迷宮の十字路

 暗号のコピーをもらっても謎解きは出来ないし(そんな能力があったら本尊が盗まれたままの8年間で見つけている)、#名前2#は一期と共に出かけているので中々すぐに来るのは難しいだろう。乱と厚はそう判断して寺での手伝いに専念していた。  掃除をして食事を作り、勉強する。自分の家でやる作業となんら変わりないが、新たに加わったのは謎ときの捗らない毛利小五郎の手伝いだった。  暗号は見てるだけで分かるものはあんまりない。あーだこーだと言いながら羅列されたマークについて考える。色分けされた理由もあるはずだが分からない。頭文字を繋げようにも、同じ段にあるマークはどっちから繋げればいいのか分からないし、どんぐりに、2段目と3段目の間に書かれた『、』も気になる。結局、宿題そっちのけで3人で考え込んでいたのだが分からなかった。そうこうしてるあいだに龍円に言われて千賀鈴のいる店へ足を運んだ。今日はここで食事しよう、と言うのだ。女将の多恵さんに言われて乱もまた舞妓姿に着替える。せっかくのお座敷なのでサプライズしようという話だった。 てけてんてけてんと音を聞きながら足をすりながらしなやかに、そしてあでやかに踊る。男なのに上手ねえ、と言われるがそんな事言うのはこの店だけ。他の店でやらせて下さいなんて言ったらすぐに出禁になるだろう。 「可愛いよー! ミダレちゃーん!」 「いよっ! 千賀鈴ちゃん、日本一!」 酔っ払った名探偵の掛け声に苦笑いで返す。ランという名前が嫌いなわけじゃない。ただこうやってミダレと呼ばれて嬉しいとも言えない。 厚が部屋の隅でけらけらと笑っていた。 「え、うそ、乱ちゃんなの!?」 「こんばんはー」  にっこり笑うと高校生も小学生の探偵もひく、と口を引き攣らせた。こんなに女装がうまい人は周りにいなかったのだろうか。まあ、乱の場合は女装というよりも女の子のような格好の方が似合うからこんな姿になっていると言った方が正しい。 「女将さん、僕もう着替えていい? 踊りは終わったんだし」 「ええですよー」 ひょいっと部屋から出た乱のことを厚が笑いながら説明してくれた。小五郎さんへのサプライズのつもりだったのに、蘭さんたちがビックリしてらぁと笑ってジュースの入ったコップをぐいっと一気飲みする。 「んまい!」 「いい飲みっぷりやねえ、君」 「ん? えっと、この人たちは?」 「ああ、さっき言ってた大阪からの友達で遠山和葉ちゃんよ」 「どうもなー、厚くん!」 「それで、あっちにコナン君と座ってるのが西の高校生探偵服部平次君」 「お? おお、どうもなー」 軽い挨拶に厚はしっかりと頭を下げてからまた座り直す。コナンと平次のことを気遣ってか何も話しかけずに女子高生たちと一緒に座っていた。と、桜さんが横の部屋に寝に行ってしまった。ぽっかり空いた1席がなんとなく厚と乱に#名前2#の空席を思い出させた。嫌な思い出だ、あれは。 「あ、見てみて! 川が流れてるよ! 桜がキレイ~!」 「鴨川どす」 「え? ほんまほんま? うわぁ、すっごいなあ」 「ほんとね、キレイ……」 「ほんとにキレイで、白魚のような手ですなあ」 酔っ払って女の人に絡むこれが名探偵かあ、と思うといかに#名前2#という人がイメージを崩さないかが分かる気がする。あははは、と苦笑いしながら厚は小五郎から離れたところに座り直した。蘭の説教に巻き込まれてはたまらない。 「川なら下のベランダに行けばいいんじゃないか? キレイだぞ、すごく」 「ねえ、行こうよ、蘭! 和葉ちゃん!」 「じゃあ乱ちゃんと厚くんも一緒にどう? 京都のお話聞きたいなあ、なんて」 「乱の着替えが終わったらすぐ行くよ!」 立ち上がって厚はパタパタと廊下を駆けていく。階段を下りてこっちだよーと呼ぶ声が部屋の方にまで少しだけ聞こえてきた。 「おい、工藤」 「ああ?」 「さっきの舞妓のボウズと短髪のボウズのこと疑っとんのか?」 「…まあな」 「何や、工藤。そないなこと前にも言っとらへんかったか? ヨツフジ、とかいうボウズ2人!」 「……どうも引っかかるんだから仕方ねえだろ」 「引っ掛かるって、何がや」 「うーん………雰囲気?」 「ハァ?」 「信濃と後藤、それに薬研。刀のあだ名つけるにしたってよぉ……限定的だろ?」 「粟田口派のやつやんな」 「#名前2#さんの知り合いにはそうゆう人達多いんだけどよお、何かなあ」 ーー無理して子どもの口調してる感じあるんだよな。 どことなく遠いところを見て話すコナンに平次は「お前もやろ」と内心で言っていた。  着替え終わった乱を連れて下のベランダに行くと3人は既に料理を食べていた。 「お邪魔しまーす」 「はーい、乱ちゃん。さっき、すごく可愛かったよー」 「えー、今は可愛くないー?」 「可愛いー!」 きゃあー、と笑い合う園子と乱にけらけら笑いながら厚も料理をとった。本丸での料理に慣れていると料亭の料理はかなり味が薄く感じるが京都らしい味付けである。んまい、んまいと厚が口に入れていく姿に蘭と和葉は驚いたように見ていた。 「厚くん、すごくよく食べるんだね……」 「めっちゃ食べてもそない痩せてるんやから羨ましいわあ」 「んぐ。沢山食べてたくさん動くと良いって……えーっと、兄ちゃんの友達が! 言ってた!」 「へえー、そうなんだ」 「なんや、#名前2#さんみたいな言葉やなあ。あたしも言われたことあんで」 「………#名前2#さんのこと、知ってるのか?」 「あれ?」 ひゅーっと2人と1人の間に風が流れる。どうやら世間は人が思うよりも狭いらしかった。 『ぽちゃん』 間抜けな音が厚と乱の鋭い耳の中に飛び込んできた。あれ? 今の音は、 「そっかあ、#名前2#さんの友達なのね」 「親戚とかじゃないけど、似たようなもんかなー。#名前2#さんから毛利探偵と縁があるって聞いてたけど高校も同じだなんて知らなかったよ」 「じゃあさじゃあさ、2人は#名前2#さんの高校時代とか沢山知ってるんじゃない?」 「ああ、聞かされるよたまに」 「お酒飲んでるとね、そーゆーのよく語ってくれるもん」 「なに? その高校時代何かあったん?」 「実はね、#名前2#さんって高校時代ものすごく荒れてたんだよ」 「そうなん!? 意外やわぁ、今あんなに優しそうな顔しとるのに」 「面白いわよー、あの人の話。麻雀卓を学校に戻ってきたり、放送室に立てこもってお昼の放送ジャックしたりとか」 「あれ聞かされたことねえか? 体育祭で運動部を潰すために全員裸足で戦ったやつ」 「そんなのやったの!?」 「#名前2#さんたちってば、スパイク履いてるやつの方が走りやすいだろって言ってソフトボールを裸足でやったんだよね! 加州さん動画撮ってたけどほんと面白かったー」 あははははと笑いあっていた彼女達の耳に悲鳴が聞こえてきた。ここの女将、山倉多恵の声だ。顔を見合わせた厚と乱はすぐさま声の聞こえた部屋に向かう。女子高生たちも後を追いかけていたが、短刀の機動はそれ以上に早かった。 「なんやなんや!?」 「探偵さんたち、こっちこっち!」 駆けつけたコナンと平次を従えて下にある納戸に行くと本を挟んで殺されていた桜正造がいた。 「桜さん!?」 「部屋には入らないで! 女将さん、警察に電話を!」 「は、はい…!」 鬼気迫る表情で言われたら相手が小学生といえども従ってしまう。コナンと平次の素早い現状見聞に厚も乱も口笛を吹きそうだった。それほどまでに手際がよいのだ。とりあえず警察が来るまでさっきの部屋で待っていることになった。 「桜さん……何でこんなことに」 「女将さん、大丈夫でっしゃろか……」 「そうは言っても仕方ないっすよね。起きたものにはなぁんにも文句言えないし。あ、ちょっとトイレ行ってきます」 「あ、僕も」 連れ立って歩き出した2人に部屋の中にいた空気はまたどんよりと重くなった。 「……なんや、また君らですか」 「またって何やねん、あんたとは弁慶石のところで会ったのが初めてやっちゅーねん」 「はぁ? 私が言ってるのは君ではなく、後ろにいるその小学5年生たちですよ」 「え?」 コナンと平次の声が重なり、トイレから出てきたところで出くわした厚と乱は同時にてへっと小首をかしげた。 「よう事件に巻き込まれますなあ、あんさんらも」 「また容疑者になっちゃうかもー。その時はよろしくお願いしますねー、綾小路ケイブ」 語尾にはーとが付きそうな物言いに綾小路は溜息をつきながら現場の方へ下りていく。乱のこの怖いもの知らずなコミュニケーション能力はさすがの厚でも真似出来ない。 「おい、お前ら。知り合いやったんか、あの刑事さんと」 「ああ。何だかんだで俺達が容疑者になること多くて、あの刑事さんが謎解きしてくれんだ」 「ほぉー」 疑っている視線を与えられても事実なんだから仕方ない。まさかこいつら、とコナンに見られているがそれもまた仕方ないことなのである。 「なるほど、犯人は桜さんが納戸におることを知っとった龍円さん、西条さん、水尾さんっちゅーわけやな」 「それに厚と乱もだ」 「小学5年生が殺した、ゆーんか?」 「あいつらは何か隠してやがる。実行犯じゃないにしても、何か共犯でやってる可能性が残ってる」 「……やけにあいつらに噛み付くなあ」 「いや? ただ、アイツらはどうも……な。#名前2#さんの知り合いだからって、除外する理由んねーよ」