ハロウィンの花嫁
佐藤刑事と高木刑事の結婚式があるという。招待状には参加するかしないかではなく、ぜひお越しくださいという文字と日付と日時、場所が書いてあった。世祖と俺とで顔を見合せたあと、ふたりで欠席することにした。 「なんで#名前2#さんたち来なかったのー!」 「落とすとまずい単位があったから」 「それほんと?」 「嘘。好きな先生にレポート出すための準備してた」 阿笠博士の家に集合ね! という電話を朝にもらい、慌てて来たら昨日の結婚式の話をされた。どうやらホントの結婚式ではなかったらしい。まあそんなことだろうとは思っていた。 血まみれになっている高木刑事と佐藤刑事のウエディング姿を見せられてもこちらとしては何とも言えない。ほんとに結婚式あげるときに何もないといいなあと言えばコナンたちは苦笑いをうかべた。 みんなはなにしてたんだ? と聞くと、ふつうに招待客として参列していたのだそうだ。だが結婚式自体は真っ赤な嘘で。結婚式の警護をすることになったらしくその練習のために本番さながらのゲスト枠として招待を受けていたのだそうだ。お疲れ様~と元太たちの頭を撫でるとすぐに機嫌がなおった。 はいじゃあこれやって! よく分からないまま受け取ったそれは何やら手作りの衣装らしい。世祖は阿笠博士と一緒に外にいるので話を聞いてやるのは俺しかいない。 「なあ、これなに?」 「ハロウィンのコスプレ衣装です!」 「#名前2#さんや世祖たちもやるんだぞ!」 「お、まじ? 俺も?」 「だって世祖ちゃん、#名前2#さん来ないとやらないもん」 「あいつ、スカート好きじゃないからなあ。シーツお化けぐらいだぞ、やれても」 「そこは#名前2#さんのコスプレ力でカバーしてもらって」 「なるほど?」 全然分からないが俺もコスプレすることは確定してしまったらしい。せっかくだから地味ハロウィンでもやろうかと思ったが少年探偵団たちは「#名前2#さんはシャーロック・ホームズか明智小五郎がいい!」と言われた。おれだけそこ縛りなんだな……と思ったが何も言わないことにした。 どちらかと言えば同じ日本人であるアケチのほうがやりやすい、と白スーツで行くことを約束させられた。世祖は小林少年になることが決まって、普段通りの格好でもよしということにする。シーツお化けと迷ったらしかったので「家にあるやつでよければ使えばいいよ」とは言っておいた。 コナンたちは嫌がっていたが「大学生の俺も巻き込まれてるのに?」と言えば大人しくなった。高校生たちよりも年上の俺がやるんだからこっちだって道連れだ。 コナンたちには何が似合うかな、と話していたらひどい地震がきた。いや、爆撃があったのかと疑うほどの揺れと音だった。ひゃあ、と怯える元太たちを抱えて外を見れば、なぜか大きな大きな穴があいている。阿笠博士はひっくり返っているし世祖は今にも泣き出しそうな顔をしていた。 「世祖!?」 元太たちを置いて玄関まで走るとギリギリまで削られた地面のせいで足を取られた。既のところで踏ん張り、斜め前の縁にまで飛べば後ろから拍手が聞こえた。 拍手への返事はおいて世祖のもとに近づくと派手な音にビックリしたのかほぼ泣いているようだった。 「世祖、もう大丈夫。大丈夫だから」 聞いているかは分からないが声をかけ続けていると、横で博士が「すまんのう……」とボール射出ベルトを見せてきた。 「博士、新しい発明がしたかったんだって」 「まあ、何となくわかる」 「世祖も手伝おうとしたんだけど」 「あやまって暴発した感じだな……」 もしくは世祖が力をこめすぎてしまったか。どちらかは分からないが世祖をこのまま放置するのもまずい。これでお暇しようかと思ったがコナンから呼び止められた。 「小五郎のおっちゃんが昼飯食べに行かないかって。世祖は?」 小五郎さん。世祖はぐすぐすとした顔のまま頷いた。小五郎さんとお昼を食べることがそのまま精神安定剤につながっているのかなんなのか。 警視庁前で待ち合わせだったのだが、小五郎さんは泣いている世祖を見て「おいおい、どうしたんだよそこのお嬢ちゃんは」と頭を抱えた。 「いろいろあってビックリして泣きました」 「ビックリしてぇ?」 「はい」 そうと言うしかない。コナンたちもうんうんと頷くので小五郎さんはそれで納得したようだった。何が食いたい? と言われるので「ハンバーグ!」と一番に答えたら「小学生に聞いてんだよ俺は」と返される。まあ知ってたけれど、世祖がずっとしがみついているので場を和ませようとしただけである。 ふらり、と前から来る男が俺にぶつかった。避けたつもりだったが彼の方が予想以上にふらついていてそのままぶつかってしまったのだ。 「すみません」 「プラィスチーチェ」 ロシア語。ロシア語だった。久々に聞いた言語におもわず男の方を見つめる。焦げたタブレットを片手に真っ直ぐと警視庁を見ていた。 「何だろうな、あの人」 「#名前2#さん、どうかしたの?」 「あ、ああいや。何でもない」 「あら? これ、あの人が落としたのかしら」 「え、俺がぶつかったとき落としたのかも……」 「私、わたしてくる」 「あ、哀!」 哀は駆け寄るとメモをふつうに渡していた。なにか嫌なことが起きると思ったのは気のせいだったかもしれない。足にくっついている世祖をまた抱きかかえようとしたその瞬間、ものすごい爆発が起きた。 危ない! と叫んだのは誰の声だったのか。小五郎さんは道路に向かった。俺は世祖を蘭ちゃんのもとに預けるとすぐさま燃えた男の元に向かった。もう助からないだろうけれど。 「おじさ!! おじさ!!!!」 世祖の悲鳴が聞こえる。ものすごい勢いの情報が頭の中に入ってきた。世祖が暴走しているのだ。子どもたちに頭を下げてろとだけ伝えてよろよろと小五郎さんたちのもとへ駆け寄った。 コナンがいる。哀も無事。小五郎さんが、血を流して倒れている。 「こごろうさん……」 死んでない。無事だ。でもこのままだと危ない。記憶の方は大丈夫かわからない。意識がない。哀は無事。コナンも無事。子どもたちも無事。燃え広がっていない。あの男はロシア人。燃えたのはタブレット。赤く光った。表示されていた文字は 「プラーミャ……」 「え?」 ぐらりと視界がぶれる。自分が今起きられているのか横たわっているのかさえも分からない。世祖がよたよたと近づいてきているのだけは気配でわかる。ぐっと手を伸ばして引き止める。小五郎さんは、無事だ。