警察学校組と
風見は自宅に戻っていた足を一回転させて職場に帰ってきた。公安部でのエンジニアのような役目を果たす男にストラップを渡し、「調べてみてくれないか」と聞いた。 「えー、キュラソーの時も何も無かったじゃないですか。ストラップになんてそんなついたりしませんよ」 「可能性はひとつずつ見るのが我々公安の仕事だ。失敗は許されん」 「はいはい映画みたいな仕事もあるかもしれませんしね。ベンジーみたいに動けない俺はここでお仕事ですよ。それで? 今回のこれは何ですか」 「沖野関係だ」 相手の男の雰囲気が変わった。へぇーと俄然興味が湧いてきたようにストラップを弄りだした。頼んだぞ、と言い残して風見はようやく家に戻った。 一方の#名前2#も自宅に帰ってきた。風見に会えたのは丁度いいとストラップを渡してしまったが、それを作動させるための準備は全くしていない。世祖にお願いしよう、と玄関の扉を開けると何かが#名前2#に向かって飛んできた。慌てて頭を下げるとバリンと割れる音と破片が#名前2#の手の上に落ちてくる。 「あ、ごめん」 「御手杵、おめぇ……」 「あはは、いやー、ちょこっと実験してただけだから」 「実験?」 「#名前2#、これ見てみろよ」 御手杵と共に行動している同田貫が写真を見せてきた。花嫁姿のナタリーと伊達のツーショットだった。背景は自宅である。 「おおー、着替えてみたのか」 「幽霊だし世祖が指パッチンひとつで変えてくれるんだよー」 「実際は普段の服に映像重ねてるだけだけとな」 「あ、うん、まあ夢の中では着替えられるから」 流石の世祖とて幽霊の服を変えることは出来なかったらしい。ちゅうちゅうカルピスを飲む彼女の頭を撫でて「お疲れ様」と笑いかけた。 「指輪は残念ながら幽霊だと無理だなあ。夢にも持ってけない」 「んー、結婚式には指輪いるし……」 新たな問題もあるらしい。花束は匂いの強いものでないとナタリーが持てなかったり、指輪はいっそのことマグネットリングではダメかと言われたり。神父役の代わりには石切丸を代用、刀剣男士も都合がつくならば参加することなどどんどんと決めていく。同田貫も御手杵もあまり迷う性質ではないので#名前2#の迷いはどんどん切ってしまった。 「なあ、俺らも正装になるのか?」 「まあ会場で新郎と着替えて式場に行くって感じになりますね」 「わあー、正装とかめっちゃ久々……」 「本当は髪型も変えなきゃいけませんけど安室さんに会わせるのでいいです。というか、早く言いたいこと決めてください! 安室さんと会話できるのは5分ですよ!」 「5分じゃ言いたいこと終わらねえよ……」 「5分も長くしたことに感謝してください…。夢に干渉して会いに行って、そのまま囚われると困るんです。人間が夢を忘れるように安室さんには幸せな気持ちしか残りません。その範疇を超えたら俺も世祖も無事ではいられません」 俺の真面目な言葉にいつもふざけてる萩原さんも「仕方ないなあ」とメモの半分を消した。何が書いてあるのか知らないけれどそんなに無駄なところが多いのは逆にすごい。 「俺たちから降谷に伝えることなんて結局ほとんどないんだよね。死んだやつが何言ったって降谷の記憶には残らないんだし」 「萩原さん……」 「でも、こっちは伝えたいことも沢山あるんだ。そのせめぎあいだな。どれだけ傷跡を残せるのかゼロと俺達の勝負だ」 諸伏さんの言葉にほかの3人が頷いた。大丈夫かな、と外れるとまた視界にもやがかかる。誰かにぶつかったのだ。 「すみません、ナタリーさん」 「こちらこそごめんなさい…楽ちんだからすぐに壁抜けしちゃって……」 「あ、そうだ。結婚式のあとの話は聞きましたか?」 「ええ、もちろん。でも、本当にいいのかしら? 邪魔じゃない?」 「本当は俺達がやらなきゃいけないことなんですけどそう上手くはいかなくて……」 「私達は嬉しいのよ? 伊達くんの方も楽しみにしてたの」 「…今度結婚式挙げたらその呼び名も使えないですね」 ナタリーさんは言いたい意味が分かると顔を真っ赤にして「恥ずかしいわね、こんなこと。いい歳して」と呟いた。 「女性はいつまでたってもレディですよ。愛してくれる人がいる時は特に磨きがかかりますね」 その証拠にさっきから伊達さんの視線が痛い。ナタリーさんは後ろに見えた伊達さんにわーっと手を振る。そんな可愛いポーズ世祖にやってもらったことはない。後ろを振り返ると照れている伊達さんと茶化す皆さんがいた。 さてさて、もう仕掛けは施してしまったのでその準備に取り掛からなければならない。明日は三限からなのでそれまでに何とか準備を全て終わらせないとかなりまずい。世祖とAIのヒロキに頼んでストラップに仕掛けた小型通信でパソコンへのハッキングを仕掛けた。 スプリッツァーの時に使っていた捨てアドのひとつからメールを送る。あわよくば風見からの返信が欲しかったところだが別人だった。カメラアイで見るとヨレヨレのスーツを着た男が見える。その視線がカメラ越しにばっちりと合ってしまった。 「チッ、ハッキングされてやがるな」 気づかれた。ヒロキから「逃げる?」と聞かれたがここで逃げるのは危ない。追われてしまう方が面倒だ。ここは何とか交渉するしかない。ヨレヨレの男は見られていると分かって「どこのやつだ、もしかしてコレか」とストラップを掲げてみせた。急いでメールを立ち上げて送る。当初の予定であったスプリッツァーとして攻めるのはやめだ。沖野という男の秘密は風見に教える予定だ、お前はこれを降谷零に渡せというメールを送った。確認した男からは「本当にこんなの信じろって?」と叫ぶ。威圧感を与えようとしてもこの男には似合わなかった。だが言ってることは正論だ。ハッキングしている側からすればこのまま事件に持ち込まれると負け一択になる。はっと#名前2#は自分のスマホを世祖のパソコンと繋げた。持っていたデータをパソコンで写せるようにしてもらう。 公安のパソコンに沖野の動画が映し出された。逆光で顔は見えないがその雰囲気と声は伝わるだろう。以前にも使ったことのある動画だが公安には見つかってないはずだ。 「私は沖野。政府の者だ。君たちは少し情報を知りすぎた」 このセリフから始まる動画なのだが少しは証拠になってくれるだろうか。胡散臭いものではあるし、確かにこれは沖野本人ではないのだが。謎の間が広がりパソコンの前にいる者たちはにわかに緊張感を持ち始める。男がなにか言おうとした時にピリリリと電話が鳴った。驚いた#名前2#が椅子から転げる。 「だ、大丈夫ですか!? すごい音がしましたけど……」 「へ、へーき、です」 あわあわするナタリーさんをリビングに押し戻しパソコンの前に急いで待機した。もしもしと電話を出た男は「沖野、だと?」とバカ正直に語り始めた。そして俺と世祖は顔を見合わせて急いで沖野さんのスマホに電話をかける。通話中で切られた。やばい、間違いなく本物だ。 「僕について調べたいそうだね」 「おっまえ、本物か!?」 「そのパソコンをハッキングしたやつに聞いてみるといいさ」 男がおそるおそるパソコンを見てきた。画面にメモを映し出し、「本物だ」と打ち込んだ。男はスマホをそのまま通知を切ってしまう。まるで幽霊を見たかのような青白い顔で男はへたりこんだ。カメラから姿が見えなくなる。沖野さんの電話はこちらにかかってきた。スピーカーにして電話を取ると「やあ」と挨拶から始まった。 そして始まる怒涛のお説教に関係ない御手杵でさえもひえっという声を出した。明日は仕事あるから帰るなとメモを見せてから部屋を出ていかれた。世祖と俺はお説教を聞きながら沖野さんにちゃんと質問してみようと決めた。隠れてやって怒られるなら真正面からぶつかって砕けたい。 「君たちがなぜこんなことをしたかと考えるととても面倒だ。幽霊のためによくもまあこれだけのことをしたものだよ」 「……すみません」 「謝るくらいなら自分の力を過信していたことを謝りなさい。幽霊を使うことは悪いことではないからね」 「あのお、沖野さんは組織のボスと何らかの関わりがあるんでしょうか」 ここだ、とチャンスを決めてみたのだが沖野さんからは「それを君たちに教える義務はないね」と通話を切ってしまった。この態度はやっぱり怪しい。 「それで? 公安の人たちは何を餌に動いてるの?」 「沖野さんの秘密」 「それは分かっとう。秘密とはなんちやちゅう話じゃき」 「まあなー、あーっと今聞いてるヤツらいないよな」 見回す#名前2#に加州と陸奥が頷いた。#名前2#はルーズリーフを1枚取り出すと本丸と文字を書き丸で囲む。大きく矢印を引っ張りコナンと文字を書いた。そしてそれも丸で囲む。 「ここが漫画の世界なのはいいよな」 「#名前2#が昔に読んだっちゅうやつじゃな」 「黒の組織と色々ある話なんだよね」 「そう。ある日の襲撃で俺達は目覚めたらこっちにいた」 トントンとコナンの文字を指さし①と書いて俺と世祖と横に書き込んだ。 「その後のことは俺もよく知らないけどーー」 「沖野さんが#名前2#たちの体を救出、精神を追いかけると言っていつもとは違う装置で時間遡行することになった」 加州がシャーペンを取り出して②刀剣男士と沖野さんと書き込んだ。 「陸奥も来れたってことは沖野さんは俺と世祖が一緒にいるってことは分かってた。お前ら刀剣男士は出陣って形だけど沖野さんは違う。今、こっちにいるのも戦の大将がわざわざ首を晒しに来てるようなものだ」 #名前2#はそう言いながらコナンの横に組織の丸を作る。世祖から矢印を引き伸ばしスプリッツァーと書き込んだ。 「それはわしも気になっとった。こん人の姿になったのはひせったちや」 「完全に裏から縛ってくる人だもんね……」 「でも、ここにいるだろ。一緒にいる長谷部たち曰く、本丸に帰ってるとかはないって」 「それから考えたのが沖野さんは何らかの目的を持ってわざとここに来たんじゃないかってこと」 「わざと?」 「世祖を生み出した時みたいになにか隠しておかなければならない実験、とかな。ここが漫画の世界って分かってたらその歴史は守らなくても良くなるだろう?」 「……何が言いたいのさ」 「結論から言うと、沖野さん多分組織のボスとなにかラインがある」 ぐりぐりっと沖野と組織を繋げた。 「ラインちゅうのは、人狼たちのあのやり取りみたいなもんか」 「そう、そのライン。沖野さんとボスが憎しみあってるのか信頼してるのか片想いなのかそういうのは分からないけど……俺の予想では沖野さんは目的のためにボスに近づいてて世祖や俺の存在はカモフラージュとかミスリードとかだと思ってる」 「世祖が組織を隠れ蓑にしてると思ってたけど実際は沖野さんにとっての隠れ蓑ってことか」 「多分な。沖野さんは力を持っているが表舞台に出ることは嫌がる。でもここまで出てきて昨日なんか説教のためだけにわざわざ電話をかけてきた。俺だけならまだしも世祖までは珍しいし何かある気がする」 「ほんなら公安にはなに言うつもりじゃ」 「風見さんにはこう伝える。組織のボスと沖野には繋がりがあるって」 「共食いか」 「言い方が悪いだろ……。公安に仕事を代わってもらうだけだよ。俺たちからじゃ沖野さんには辿れないだろ」 「そりゃあそうなんだけど…」 「別に沖野さんを陥れたいわけじゃない。世祖がその目的に巻き込まれてないか確認できればそれでいいんだ」 「スプリッツァーの方もその目的がか?」 「そこなんだよなあ。俺は世祖がスプリッツァーになった経緯をよく知らないし、世祖も話してくれないんだ。その時点でもう目的があったのか別の目的が生まれたのか。どれにしても沖野さんがここで生活してるってことが何よりの証拠になる」 授業のチャイムが鳴った。もう受けたくないと#名前2#はごねてそのまま突っ伏してしまう。加州は遅刻だけど行ってくるかあと歩きだし、陸奥は#名前2#と対面の席でルーズリーフを取り出した。 「陸奥、お前はー?」 「見てわからんか。サボりじゃ」 「おっ、いいねえー。じゃあ一緒にこれやらね?」 #名前2#が見せたのは結婚式で使う用の折り紙だった。ナタリーから折り紙を使った結婚式に憧れていたと言われて急遽折っている。ネットで検索したバラや簡単に折れるチューリップ、ハートなど様々に折ってはビニール袋にぽいぽいと入れている。#名前2#の目には隈が出来ていた。 「分かった分かった。やるから渡しとうせ」 「ありがとう~~~」 想像以上の折り紙の量を渡されたが仕方ないと折り始めた。#名前2#は世祖とよくやっていたせいか慣れている。手早く折って綺麗にできていた。そんな姿を見ながら陸奥は自分も人間になれて良かったなあなんて少しだけ思ってしまうのだった。