裏切りの真相
#名前2#くんの子どもみたいな笑顔が辛い。もうそれだけで今日の仕事頑張れる気がする。落ち着いた気持ちになってその日はポアロのバイトをやれていた、はずだった。 明日の仕込みなど梓さんと相談を終えたら夜遅くなってしまった。これから公安の報告書を確認、自分の分も作成しなければならない。疲れる……が、まだ頑張れる気がする。 裏口から出て車を取りに行くとのんびり歩いている中田くんがいた。確か……#名前2#くんには加州って呼ばれてたはず。なにか電話してるみたいだ。……。情報収集のあれそれで職権濫用ではない。大丈夫。 そっと尾行して電話の声も聞こえてくるくらいには近づいた。 「はあ? デートに着てく服? ……世祖は? あー、ふーん。服だっけ? 学校終わって着替えてくの? あー、なら少しフォーマルにしてもいいんじゃない? うん、うん、確かベスト持ってたじゃん。あれ着てけば? サングラスはいいよ、いらないいらない。うん、そんじゃあね」 ピッと電話を切られた。こっちもそろそろ退散しようと体を攀じると「あんたもさあ」と声をかけられた。ここは人通りが少ない。俺に、話しかけてる、と思う。 「俺なんかの電話聞いてないでさっさとアタックしに行きなよ。そうじゃないと、予期せぬところに持ってかれるよ」 「……」 「例えば、死んだはずの人とかね」 頭の中に幼馴染が浮かんだ。#名前2#くんを好きになったのは、あいつが先だった。感情的にならないように訓練してるが、さすがに路地裏から出てやろうかと思ってしまった。 「……黙り、か。もう電話は来ないよ。さっさとあんたもうちに帰りなよ。俺が大きな独り言言ってるみたいになっちゃうじゃん」 やっぱり俺に話しかけてたみたいだ。気配が消えたところで路地裏から出て部下に連絡を入れた。私情で動く訳には行かないが、動かせそうな人達は知っていた。 「安室さんからのタレコミよ。ガキンチョども、#名前2#さんのデート相手……知りたくなぁい?」 「!! 知りたーい!!」 少年探偵団をまとめあげている女子高生の声は盗聴器からもよく聞こえていた。吹き出してしまったコーヒーを拭くために急いで布巾を取りに行く。安室くん、公安の仕事じゃないからこっちに話したんだろうが上手い選択肢を選んだな。阿笠博士の家を選んだのは誰のおかげだろうか。情報を受け取れるのはいいのだが狙われている気もする。 「園子姉ちゃん、学校はどうしたの?」 「テスト期間は早く終わるのよ! 世良さんはもう追いかけてて、蘭は今電話中」 「園子! 陸奥さんたちに聞いてみたけど相手までは知らないって!」 「清光さんもデートってことしか聞かされてないらしいし……。どんな女が空いてなのか確かめてやらなきゃ」 少年探偵団たちも大騒ぎで博士の車に乗る準備をしている。窓から外を見ると鈴木財閥のものらしい黒塗りの車があった。 「コナンくん、大丈夫?」 「うんー」 あの少女は博士の車に、坊やは鈴木財閥の車に乗った。進捗を聴けるように坊やにメールを送ると「沖矢さんもなの?」という返事だった。気になるだろう、彼のデート相手なんて。 待ち合わせ場所に数十分早く着いた。メッセージを送り、適当なベンチに休むことにする。変な視線の居場所を探ったらどこから聞きつけたのか知ってる気配がチラホラといる。世祖はいないみたいだが……まあ、今日は宗三の方に預けてるから沖野さんになにか任されているのかもしれない。 「あ、いたいた。#名前1#!」 「三枝、早かったな」 「そっちが早すぎんのよ……メッセージ見て驚いちゃったわよ」 「乗り換えが早く出来てさ。どこかの自販機で何か買ってくか?」 「ううん、水筒あるから」 「じゃあ俺だけちょっと買わせてくれ」 サイダーを買って1口飲んだ。眠気が吹き飛ぶ。三枝はスマホを弄りながら「まずはここに行きたいんだよねえ」とサイトを見せる。 「ん、分かった」 「ありがとう!」 電車を乗り継ぎやってきたのは池袋。上京してきた彼女はオタク仲間に言われたお店を探しに来たのだ。沖野となにか関係があるらしいとしか聞いてない#名前2#は彼女をもてなそうと精一杯だった。お店をめぐり漫画やDVDやグッズにブロマイドなども買い漁り、#名前2#の手にはたくさんの荷物が積み重なった。 ひとまず荷物をロッカーに預けてファミレスの中に入った。#名前2#を追いかけていた皆もだいぶ時間を置いてから来店している。 「はぁー、楽しかったぁ。荷物もってくれてありがとうね」 「いやー、こっちも楽しかったよ」 「#名前1#はあんまり興味無いでしょ? こうゆうの」 「えー、面白かったよ。舞台とかもあんなに広がってるなんて知らなかった」 「今は実写化の波だよ~~。そうそう、この本すごく面白かった! 私のおすすめも見せたいけど……#名前1#は地雷あるんだっけ」 「浮気、寝取り、あと三角関係」 「それだった~。三角関係ダメってかなり損してる気がするのに」 「報われない当て馬ほんと無理……。あっちに感情移入して主人公たちお祝い出来ない……」 「そういうタイプかぁ」 普段メッセージでしか会話してなかったので、実際に会ってから会話が弾むかどうか心配だったがそんなことはなかった。 三枝の方は頼んだピザをもそもそと食べながら自分のカバンに入れていた戦利品の一部を紹介してくれる。流石に大声で叫ぶことは無いがテンションが上がると早口にちょっと声を大きくして自分の推しポイントを語ってくれた。 「#名前1#、ごめん、私ばっか喋ってて」 「え? 面白いけど」 「うそ、ほんとに? いつもテンション上がるとぶっ飛んじゃうんだよね」 「ぶっ飛んでるのはわかるわー」 「うっ。胸がっ」 「でも楽しいこと楽しいって教えてくれるのは嬉しいよ」 「……#名前1#ってモテるでしょ」 「んー、どうかなあ」 「顔はそりゃあイケメンーキャー!みたいなタイプじゃないけど、普通にかっこよさげだし話もちゃんと聞いてくれるし」 「三枝は彼氏いるんだろー?」 「あはは、この前別れたんだよね」 「ん、そうだったのか。すまん」 「んーん、私もアイツも実験みたく付き合ってたところあるしいいの」 「……」 「……」 微妙な空気になった。ズゾゾと氷しか残らなくなったジュースを飲んで三枝は「ドリンクお代わりしてくるね!」と行ってしまう。さてさて、どうすればいいのか。三枝とデートのようにやってくれと沖野さんに言われたのでそうしていたが、まさか本当にそうなれと? 「ね、ねえ#名前1#。あそこにいる人たちって知り合い?」 頭を下げてこっそりと聞いてきた三枝の指をさす方向。そこには女子高生3人とコナンが帽子などで変装しながら座っていた。 「たぶん、知り合い……」 「さっきドリンクバー行った時に、女の子かなあ? ボーイッシュな子が『彼はやめといた方がいいんじゃないか?』って言ってきて……」 「だからやけに遅かったのか」 「女子高生探偵やってるって言われて、あの人は色々とある人だよって」 「あははは……」 「沖野先生の息子さんだし、そういうのは分かってるんだけどなあって思って、ちゃんと知ってますって言い返しちゃった」 「それでいいんじゃないか? 年上相手に強気に出過ぎるのは良くないし」 「んー、でも#名前1#狙ってるって思われてあそこに来たのならよくやってるよね」 「なんで尾行されてるのか俺もわかんないんだけどね」 「#名前1#のこと好きな人に探偵さん、頼まれたんじゃない?」 「…………。まっさかあ」 「あー、今ちょっと考えたでしょ! だれ、誰がいるの? ねえ、おーしーえーてーよー!」 「三枝は? もう彼氏はいいのか?」 「あー、うん。何とか頑張って普通の女の子みたいに恋愛しようかと思ってたけど諦めるんだ」 「諦めるって……」 「元彼に言われたの。ちゃんと告白して振られてこいよって」 「……」 「それで東京にわざわざ来たの」 「これはアイツへの嫌がらせか何かか?」 トントンとテーブルを叩くと三枝はえへへと笑って「まあ、そんな感じです」と言った。 「おかしいと思ったよ。沖野さんはデートらしく振舞えって言うし、あそこには尾行する後輩たちもいるし……。見せつけてやりたかったのか、陸奥に」 「……。お見通し、ですね」 「清光が相談に乗って、沖野さんと俺を巻き込んでて後輩たちと周りを固めてたら陸奥だって気づくぞ。自分一人だけ除け者ってな」 「ごめんなさい、利用したような形になって」 「別にいいよ。デート楽しかったし」 「フッ、フフ。あんなのがデートでいいんですか?」 「女の子とデートってのがいいの」 「………。え、あの今の言葉、男の子とデートしてるんですか、話聞いていいですか。詳しく! 詳しくどうぞ!」 「三枝ちょっと落ち着けって!」 「落ち着いてられませんよ!! なんでシリアスムードの最後に爆弾発言しちゃうんですか、はわぁ、ネタが!!」 「静かにしろって!」 ファミレスの後も店に行こうとしてたのだが、三枝の方からこれで終わりにしようと言い出した。 「バレちゃったし、もういいの」 「夜までいればいいじゃねえか。もう一晩泊まるんだろ?」 「いいの! そろそろ帰るって決めたの!」 仕方ない、と#名前2#は駅まで送ることにした。友人の家に泊まるらしいのでそのあとは友人さんに任せることにする。 電車を乗り継ぎ米花駅に戻ると駅には陸奥が待っていた。スマホを持って1枚絵のように立っている。 「見目がやかましいな」 「……おまんに言われとうないき」 「今日の俺はデート用だからな」 「真桜とか」 「そ。三枝と」 「……」 「……。陸奥の方にも連絡来てたのか?」 「毛利からな」 「意外、そこからだったかあ」 「#名前2#。すまんちや」 「? なんでお前が謝るんだよ」 陸奥と肩を組み、居酒屋にでも行こうと笑った。久々に酒を飲んだ頭はアルコールにすぐに負けてふらついてしまう。陸奥は三枝のことを謝り続けていた。