赤と黒のクラッシュ

 ご飯を食べたあとやってきたのは病院の休憩スペースの1角。ジョディとコナンは座って、ブラックと赤井は立っていた。その立ち位置にどんな意味があるのかは分からないが、#名前2#と世祖はコナンたちの向かいのソファーに座る。 「年末に重症でない怪我や病気の男性入院患者は3人。急いで撮ったので写りは悪いが。 1人目は右足を骨折した新木張太郎さん。 2人目は頚椎捻挫の楠田陸道さん。 3人目は急性腰痛で入院の西矢忠吾さんだ。3人とも個室希望で見舞い客はいない」 「ということは、組織には水無怜奈がここにいることはバレていないらしいな」 「そうね。バレてたら見舞い客を装ってこちらの人数などを把握しにかかるはず」 「あとにかく、水無怜奈の病室を警護してる捜査官にこのことを伝えてくれ。この3人に注意しろ、とな」  ズゾゾと世祖がジュースを飲み終わらせた。その目は赤井を睨んでおり、この先の展開を読んだ上でそんな表情をしているようだった。  水無怜奈の病室をわざわざ知ることは無い、と#名前2#は断って先ほどの空き病室のパイプ椅子に座っていた。院長がFBIのために用意した部屋らしく何脚かのイスが備え付けられていたのだ。 「世祖、機嫌なおせよ……」 「やや」 「やだって、お前なあ…」 「赤井、ライでしょ。 悪気、ないけど。スコッチも明美も いない」 「そうだけど……」  スコッチも宮野明美も選んでライこと赤井秀一といることにしたのだ。それを#名前2#はとやかく言えない。それにしても#名前2#はスコッチや宮野明美を気に入っていたが、世祖はあまり好きじゃなかったのに。一体どうしたことか。  遠まわしに聞くのは好きではないので普通に聞いてみた。すると世祖はちょっと黙ってからぽつりとつぶやいた。 「……#名前2#、泣いた。 あの人たち、死んだ。だから、や」 「んー、そっかあ」  ぐすりと涙目になった世祖を膝に抱えて顎を頭に乗せた。なんというか、本丸にいた時よりも成長したなあと思いきや変わってないところもあって父親気分でわりと嬉しかった。世祖が#名前2#のため何かを決めた。人を思いやる気持ちが出てきた。進歩だと思いたくて#名前2#は世祖の頭を撫でる。  ガチャリと開かれた扉は先頭が赤井で相当に驚いていたが世祖は気にせず膝に乗り続けた。コナンたちは潜入している組織の人間が誰かを探るために、コナンと世祖の2人組みを病室に行かせることにした。と言っても決めたのはコナンでFBIたちは反対したのだが。#名前2#と世祖は組織がどうなろうと気にしないし、命が狙われないように立ち回ってきたので今更どうこうしない。やれと言われればやるだけだ。 「相手が子どもなら悪い人たちも油断するだろうし」 「それに、世祖たちにカメラでもつければちゃんと出来るだろ。カメラなら電波ないだろうし」  ほら、帽子とメガネ被れと世祖に大きな伊達メガネと小さなニット帽をつけさせた。世祖はむぐむぐと前髪をいじると目元が髪の毛に隠れるように変装しはじめた。髪型を変えた後には#名前2#に「極!」とポーズをとる。#名前2#だけ思わず笑ってしまった。 「ボウヤにお嬢さん。そして#名前1#くん。覚悟はあるのか? 君たちは嫌が応でもFBIに力を貸した犬になる。特に、#名前1#くんはシグマにお嬢さんについて色々言われているだろう」  ざわりとどよめきがFBIの方に広がった。世祖がシグマこと沖野の娘であることが伝わってなかったらしい。おいおい、どうなってるんだとツッコミを入れたくなるが我慢して#名前2#は大丈夫ですと答えた。 「言ったでしょ、組織はスプリッツァーの顔は知りません。それに向こうもこんな昼間から子どもを疑うことは無いでしょうし」  それに沖野の差し向けた人間が既に組織のスパイを監視しているだろう、という言葉は飲み込んだ。さすがにFBIを目の前にしてそんな口を滑らすような事はしない。 「信じてますから、FBIのことを」  代わりに吐いた言葉はとても薄っぺらくて聞けたもんじゃなかった。  車にカメラをつなげるモニターを設置する間、赤井から#名前2#は壁に寄りかかって世間話でもしようと言われた。しち面倒だ、と思いながらもそれに付き合う。シグマのことや世祖のこと、FBIについて何を言われるのか分かったものじゃない。 「………君は」 「うぃっす」 「昔、FBIにいた長谷部国重という男を知っているか」  まさかのそっちかー、と#名前2#は冷や汗を流す。沖野に言われて長谷部はFBIに所属していた時期がある。そのせいで日本人国籍を失ったが世祖からの直々の命令だったので受け入れていた。同じ織田の人間だから、ということで一緒に宗三も連れて行ったんだったか。 「知ってます」 「………。そうか、なら君たちが彼の言う『日本の友人』というやつなんだは」 「友人……友人? 腐れ縁の方が合ってるような……。長谷がやらかしましたか?」 「いや? 長谷部から話を聞いていて興味を持っただけだ」 「なるほど」 「シュウ! #名前2#君! コナン君たちが帰ってきたわ!」 「今行きます! んじゃま、行きましょうか」 「ああ。シグマとお嬢さんが出していた答えとビデオとで答え合わせをしようか」  うぐっと#名前2#が首だけを固まらせる。そんな様子の#名前2#に面白がって赤井はクスリと笑うって「君は分かりやすいな」と褒めているんだか貶しているんだか分からない言葉を言ってきた。  ビデオを確認する車にはそこまでの人数は入れないので#名前2#と世祖は大人しく留守番することにして楠田陸道の病室にやってきた。 「#名前2#、君は何してるんですか……?」 「やっほー、宗三!」 「やっほー、じゃないですよ…。沖野さんに言われてそれとなく監視してたら世祖が来るし、元同僚たちはなにかやっているしで……。はあ、小夜と江雪兄様に会いたいですね」  刀剣であった時の名前は宗三左文字。現在の授かった名前は左文字宗(さもんじ しゅう)。どこかの宗教かと思って#名前2#が爆笑し左文字兄弟にものすごい勢いで叱られたのはいい思い出だ。長谷部と共に沖野の部下をやっているらしく、急に呼び出されて仕事させられるのはイヤじゃないのかと聞けば慣れていると答えられた。沖野のことに関しては申し訳なさを感じてしまう。 「それで、何なんですかこの男は」 「世祖がいた組織の下っ端。色々事情があるんだよ、」 「はぁ…。まあ詳しい事は聞きませんが、気をつけてくださいね」 「分かってる」  少しだけ話をした後、#名前2#と世祖はまた病室に戻ってきた。中にいたFBIの話を聞くとどうやら携帯を拾わせて反応を見たらしい。そして組織の仲間を割り出した。頚椎捻挫と偽って退院を先延ばしにしている楠田陸道だろう、ということになったそうだ。世祖に視線をくれるとこくりと頷かれた。やはりこれは大事な展開らしい。面倒だなあと思いながらも#名前2#は車を回してくると言って病院を出てきた。車を駐車場に置いて#名前2#はぐびりとペットボトルの水を飲んだ。今からとてつもなく乾くようなことをするので先に飲んでおこうと思ったのだ。 「あいつ!!!」  突如として叫び出した世祖にチッと舌打ちをひとつして#名前2#は世祖にしっかり捕まっておけよと声をかける。  沖野に連れられてアメリカにいた時に走り屋たちと改造で遊んでいた車でよかった、と思う。ドリフト界のモナリザこと日産のS15シルビアには2つのニトロポンプをつけてある。日本でもこれぐらいなら扱えるだろうと言われて乗せているが実際はかなりの爆音で1度だけ使った後はずっと乗っていなかった。電子整備だけは腕のいい男に頼んでいたので大丈夫だとは思うが。  グッとボタンを押すと5倍ほどのスピードが出てくる。それなりに排気量音がすごいのでどうせ警察に連れていかれたりするだろうがそれよりも世祖に言われたことをする方が先決だった。ぐわん、と周りの視界が早送りしたかのように動いていく。瞬間的な加速で男の車の横につくと、その男は怯えた顔をして#名前2#を見ていた。いや、見ていたのは#名前2#ではなくて世祖の方だった。風に煽られて今は髪の毛はすべて後ろになびき、メガネも帽子もしていない。そんな世祖を指さして、「おま、お前は……、」と口を動かした。  楠田は怯えたまま半狂乱の状態で拳銃をこめかみにあてた。バァンと日本では聞きなれない音がして鮮血が簡単に飛び散る。車を止めて#名前2#はあーあと呟いた。自殺したこの男をどうするのか。赤井秀一と江戸川コナンだけがその事実を知ることになるのだろう。