から紅の恋文
コンビニから帰ってくると伊織はバスタオルを持って#名前2#のことを待っていた。何をすればいいのか指示しなかったことを#名前2#は後悔した。時間の無駄だよな、とひとりごちる。 「半分に折って大岡の腰のところにあててやって。あと、これピルね。避妊薬だけど」 「………」 「使わないより使った方が試合は楽になる。大岡に言っといてくれ」 「お嬢様に、そんな訳の分からないものは使えない。」 「……。あっそ。でも、決めるのはお前じゃない」 「いいや、私だ。私がお嬢様を任せられているのだ。お前に指図される覚えはない」 「……」 拗れているなあ、と#名前2#は内心舌を出した。こいつのメンタルケアをしろだって? 冗談じゃない。こんな甘ったれた男の面倒を見るのなんか刀剣男士で十分懲りている。 「お前は、お嬢様のものでもないし、大岡はお前のものでもない。女だからとかバカにしてたらお前さん、いつか壊れるぞ」 「壊れる? 何訳の分からないことを言ってるんだ」 「訳分からなくねえよ。お前はいつか大岡家から言われるよ、これ以上お前にお嬢様を任せられないってな。残念、そうなったらお前はお嬢様から切り捨てられてお払い箱だ。お嬢様に依存してるお前はぶっ壊れるしかないな」 喉ぐらを掴まれた。目の前の男は歯をぎちぎちと食いしばりひどい顔をしている。今この口論の間で大岡紅葉は困っているというのに、執事の伊織には構わないらしい。 「大岡は困ってるぞ」 「………」 「男と女なんだ。察しろよ」 「……お嬢様は私を好きな訳では無い」 「そりゃそうだろ。平次の婚約者らしいし」 「……私は、捨てられるのか」 「このままなら、って話だ」 伊織はふん、と息を鳴らして#名前2#を床に下ろした。勢い余ってひしゃげた薬を丁寧に伸ばし、落ちていたバスタオルを拾い上げる。 「お嬢様は飲むだろうか」 「知るかよ、そんなの」 #名前2#は捨て台詞のように言葉を吐いて廊下を進んでいった。喉を絞られてひどく口が気持ち悪い。伊織からの視線を背中で受け止めながら#名前2#はコンビニで買ってきたミントタブレットを舐め始めた。 「遅かったな、#名前2#」 「……。ぶっ殺すぞ、山伏」 「口が悪いぞ、#名前2#」 「すまん、最近ストレスが」 主にFBIと公安のせいである、と責任を擦り付けて#名前2#は重い息を吐いた。タバコは?と聞かれて山伏はすげなくあるわけが無いと返す。 「だよなあ」 「欲しいのか?」 「こんな時にはな」 こうやって自分で自分を傷つけた日にはタバコが吸いたくなる。タバコを吸えば少しだけ胸が塞がる気がした。 「無駄なことを」 「うるせー」 「チョコレートは?」 「大岡にあげた」 「馬鹿だな、そなたは」 山伏にバカと言われるなんて。優しいやつが俺を馬鹿と言うなんて。#名前2#の考えが悪い方向にごろごろと転がっていく。ストレス溜まりすぎてるな、と自分では思えなかった。自分が悪いのだという真理みたいなそれにしか頭がついていかないのだ。 「大馬鹿者は早く寝た方が良いな」 「……寝れば治るかや?」 「かもしれんな。拙僧は山伏であるからして効果はあるが」 山伏の言葉に#名前2#はぷふっと笑った。お前、今は山伏じゃないだろー。そう言いながら別室に引かれた布団のもとへ足を向ける。 数分して伊織が部屋へやってきた。山伏は待っていたかのように机で茶を飲んでいる。茶菓子の煎餅は既に袋が開かれていて零したかけらが申し訳程度に袋の中に入っていた。 「…美味しかったですか?」 「まあな」 「……」 この様子では山伏が食べた訳では無いことは明らかだった。伊織は山伏を見つめたが、山伏は何も言わない。 「彼をなぜ連れてきたのですか」 なぜか口から言葉が出ていた。聞きたいことは他にあったはずなのに。山伏は微笑んで「お前に必要だっただろう」と言う。まるで全てお見通しと言わんばかりの態度だった。癪に障る。しかしそれを顔には出さない。出したらつけ込まれるだけだ。 「明日、また話すのが良いだろう。そなたの見聞を広げるためにもな」 その見聞という言葉が皮肉に聞こえて伊織は腹が立って仕方なかった。 次の日。伊織は大岡の世話をしながらも#名前2#のことを観察してみた。特に何か言うこともない男だ。だが、時たま視線がぴったりと合う。そして笑いかけてくる。なぜか胸がざわついた。手がぴりぴりと痺れたようになる。 その時もそうだった。お嬢様とお客2人がお茶を飲もうというので準備をしようとしていた。 「あっ、」 「あら。大丈夫、伊織?」 「すみません、お嬢様」 震えた手つきでティーカップを落としそうになった。慌てて代わりのカップを取ってくることにする。 ぱたぱたと駆けていくスーツの背中を見送っていたら、大岡は「恋してはりますなあ」と言った。 「誰が?」 「伊織が」 「え、誰に」 「それは分からしませんけど……。でも、恋しとりますよ」 わてもその気持ち分かりますから、と大岡が笑う。山伏もぷふっと笑いだしそうになった。#名前2#だけは分からない、とクッキーに手を伸ばした。チョコチップクッキーはとても美味しかった。 こうやった経験がfateでの話に繋がっていくことを主人公は知らない……。 山伏と主人公は隣同士の二部屋のはずが一部屋を荷物置き場に一部屋を寝室にしております。本丸では雑魚寝は普通に行われていため、そんな風に久々に寝たいよねという山伏の要望です。