裏切りの真相

「社長、アンタも何か知ってるんじゃないか。前のライブの後、波土がアンタに食い掛かってたって聞いてるぞ。何で17年間も黙ってたんだって言われて、ごたごたした後突然ASACAを発表することにしたって」  警部さんたちの視線が鋭くなる。疑われていることに勘付いて布施さんはごまかすように話し始めた。 「そ、それは……。『君をウチでデビューさせた本当の理由は…じ、実は私がこの円城さんに一目ぼれして言い寄るためだった』と冗談交じりに言ったんです。そうしたら彼が予想以上に怒りだしたんです。それが本当なら引退するって」 「それなら波土さんが殺される理由にはならなそうですね」 「そりゃそうですよ…。そのもめごとがあった後は彼も気を鎮めて下山しましたから」 「下山?」 「彼も私も登山が趣味でね。ライブの後は夜中から山を登り始めて山頂で朝日を眺めながらコーヒーを飲むのがルーティンだったんです。デビュー前もそうだったと聞いているが」  視線を向けられた円城さんは「流石に山は登りませんでしたが…徹夜で作曲した後は朝からやってるカフェでコーヒーを」と話してくれた。話は段々とそれはじめる。梶谷さんはもう帰りたそうに荷物をいじっていた。 「なあ、おい、そろそろ帰っていいだろ? 容疑者の俺らは同じ時間帯にいなくなってねえんだ。ごめんなって紙も波土本人だって言うしよぉ」 「もう少し待ってください。そのかばんの中身を確認させてもらわないと」 「商売道具に触るんじゃねえ!」  ぶんと大きく振り廻した鞄が鑑識さんにぶつかった。証拠品を入れていたアタッシュケースが中身をぶちまける。 「手伝いますよ」 「すいません、ありがとうございます…」  世祖とコナンとしゃがみこんで拾うのを手伝った。遺体と一緒にあっただろう歌詞のメモが一枚一枚分けられていた。ばらまかれてたんだろうか。それに綺麗に結ばれたロープ。そのサイズは思っていたよりもコンパクトになっていた。 「あのぉ……?」 「あ、ごめんなさい」  ロープを返却して立ち上がると電話がかかってきた。俺のスマホではなく世祖のものだ。心配そうに見上げる世祖に「出ておいで」と促す。世祖は特に犯人に疑われるわけがないので大丈夫だろう。  目暮警部が梶谷さんのカメラを確認している。探偵3人組も見てるのにさすがに自分も見るのは狭すぎるので世祖のことを待っていた。 「#名前2#」 「お帰り世祖。誰から?」 「むつ」 「何だって?」 「みか、しんぱい」 「まあ、後でテキスト送っておく。他には?」  スマホを見せられたニュース速報でバックバンドの一人が麻薬所持で逮捕されたと書いてある。これが殺害の原因ではないだろうが……。 「ねえねえ鑑識さん」  コナンが何か話しかけている。コンタクトレンズが落ちていないか、針金と軍手がなくなってないか確認する。全く話は分からないので沖矢さんたちと待っていたら今度はパイプ椅子を確認する。世祖が行きたがるので一緒に見に行ったら、コンタクトレンズがパイプ椅子の裏面にくっついていた。 「カラコン、か?」 「いえ、これはサークルレンズですね」 「サークルレンズ……」 「目を大きくさせるレンズですよ」  となると、あの写真の雰囲気が変わったのはそのサークルレンズのおかげだったのか。 「あの、もういいですか?」 「ありがとう、おじさん」  コナンがお礼を言うと、さっき落とし物を拾った鑑識さんのところへ行ってこそこそ何かお願いしている。ようやく推理ショーか、と思ったらコナンに「#名前2#さんも来て!」とステージに連れていかれた。  鑑識さんから受け取ったロープをバーに通さなければいけないらしい。ロープの片端を丸めるように結んで高めに投げるとかすったものの一発で通ってくれた。チラリと世祖を見ると視線がそらされる。俺の力だけではないってことだ。  これでいいのか?と聞くとOKと笑顔のコナンがいた。  刑事さんたちを中に入れて波土さんの代わりに高木刑事がパイプ椅子に座ってロープを結びつけられた。負担にならないようにブランコのような形になるようロープを結んだ。 「手慣れてるんだね、#名前2#くん」 「DIY的なやつは結構好きなんです」  あとは安室さんにお願いしてロープで滑車をつくり、わっかを量産していく。コナンと世祖が力を合わせて引っ張ると高木刑事が椅子から浮き上がった。 「もう、いい?」 「あー、代わるよ」  コナンたちに代わってロープを持つとさっきよりも高木刑事が浮き上がった。ごめんなさいと言いながら力を緩める。 「滑車の代わりとなる小さな輪は輸送結びと言い、運送業者が積み荷を固定するときに使う結び方。つまり、波土さんを吊り上げた犯人として一番疑わしいのは、若いころ運送業者でバイトしていたという円城さん。あなたということになりますが」 「し、しかし吊り上げたはいいがどうやって客席に結んだんだね?」  それなら、と安室さんがまた説明してくれた。ここからはよく見えないが、針金を使ってロープを固定してから結び直すらしい。ロープを余らせていじることがほとんどないので感心して聞いてしまった。 「で、でも彼女がそういうバイトをしていただけで……」 「ロープをまとめた時の長さが小さかったんだ。こう、腕にくるくるって巻いて束ねるけど#名前2#さんの足より小さくて。小柄な女性の方かなあって」 「それだけじゃ……」 「サークルレンズ。波土さんがつけてたのはマネージャーの円城さんも知ってたよね。それが、片方だけマネージャーさんの服の背中についてたんだ」 「え?」  千鳥柄のせいで見にくくなっていたが確かにくっついていた。と、高木刑事が足をばたつかせているのでゆっくりとロープを元に戻した。  最後は波土さんが自殺をしたという結論に持っていかれた。俺はとても驚いたが世祖は「まあ、そうでしょうね」という顔をしていた。話を聞いていただけでなんとなくの結論を持っていたらしい。  マネージャーさんは波土さんが自殺したことを知らせたくなくて他殺のように見せかけたのだ。自分のせいで円城さんとの子どもが亡くなったことを知らされ、その子どものために書いていたASACAという曲は結局発表できないとなったらしい。 「円城さん、どんな罪になるんですか?」 「死体損壊罪だが…情状酌量で執行猶予となるだろうな」 「償ってほしいっていうと変ですけど、あんまり処罰が重くならないといいんですけどね」 「そういえば、新曲のアサカってなんでCAなの?」 「ああ、それは波土から理由は聞いてるよ。妊娠のことを朝、カフェで聞いたから朝香! カフェのCAでASACAだとね」 「なるほどね~」  つまり黒の組織とは関係がない、と。探偵たちは明らかほっとした顔をしている。さて、もう遅くいい時間になってしまった。コナンを送っていかないと。スマホを見ると陸奥から園子たちにはお前が送っていくことを伝えてある、ということが書かれていた。標準語で打つのはいいが何となく陸奥っぽくない。了解のスタンプと、いつも通り土佐弁でよろしくとメッセージを送った。 「コナン、鍵渡しておくから世祖と先に車行っててくれ」 「何かあるの?」 「ちょっと電話」  沖矢さんたちに頭を下げて三日月に電話する。少しのコールの後、#名前2#?という声が聞こえた。実家のような安心感とはよく言ったものだと思う。なぜか三日月の声を聞いてようやくホッとした。 「心配かけたって陸奥から聞いた」 「…ああ、布施社長から色々情報が送られてきたからな」 「あの人、やっぱり知ってたのか」 「自殺するんじゃないかという予想はあったんだろう。それで、他殺に見せかけられるとは思いもしなかったんじゃないか」 「かもな」  それから二言、三言会話して電話を切った。そう言えば、沖矢さんと安室さんが揃っていたのはそういえばキュラソーの一件の後以来で久々だ。後ろを見ると二人はもういなくなっていた。  車に戻りコナンを毛利探偵事務所に送っていく。遅くなってしまったので何か買っていこうとスーパーに寄ってから事務所へ着いた。世祖はもう寝ぼけていて俺のジャケットにしがみついている。 「それじゃあなー、コナン。おやすみ」 「……おやすみなさい」  何か言いたげなコナンだったが事務所の階段を上っていく。その姿を見送って俺と世祖も家へ帰った。