迷宮の十字路
!雰囲気関西弁注意 !原作と大幅に違うシーンがあります 依頼があった。京都に行ってくる。そう言った小五郎の顔は全くもって探偵らしくない下心丸出しの顔であって蘭は鉄槌を下した。空手の都大会優勝者の技は伊達ではなく小五郎の腹にクリーンヒットして蘭たちも連れていくことを了承させた。 「え、じゃあ春休みは京都に行ってくんの?」 話の長い校長先生の話を中途半端に聞きおえた終業式の帰り道。教室に戻ろうとする時にはみんなバラバラになっていた。部活に行くもの、帰るもの、蘭のように友人とおしゃべりするもの。高校は中学校、小学校に比べて自由に過ごさせるのがありがたい。後ろの席に座る園子と話しながらカバンの中に教科書類を詰め込んだ。空手部は今日はオフなのでこのまま帰れるのだ。 「うん。お父さんの依頼人はなんでも京都のあるお寺の住職さんなんだって」 「へー…」 京都かぁ、と考え込む園子に蘭は首をかしげた。彼女はこの春休みに京極さんとデートがあるから楽しみにしていたのに。 「そ、園子?」 「ねえ蘭! お願い、私も連れてって!!」 予想通りの言葉に蘭はへぇ?と間抜けな声を出した。 「ちょっと待って、京極さんとのデートはぁ?」 「だって京極さんてばぁ! これぇ!」 泣き声で園子が差し出したのは京極からの手紙と写真だった。読んでいいのか判断しかねて写真の方を先に見るとなぜか海が撮られている。…海? 「ここよ、ここ!」 園子が読まない蘭にじれて読むべき箇所を指さした。読んでみると京極がずっと対戦を待ち望んでいた男が返事をくれたので日本にはまだ帰れないというものだった。海の写真は京極なりの園子への慰めらしいが季節は春なのだからあんまり嬉しくない気がする。いや、綺麗な写真なんだけど。 「なんかね、電話で聞いてみたらその対戦相手はいつも下の子を理由にして対戦を断ってたらしいのよ。でも今回はなぜかいいよって言ってくれたんですって! 確か…ま、ま、…マーチアーチャーとかいう格闘技の選手らしいわ」 「………、」 すごい。身近にその人がいそうな気がする。あとその格闘技はマーシャルアーツで3月生まれの弓の名手じゃない。蘭は園子と#名前2#のためにも黙っておくことにした。だが、#名前2#が京極の対戦相手とすると……。 家に帰ってお父さんに許可もらってくるね、と別れた帰り道。途中でため息をついてるコナンに出会った。 「コナンくん」 「あ、蘭ねーちゃん。お帰りなさい」 「コナンくんもね。ねえねえ、コナンくん。世祖ちゃん、春休みにうちで預かる予定ってある? #名前2#さんに何か用事があるーとか」 「え? ああ、うん。無いみたいだよ」 「そう……」 なら、やっぱり違うのかな。京極さんの対戦相手は。むむむ、と考え込んでしまった蘭を見てコナンは不思議そうに首をかしげた。 家に帰って小五郎に園子を同行する許可をもらうと、早速園子にメールすることにした。送信ボタンを押そうとすると、ピロリんと鳴らして園子からメールが来た。急いで開いてみると先ほどの対戦相手がどうやら粟口一期という名前の男であるらしいということをスクープしたらしい。粟口。そう言えば、コクーンのゲームをやった時に粟口という苗字の男の子が一緒にいたはずだ。#名前2#さんがいないままゲームに閉じ込められてしまった世祖ちゃんをその子がずっと傍についていた気がする。粟口なんて苗字、簡単にはいないからもしかしたら親戚なのかも。だとしたら、とても世間は狭いのだなあ。 新幹線に乗って京都までひとっとび。と言いたいところだが、そこでコナンは不思議な男に会った。男ではなく少年なのだが、彼はやけに大人びていた。大人びていたというよりも達観しているという方が近い。サッカーとかバスケとかスポーツをしていそうな顔をして、やけに人助けを得意とするようなそんな雰囲気の少年だ。転けそうになったコナンをすくい上げて「大丈夫か、坊主?」と聞いてきたのだ。小学生の容貌なのになぜか#名前1##名前2#に似た雰囲気がある。顔は似ていない。むしろこの少年の方がハンサムだ。だというのにすごくデジャヴュだった。 「あぁっ、すいません、コナンくん大丈夫?」 「う、うん…」 「気をつけろよ、小さい体は意外と大変だからな」 まるで自分で体験しているかのような言い方にコナンは少しだけ寒気を覚えた。成長するまえは小さな体だったとそういった感触ではなく、大きな体から急に小さくなると辛い、ということが身に染みたような物言いだった。 コナンたちの後ろについてそのまま京都で降りた少年はタクシーではなく、バス停の方へ行ってしまった。どこへ行くのだろう。じっと見ていたが、すぐにコナンは呼ばれてタクシーに乗り込んだ。3番のバス停に行った、としか見えなかった。 「いいなあコナンくん。京都だってー」 何時ものように博士の家に遊びに来た少年探偵団たちはコナンと世祖がいないことに首をかしげたがすぐに行先を教えてもらった。コナンは京都、世祖は奈良に行ったらしい。 「何でも山王寺という寺から毛利くんに依頼がきたそうじゃ」 「指貫さんも今はどっか行ってるんでしたよね?」 「#名前2#くんたちは奈良の方らしいの。何でも旧友に会いに行くとか」 「ちぇーっ、俺達も京都か奈良に行きてえぞ」 「ふーむ、京都だったらわしが連れていってもいいがの」 博士の言葉に少年探偵団にどよめきが広がった。 「本当ですか!?」 「やるじゃん、博士ェ!」 「コナンくんに会えるのね!!」 「ただし、クイズに正解したらのー」 ええー、と一気にげんなりした少年探偵団たちに哀は苦笑いを覚えながら「出してもらったら?」と声をかけた。 「やってみなきゃ分からないでしょう?」 「そうだよね! やってみよっか!」 何となく#名前2#の子どもを可愛がる気持ちが分かったような哀だった。 コナンたちが依頼人のいる寺に到着するとピンクのようなオレンジのような髪色の少年に会った。少女ではなく少年ということに驚いたが少年の方は「やっぱり驚かせちゃうなあ」と可愛らしく笑う。 「初めまして、粟口乱(あわぐち らん)だよ。乱(みだれ)って呼んでね」 「ミダレぇ? 変なあだ名だな」 「クラスにランって子がもう一人いるからだよ。それに"みだれ"だと男の子っぽい名前でしょ?」 「貴方もランって言うの? 奇遇ね、私も蘭なのよ!」 にっこり笑いかけた蘭に乱は曖昧に笑って「本当ですね!」と受け流した。 「あ、ねえねえ龍円さん。僕が皆さんを紹介してもいい?」 「ええですよ」 「やったあ! 向かって右から住職の円海さん。 ここの檀家さんで、古美術商の桜正造さん。 同じく檀家さんで、ある能の役者さんの水尾春太郎さん。 同じく檀家さんで、古書店の西条大河さん!」 「ほれ、乱や。お客様にお茶を」 「はーい」 乱は髪の毛をひるがえして廊下を走っていく。軽やかな足取りではあるが足音は全くしない。まるでしないことが当然とまで言うかのような雰囲気にコナンはまた悪寒を感じた。 「それで依頼というのは…」僧侶に話しかける小五郎の声が遠く聞こえる。今日はなんだか事件へのやる気が起きなかった。 「じっちゃーんって、おお! 坊主たち!」 「おお、来たか厚」 「あ、君は……!」 「おっ? どっかで見たことあるなあと思ったらやっぱり眠りの小五郎だったのかあ。すげえなあ、初めてこんな間近で見るよ。あ、俺は粟口厚(あわぐち あつし)ってんだ。厚(あつ)って呼んでくれよな!」 にひりと笑いながら小五郎大先生だなと握手を求める姿に小五郎は気を良くしたのか新幹線では助かったよとげらげら笑う。コナンの怯えた表情も気にせず、厚はその視線を蘭たちに向けた。 「そこにいる大先生の娘さんも知ってるよ、空手の大会に出てるの見たことあるし。蘭さんだよな? それに居候っていったのはキッドキラーのコナンだろ? あと、鈴木令嬢!」 「あら、貴方どこかで会ったかしら?」 突然いつもの園子ではなく、鈴木財閥の娘として話しかけた園子に厚はケラケラ笑って「三条の所によく呼ばれるから」と言う。 初めましての挨拶をした蘭たちに厚はまたにひりと笑って「京都にいる間はよろしくー」と手を振った。 「ちょっと、厚ー? 来たんなら早く手伝ってよ」 「はいはい! 俺たち、自分の保護者が用事でちょっと遠出してるからこっちに預けられてんだ。京都で困ったことあったら言ってくれよな!」 そんじゃ!と走っていく彼もまた足音がしない。何だか不思議な子どもたちですな、と言う小五郎に僧は優しく笑うだけだった。 依頼の話をする前に、とお茶をもらった。京都の高級茶ではなくて申し訳ない、と言われたがとても美味しいお茶だった。手紙には謎を解かなければ盗まれた仏像は帰ってこないということとが書かれていた。一緒に謎の暗号のコピー紙が入っている。 階段状になった紙いっぱいのマークに、色のついた謎のマーク、そして外にどんぐりがひとつ。幾多の謎を解いてきたコナンにもさっぱり分からなかった。 「それでは、よろしくお願い致します」と頭を下げて僧はどこかへと消える。代わりに顔を出したのは乱と厚だった。 「お部屋の準備出来たよ!」 「夕飯は6時に作る予定だけど、大丈夫か?」 「あ、乱くん、私と園子は外に出る予定だから夕飯は、」 「そうなの? 分かった、へらしとくね!」 「あ、僕もー」 「はいはーい」 飲み干されたお茶を受け取って、どこに行くの?と乱が聞いてきた。 「あ、私たち大阪に友達がいてね」 「その子と待ち合わせしてね、観光しに行くのよ!」 「へぇー。あ、坊やは?」 ボウヤという声に赤井さんを思い出してコナンは苦笑いした。彼以外にボウヤと呼ばれるとなんでかこそばゆいのだ。 「僕は近所の子と釣りに行く約束を……」 「へぇ」 ぴりっと厚と乱の空気が変わった。え?と思ったのもつかの間、乱と厚は先程にあった水尾さんに呼ばれて違うところへ行ってしまう。 今の感触は、灰原哀と出会った時のような、謎の感触だった。黒の組織、ではないだろう。小学生を入れるとは思えない。なら、なら……可能性というのは、 「坊や?」 「え、あ、」 「釣りに行くんでしょ? タオルあげるよ」 「あ、ありがとう」 自分のついた嘘にわざわざタオルをくれるなんて、と思ったがありがたく貰っておく。畳んでズボンに挟んで、今度こそ寺を出た。 「乱? どうかしたのか?」 「うん……。ちょっと、ね」 何か言いたいわけじゃないのだが、どうにも不思議な感覚があるのだ。厚には感じてないようだけど、と睨むと戸惑ったような声が返ってきた。 「別に。何でもない」 ここで何か言ったらフラグになる気がする、と乱は思ったようだが#名前2#がいたならばこう言うだろう。 「コナンがいる時点でフラグだから安心できん」