漆黒の追跡者
「えっ、コナン君とベルモットが?」 「世祖曰く、だけど。いるらしいから、堀川頼んだ!」 「ううん、僕、彼と会ったことないんですけど……」 「見守る! 見守るだけだから! 誰か被害出ないように!!」 電話の向こうで#名前2#さんも呼ばれている。諦めた僕は仕方なく誰かベルモットか、誰が警察か分からないまま階下を見ていた。皆の視線が集まる先がそのターゲットだろうと判断してみていたら一人の女性がいた。女性は誰か待ってるのかずっとエントランスを見ている。 「みのるー!」 女性の声に入ってきた男の人が手をあげた。どこかで見たことある顔だなあとネットで検索をかけたら指名手配されていた深瀬という男かもしれないという結論にいたった。そっと階段を駆け下りて六階まできた。女性は上りエスカレーターの先にいる。インカムをつけた人たちが段々と動き出している。あれが警察か。 やけに危なそうな人がいる。慌ててそっちへ向かうけどもう何の因果かその刑事さんはこけてしまった。深瀬は落っこちた警察手帳を見て目の色を変えた。一緒に居る女性も息を飲んだ。ナイフを手に取った。エスカレーターには緑のカジュアルスーツを着た女性がいる。慌てて僕もこけたように男の方に向かうとぐっと首を掴まれた。チッという女性の舌打ちも聞こえた。あれがベルモットの変装だったらしい。組織のサポートもしろって言われてたはずなんだけど……。 深瀬は僕を人質にしたまま下りのエスカレーターに乗る。警察らしい傷のついた男の人が僕を見ていた。あんなところでこけやがって、と顔が言っている。五階、四階と来る途中でどうしようかなーと見ていたらサッカーボールが飛んできた。曲がった軌道のそれは深瀬の顔にクリーンヒットした。慌ててその手から飛んだナイフを回収した。刃を収めて「キャッチ!」と叫んだ。 深瀬は逮捕、恋人らしい女性は泣き崩れてしまった。これで被害ゼロ、になっただろうか。さっきのサッカーボールを蹴ってきたコナンとかいう男の子はベルモットが話しかけに行ってる。あそこは殺し合いも喧嘩もしないだろうと#名前2#さんが言ってた。 「君、ナイフを貸しなさい」 「あっはい」 話にはよく聞いている高木刑事だ。ナイフを渡して病院に行きましょうと腕を取られる。名前は?と聞かれて國広井隼人ですと答えた。コナン君たちが動き出した。僕も追いかけたくて用事があるのでこれで、と失礼させてもらった。二人を追いかけると駐車場に着いた。被害者の持っていた組織のノックリストが入ったメモリーカードを犯人が中身も知らずに持っていってしまったらしい。組織の人間が警察の一人に変装していることも聞こえてきた。そっとスマホでメールを送った後で駐車場を後にした。 「組織のノックリスト、か。沖野さんそれが欲しいんじゃないよなあ」 「あの人ならボスからそれももらえそうですけどね」 「やめろよ、ガチで想像できたじゃん……」 堀川の作ったコーヒーを飲みながらそんなことを言っていたら他にも動いてもらった仲間から連絡がきた。特に組織と関わりの持っている薙刀コンビからは有用な情報も届いた。男を一人、殺す予定になったらしい。やけに指示が早いと思ったらボスからの指示らしい。道理でそんなに早いわけだ。 「それで犯人については分かったんですか?」 「いやーなんにも。今回は世祖が動かないように病院で検査入院ってことで拘束されてるからなー」 「なるほど」 それで一人なんですね、と笑われて何だか嫌味な感じに聞こえた。お前さんも和泉守と離れ離れだろーと言うと「兄弟がいますから!」と笑顔で返された。くっそ、それには何も返せなかった。 「巴形さんたちと一緒に動くんですか?」 「…そうなるかなあ。どこに来させられるのかは後から分かるんだけど……まあ沖野さんから指示が来ると思うからそれで動く予定だ」 「そこは沖野さん任せなんですね」 「俺には情報も入ってこないしなあ」 #名前2#は机にノートを開くと大学の授業の準備を始めている。つん、とつつかれたが無視した。堀川は仕方なくキッチン借りますよと声をかけてリゾットを作りだした。いい匂いが漂ってきて#名前2#もくんくんと鼻を動かす。 「堀川ー、折角だから今日泊まっていけば―」 「明日も学校なので遠慮しまーす」 「そっかー!」 せっかくだからご飯を作ってもらおうという目論見は外れてしまった。代わりにと堀川は加州と陸奥を家に呼んできてくれた。大学生三人組で何かまた遊ぼうかとわいわい相談する。とにかく暇であったのだ。世祖もいないし、と缶を開けて笑いながら宅飲みをしていたら沖野さんから「酒はほどほどにしておけよ」というメッセージを受信した。その画面を見て一瞬で酔いも覚めた。あっついと脱いでいた服ももう一度着直す。またメッセージを受信する前にさっさと寝ようという結論にいたった。 大学に行き、世祖の見舞いをして、さて家に帰ろうというときに沖野さんから電話がきた。メールでもメッセージでもなく電話、ということは火急の用事があるのだろう。急いで電話に出ると「今から東都タワーに迎え」という言葉を世祖の声で聞いた。突然いつもと違って流暢に言われたので驚いてしまった。 「あの、沖野さん?」 「早く向かってくれるかい? もう組織の男も、薙刀の二人も向かってるんだ」 「あ、はい」 沖野さんの謎の声マネを聞いて驚かされたのだが、それについては何も言われなかった。仕方なく家に帰る道を駅へと変えて東都タワーの最寄り駅まで向かうことになった。電車に乗る前に巴形に電話をすると二階の展望台にまで来いと言われた。東都タワーまで走り、チケットを買い、エレベーターに乗る。たった三つの動作なのに相当に疲れてしまった。 展望台に着いて二人組の大男を探すと簡単に見つかった。駆け寄ると二人は普通に展望台を楽しんでいる。おかしい、なんでそんなにのんびりとしているんだ。 「って、あれ? 組織のやつは?」 「まだいないぞ」 「何で!? 沖野さんに組織もいるって急かされてきたんだけど!?」 「嘘も方便、というやつだろうな」 何だと……。がっくりと崩れ落ちた俺を静形が慰めてくれた。そうこうしているうちにコナンもやってきた。見られないようにトイレに隠れて待っていたら男が一人やってきた。警備員、ではなさそうだ。コナンの声が聞こえる範囲にまで近づくと犯人だという男とコナンが話していた。どうやら容疑者に罪をかぶせようとしていた真犯人がいた、ということらしい。今回は全く事件に関与していないので何が何だか分からないがとにかくコナンは真犯人を捕まえようとしてきたらしい。 「なあ、組織の男ってのはいったいどいつなんだ?」 「……。コードネームはアイリッシュだ」 「あいつか。えっ、あいつ!?」 「しっ、大きい声を出すな!」 「すまん……」 アイリッシュと言えばピスコとコンビを組んでいた大男だ。ピスコもあまりジンと仲は良くなかったが息子のようなアイリッシュもジンのことは嫌っていた。どうせ同族嫌悪だろ、と笑っていたのだが今回はそういう話でもなさそうだ。 「ジンが、殺すのか」 「おそらく」 世祖はどちらのことも肩に持つということではなかったが……。何だか身内争いをわざと沖野さんに見せられている気もする。仕方なくアイリッシュ扮する松本管理官を見ていたらコナンと戦い始めてしまった。 「#名前2#、人がきた」 「はぁー? この忙しい時に! 俺がそっちに行く、静形、薙刀貸せ! 巴形はアイリッシュの始末だ、急げ!」 エレベーターから下りてきたのは蘭ちゃんと東都タワーの職員だった。足元には刑事さんたちがアイリッシュに気絶させられて倒れている。壁にひっかかっていた俺はエレベーターから出て刑事さんたちの安否を確認する二人を後ろから殴りかかった。蘭ちゃんが振り向きそうになるので二撃目を繰り出す。そうしてようやく彼女は倒れてくれた。 急いでコナンの方に向かうと巴形が一人で戦ってくれていたが、元から広範囲に戦うのが得意な刀なので一騎打ちにもなるとこっちが不利である。静形の方はコナンを連れて隠れていた。巴形は敵を逃がさないための殿のようなものだ。 「巴形、伏せろ!!!」 薙刀を振りかぶり、その腕と顔を引き裂いた。致命傷にはならなかったが視界は少しふさがった。薙刀の石突で地面に着地する前にその体を非常階段の方に蹴り飛ばした。 「てんめぇっ!」 「そっちへ出てけ!」 薙刀を振りかぶると逃げるように外に出た。扉を蹴り飛ばし閉めると組織のヘリコプターが見えた。アイリッシュがニヤリと笑う。見えないように隠れていたら本当に殺されることとなった。ヘリコプターには機関銃がつけられている。あれを発動させなければこちらの勝ち、というわけだ。変に疑われる前に何かするか、と思ったが組織の方は意外にもそれ以上のことはしなかった。黒い点になるのを見て下をのぞくとパトカーがたくさん止まっている。こうなることも全て予想して沖野さんは配備していたんだろうか。 「……。アイリッシュ?」 近づくと傷ついた内臓のせいで口から血を溢れさせていた。俺の方を見ると「てめぇ…」と睨まれた。 「……すまねえな、お前のことは助けられなくて」 「……。俺は、ボスにとって、その、程度…ってことかよ」 血を吐きながらアイリッシュは何かを悟ったような顔になった。俺を誰かと勘違いしてるらしい。そのままアイリッシュは命を落とした。あっけない終わりだった。 「#名前2#、俺たちは下りるぞ」 「…あ、ああ」 死体を軽々と抱えて二人はそのまま飛び降りてしまった。刀剣男士なので大丈夫と分かっているが見てるこっちの腹はぞくっときた。コナンの方を見に行くと気絶させられて横たえられていた。刑事さんたちがエレベーターで上ってくるのを見ながら非常用の階段で下りることにした。手すりで滑りながら下りるのも楽しい。 人が多いのにまぎれて外に出てきた。電車も動いておらずこのままネカフェかなあと思っていたら膝丸と世祖が手を繋いで待ってくれていた。 「……なんだ、来てくれたのか」 「ああ」 「っふふ、あっははは! あっそう、ありがとう」 「あっそうとは何だ」 「いやあ、嬉しいなあって。医者、忙しいだろうし」 世祖を間に三人で手を繋いだ。アイリッシュの死は世祖に何の影響もないだろう。仕事で少し会話するくらいだった俺が彼の最期を看取り遺言めいたものを聞くなんてバカみたいな話だ。疲れたことをこの二人の前で言うつもりはないが、ただそう思ってしまうのだった。 堀川国広:國広井隼人。隼人という名前は土方家の家督を継いだ者の名前。土方歳三も内藤隼人という偽名を使用していたので。