紺青の拳

 スタジアムを出ると数珠丸が車を止めて待っていてくれた。なんで此処に!!?  「数珠丸!?」 「タンカーの方はシンガポールの警察に任せられることとなったのでこちらに来ました。世祖もいます、早く!」 「さんきゅー!」  ていうか、この車どうしたんだよと聞くと「三日月の子飼いの会社から職権乱用で頂いてきました。この騒動の後にお金を払えば大丈夫です」と答えが返ってきた。 「ありがとう、って沢山こめてお金返すか」 「はい」  車を乗り終えて世祖たちとエレベーターに乗った。35階で乗り換えだ。ドォン、と鈍い音が聞こえてくる。まだ停電になってないから良かったもののこれからどうなってしまうのか。 「……ていうかよ、園子ちゃん逃げてるはずだよな」 「いえ、ホテルにいるかと」 「はあ!? なんで!!?」 「守る人を1箇所にまとめた方が楽なので。それと、彼が動き出しています」 「……」 「数珠丸」 「私は貴方がたを守ることが最優先ですよ」 「! だから、約束しただろ」  屋上に辿り着くと世祖と数珠丸は力によって透明になって隠れた。#名前2#が1人でエレベーターを降りてきたように見せかけるとレオン「待っていたよ」と笑う。 「……」  敵は6人。レオンと中富禮次郎は動けないとしてジャマルッディンは包帯を巻いて憎々しげに#名前2#を見ていた。やばいなー、と思いながらも#名前2#はベルトを見せる。 「これが欲しかったんだろ」 「ああ、それをこちらに渡したまえ」 「その前に確認だ。毛利探偵はどこにいる」 「彼ならそこに寝ぼけていらっしゃるよ」  レオンが指さした先には確かに座って寝ている。麻酔銃を撃たれた時のようなポージングである。キッドとコナンはどこにいるだろうか。宝石を渡そうとして止まる。こいつは俺に対して三条関連で来たのか疑問だったのだ。 「なあ、あんた、もしかして沖野っていう男を知ってるんじゃないか」 「……なぜそう思ったんだい?」 「三条は有名な名前だ。だがアンタがこっちに接触したい意味も分からなかった。たかがボディガードらしき男に接触したところで有力なつながりを持てるわけもない。それに俺にとって毛利探偵が人質たる人って分かってるのも変だろ。一緒に旅してきたからって理由で俺が必ず来るとも限らない。だとしたら、アンタは俺について色々と調べてたってことになるがまさか俺が狙いな訳でもないだろうし。としたら、俺の保護者として名前を載せてある沖野さんが1番の狙いかなって」 「Grate!! 素晴らしいじゃないか、はは。いいねえ、だがそこまで分かってるのならなぜ来たんだい」 「……推理ショーってのを、見せてもらいにね」  宝石を宙高く投げる。小五郎さんと探しに来た蘭ちゃんは数珠丸が助けに行った。俺はレオンたちに近づくとボディガードらしき男から銃を抜き取り構えた。 「あれ、バレてたんですか」 「そりゃあもちろん」  宝石は俺と同じく銃を構えたリシが片手でキャッチした。にやり、と悪どい笑みで彼は立っている。 「そんな人たちを守るんですか#名前2#くんは」 「守るっていうか他に馬鹿なことしでかさないか見張るだけさ。下手に誰かに手を出されたら俺も危ないんでね」 「オキノ、か。名前ぐらいは聞いたことありますけど」 「名前だけで済んでたらラッキーだな。死ぬ確率は低いぞ!」  ガラガラガシャン!!! 天井のガラスを突き破って2人が落ちてきた。お待たせ、と笑う彼らに俺はおせーよと返した。 「そこまでだ、リシさん!」 「アンタの狙いは全て分かってんだよ」 「キッド!? それに、アーサー君も!?」  もうあんたは終わりだよ、とキッドとコナンか推理を披露してくれた。女弁護士タンは殺されたあとも歩いていたのではなく、秘書のレイチェルがその素振りをしていたこと。停電している間に死体と人間とが入れ替わったこと。 「だが、エレベーターに残された血塗れのキッドカード。あれはリシさん、あんたがきて直ぐに発見されたそうだな」 「キッドはリシさんが巻き込んだってことだろう」 「……宝石と偽の予告状があれば必ず来ると思った。へたに誰かを指定するよりもよっぽど犯人になってくれると思ったよ」 「だからって、こんだけの被害出すのか?」  #名前2#の煽るような言葉にリシは顔をゆがめた。#名前2#のために嫌がった訳では無い。そっと出てきた世祖が#名前2#の前に立ったのだ。 「らめ。#名前2# は、らめ」 「世祖、ちゃん……」  リシの顔がどんどんゆがみ、彼はそのまま叫びながら銃を1発放った。無闇に撃ったそれはキッドに向かう。キッドが避けられるかも分からず思わず手を出していた。キッドのマントを掴み後ろに引き下がらせる。 「ヒィイイッ!!」 「#名前2#、敵襲です!」 「はあっ!?」  エレベーターが開きどやどやと男達がやってくる。1番前にいるのはレオンが接触していたという海賊だった。確かユージーン・リムという男だ。なんで陸で暴走してんだよ、と思わずつぶやくとレオンは高笑いをし始めた。 「形勢逆転、だな。ほら、お前達のご所望の紺青の拳だ」 「確かに。受け取ったぞ!」  宝石を確認した途端、リムの腕が動いた。レオンの頭に銃を叩きつけたのだ。ボディガードのジャマルッディンすらも動かない。 「ジャマルッディン、俺を…助けろ…!」 「社長。俺があんたに付き従ったのは京極と戦うためだ。それを卑劣な手で潰した。それに、俺は今は#名前1#と戦うことに忙しい」  言い終わるや否や#名前2#に向かってきた。すぐにいなすが後ろにいたキッドにぶつかってしまう。 「キッド、お前らは早く外にいけ! ここにいても状況がわからん!」 「あ、ああ!」  コナンを捕まえてキッドがまた外に飛び出す。世祖はむぐむぐと顔を動かすと走り出した。少女が走り出したところで海賊達は目もくれない。彼らの狙いは園子ちゃんとその身代金だった。 「ねちゃ!!」 「? なんだあ、今の声は」  一瞬の気を引き付けて数珠丸と蘭ちゃんが仕掛けた。人を殴る音と蹴る音が響いてくる。敵にどよめきが広がり#名前2#はレオンや中富を守ろうとしてもジャマルッディンからの攻撃が止むことは無い。しかしここは空手の大会でもない。#名前2#は手を掴み脇を蹴りあげ、後ろについた。振り返るジャマルッディンに自分のジャケットを顔にかぶせプールに突き落とした! そのまま唖然としていたリシに向かって腕を振り抜く。銃を撃つことには慣れていても肉体戦には弱いらしい。一撃で沈んでくれた。 「レオン、あんたの方に銃を預けとく。いざとなったら自分で撃てよ」 「きき、き、君! 金は払う! だから、だから私を…!」 「守られたかったら犯罪なんかに手を染めてんじゃねーよばーか!」  #名前2#はリシも放置して走り出す。追え、追えーー!と海賊の声が聞こえてきた。それに加えて何かがホテルにぶつかってるらしい。外は見えないがおそらくロケットランチャー的なそれとかミサイルとかで攻撃されてるんじゃないか。爆発が起きてたらもっとこのホテルは壊れている気がする。走り出すと少女の叫び声が聞こえてくる。 「園子ちゃん!!?」 「#名前2#さん!」  園子ちゃんの返事よりも京極の返事が来た。まだ手にはあのミサンガをつけている。京極の馬鹿野郎、と叫ぶ前に何かが俺の横を過ぎていった。ばちん、と音がしてミサンガが切られる。振り返るとキッドがコナンを抱えて空を飛んでいた。  やっぱり切れないようワイヤーになってたのか。今の音、普通に布切った音じゃない。京極は真面目なのでようやくミサンガが切れた、とどんどん海賊たちを倒していく。あいつに海賊たちを任せても大丈夫だろうか。急いで世祖の様子を見に行くと数珠丸と一緒に海賊たちと戦っていた。 「世祖!」 「#名前2#!」 「俺の後ろにくっついてな。数珠丸、まだ行けるか」 「人を守るのも我々の役目ですよ」 「我々って、お前なあ」 「来ます」  おわ、と足を避ける。世祖は慣れない一人行動で疲れてるらしく俺にしがみついていた。背負ったまま避けて蹴ってを繰り返す。銃を使うとのちのち誰かにバレそうなのでやりたくない。 「#名前2#、レオンたちはいいのですか!?」 「あいつらはコナンたちがどうにかする、と思いたい!」 「人任せではなく自分で確認なさい!」 「コナンたちにもそれ言えよ!!」  忙しさからキレたような声になってしまった。それを聞いてか知らずかコナンが空から落ちてきたと思ったら蘭ちゃんたちを助けに来ている。無言になった俺を数珠丸は引っ張りレオンたちの元に来た。ガタガタと震えている彼らを見て仕方なく周りの海賊たちをぶちのめす。 「おい、平気か」 「……ああ」  レオンは銃を持っているがやはり使うのは下手みたいだった。リシの方も頭が覚醒してきたのか体を起こしている。ただ顔を勢いよく殴ったので鼻血と口内出血で顔は酷いことになっていた。 「はは、結局犯罪は成立しないのか」 「………。そうだな、犯罪者に対して探偵がいるって分かったらもうそれは終わってるんだ。探偵が犯罪者だろうと、な」  ここは映画の世界じゃない、と言うとリシは血を吐きながら笑った。 「そのセリフも映画じゃないか」 「バレたか」  どぉーん、と外で音がする。世祖がそっと屋上についているこの船が落ちてしまうと教えてくれた。 「世祖、もう平気なのか」  世祖は答えなかった。世祖をもう一度背負い直してリシの体を捕まえた。京極の気迫のある叫び声とジャマルッディンの声が聞こえてくる。向こうも終わりだろうか。数珠丸も中富とレオンとを捕まえて手すりにしがみつかせている。 「リシさん、手ぇ離さないでいられますか」 「こんなところで死にたくないからね……」  船が落ちていく。重力にかかって内臓が浮いたような感覚に陥る。世祖とリシさんとを抱きしめて必死に待っていたら船が着水した。お飾りじゃなく浮くんだな、とあとから思ったがその時には「助かった」の一言だった。  リシもレオンも海賊たちも捕まった。空港で京極と園子ちゃんは別れたが彼女の所に必ず戻ると宣言した京極は本当にかっこよかった。 「#名前2#さん」 「ん? どうした?」 「大会では戦えなかったので…またいつか、戦って貰えますか」 「んっ!? あ、あー、そんなこと言ってたっけか。うーん、俺はそんな強くないんだけどなあ」 「いえいえ。あの後ジャマルッディン戦を見せていただきました。あの身のこなしはいくつもの武術をやっているものかと。公式戦でなくてもいいのです。ぜひ」 「……。期待外れでも怒らないのなら」  握手すると京極はまるで子どものように笑った。それを見て園子ちゃんが嬉しそうに笑う。この2人の関係はこういうものでいいんだろう。  羽田に着くと新一に変装していたキッドを捕まえそうになったりと色々とあったが俺は疲れすぎててもう眠気が襲いかかってきていた。 「#名前2#」 「数珠丸…?」 「今回は本当にお疲れ様でした」  そっと数珠丸に何か握らせる。硬い。冷たい。 「おい、これ……」 「私経由に渡されていました。優勝、おめでとうございます」 「……」  はは、と苦笑いになってしまう。使い所のわからない宝石は三日月に渡そうと思った。深い青をたたえたこの宝石を美しく着飾るのはあの男が似合うと、そう思った。 「数珠丸、お前も頑張ったからまた今度何かやるよ」 「……いいのですか?」 「海外まで出てきてくれたのはこれで2回目だろ。だから、何かやる」 「………ならば、」  数珠丸はその細い指で#名前2#の唇をなでた。美しい顔が近づけられる。なにか怪しい雰囲気を醸したが数珠丸はすぐに離れた。 「今度、宅飲みしましょう」 「は? そんなのでいいのか?」 「ええ。語りたいのです、何か。色々と」 「ふーん? まあ、お前がいいならいいんだけど」 「いいのです」  数珠丸は嬉しそうに頷いた。#名前2#はよく分からないという顔をしながらスーツケースを押す。早く寝たいという思いで世祖と数珠丸を連れて家へと車を発進させた。