりゃあ、信長様のときは戦に出ることも多かったが一週間のうちに2回休みがあるとか、風呂に入るとか、そんなことはなかった。飯を食べることもだ。審神者は、俺達(刀剣男士)から見れば人間の観点にあわせた生活を強制させてくる人間と言えるだろう。  話を戻すと、#名前2#の刀を下げている姿は刀剣男士として羨ましく思い、使役されたいと思う。それが審神者へ乞う感情というやつだ。これが巡り巡って恋になったりするのだがそれは別の話。  つまるところは、薬研は臆せず言ってのける五虎退が怖かったのだった。 「薬研兄さん…?」 「……。ああ、」 「やっぱり僕じゃダメ…なんでしょうか?」 「いや、…」と言いかけてやめた。ここで肯定してやらないと誘導されてる気がしたからだ。 「五虎退が悪いってわけじゃないだろ。でも、あの人は陸奥守だけ。そう決まってるんだ」天命なんだ、と教えると五虎退は切なそうに「それじゃあ仕方ないですね」と言った。  これが諦めなのかどうか薬研に見極めがつかなかったことが彼ののちの失点である。  とにかく掃除だ。上からだ。頭にてぬぐいや布巾をかぶって、口にマスクをつけて、短刀プラス世祖には一応メガネもつけさせた。(中学の実験で使った、あのプラスチックのでかいメガネを想像するといい。)初めてのメガネという装備に世祖はわきゃわきゃとしていた。  天井や、梁や、絢爛な装備の欄間や、それに電球のソケットも。とにかくホコリを落として、ぞうきんで細かいところも拭いた。こんのすけが気をつかってくれたのか、マイクロファイバーもくれたのだが俺は昔懐かしのボロタオルを縫った雑巾の方がありがたい。  真っ黒になった顔を見て、世祖はきゃらきゃらと「ぐろ! ぐろ!!」と笑った。まるで俺がゾンビになったかのようだった。 「#名前2#さん、大丈夫か? 真っ黒だぞ」 「真っ黒助のお前に言われたくない」  薬研は「それもそうだな」と姿に似合わない形でかっこよく笑って五虎退に「ほれ、髪の毛が真っ黒になってるぞ」と手ぬぐいを放り投げた。五虎退は上手くキャッチできずに落とした手ぬぐいを手探りで見つけた。 「あうう~」 「ゴコ。こっちおいで」 「#名前2#さん…!」  てしてしとハムスターのように歩いてきた五虎退を膝に乗せて、髪の毛をふいた。小さな体は自分の体にすっぽりと包まれる。 「うう、痛いです…!」 「あ、ごめん」  考え事をしていると手加減を忘れてしまうのは俺の悪い癖だ。しょうもない。ゴコは涙目のまま、今度はタオルを頭に巻いてまた走って行った。世祖が起こした風によりほこりはすべて庭の片隅へと集められたのだ。後で、ゴミ袋に詰めておこうと思う。(俺の「神風か!」という発言に薬研もゴコも、それにこんのすけもちょっと残念そうな視線を送ってきた。どうやら、俺だけが世祖の仕業と気づかなかったらしい。)  さて、今は雑巾がけである。世祖は何を考えたのか手と足にぞうきんをくっつけて、四つん這いで「ぐぉおおおおん」と叫びながらこんのすけを転がしていた。こんのすけはちょっと泣きそうになりながら「やめてくださいよおおおおおお」と叫んでいたので、後で甘やかしてやろう。俺の方もぞうきんとバケツを用意した。 「っしゃ、お前ら! 競争すんぞ!!」となぜか俺が一番テンションをあげて床を蹴った。昔、甥っ子を育てていたときは体を進行方向の後ろにやって、自分の足跡で拭いたところを汚さないように横にスライド?させながらやる方法を学校で教えていたらしいのだが…。俺はそれよりも、足で蹴っていく昔ながらの方が好きだ。千と千尋の神隠しとか、あーゆーの見るとそう思ったりしないだろうか?  競争は、俺が一番乗りで終了した。黒々と汚れたぞうきんを、透き通った真水に入れる瞬間ってのはどうにも切なさがある。なんでだろう。じゅわり、とほこりが落っこちてぞうきんはざぶざぶとゆすがれる。  ぐしゃぐしゃになったところで、しぼるのだが水をたっぷり吸いこんだぞうきんは中々に絞りきれない。慣れていない人間は力をうまく伝えられないままに絞るのを終えてしまう。「ほれ、貸してみな」とゴコのぞうきんを手に取った。  両手で縦に持ち、ぐっと絞る。しぼって、持って絞って。かたーくしぼったところで、3人の「おお~」という声が聞こえた。  外を覗いてみると、出陣部隊が帰ってきたらしかった。こちらをまじまじと見つめる小夜と秋田と今剣。彼らは気づいていないかもしれないが、割とアホ面だ。 「お前らもやってみるか?」  3人はにぱっと笑って(若干一名を除いて)縁側に上がってきた。ゴコや薬研に教えてもらいながらぞうきんを片手に廊下を走る。なんとも可愛らしい光景だ。 「#名前2#!! おにゅー!」 「んー?」  世祖がなにやら刀を持って走ってきた。後ろから加州が走って追いかけてもいる。 「あ、#名前2#」 「おう、加州。どうしたんだ、?」 「うん、新しい刀剣見つけたんだけどさ。うんともすんとも反応してくれないの。困っちゃうよねー」 「ふーん??」   何が困ったことなのか、さっぱりわからない俺である。世祖もよく分からないままに俺の元に走ってきたらしく、「むぅー。むぅー、いる?」とコンコン鞘を叩いていた。彼女からすれば物言わぬ刀は、俺が引っ提げている陸奥と同じらしい。 「世祖、これたぶん陸奥じゃねーぞ」 「??」 「世祖。これ、陸奥いない。わかるか? 陸奥じゃないの。陸奥じゃない。ない、ちがう」  鞘を指差して、俺は否定の言葉を言い続けた。世祖も途中から理解したらしく、同じように「ない…」と口をもぐもぐと動かす。加州は最初こそドン引いていたが、途中から一緒になって「ないない」というようになった。 おおよそ区切りがついたところで、刀を調べてみた。どうやら、脇差のようだ。 「開けて、みるか…」  俺が神妙そうに言ったせいか、加州も世祖も緊張した面持ちで頷いた。本来ならば世祖が開かなければいけないところなので、世祖に柄を持たせて俺が鞘を持つ。 「行くぞ」 「うー!」  ぐいっと、力任せに引っ張るとパリンッと何か(ガラスみたいなの)が砕ける音がした。 「…なんで、起こしたんだ」  青緑の髪の毛をした軍服をきた男は肩についている死装束をガジリと噛みながらこちらを睨んできた。彼が俗にいう"ニッカリ青江"だと知るのは、これから6分後のことである。