探偵たちは藪の中

Note

純黒の直後という時系列設定なので原作と少し内容が違います。クリスマスしてないです。

「え、博士が連れてってくれるんすか?」 「ああ…。福引で、食事券が当たってのう。世祖くんの誕生日パーティーは開けなかったからどうかと思ったんじゃが」 「そうっすかあ。じゃあよろしくお願いします。最近塞ぎ込んでばっかりだし、いい気分転換になるかも」  #名前2#は電話口でそんな明るい声を出していたが、実際は少しやつれた姿をしているのを世祖は知っている。世祖がいると逆に負担になるだろう、とコナンに頼んでドクターのところに連れてきてもらったが功を奏したらしい。デパートに連れていってもらえるようになった。  家帰ったら誕生日のパーティーやるからちゃんと帰って来いよと釘を刺されて#名前2#はドクターの家を出ていった。三日月のもとに行くのだ。今は辛いことを忘れるために仕事してないと死ぬ人間だから。 「良かったな、世祖! 食べ放題だとよ!!」 「うん!!」 「いーっぱい食べようね!!」 「そうですねー!」 「まだ喜ぶのには早いぞ。君たちにはもう一つ喜ぶものがあるからな」 「えー、本当ですか!?」 「ケチケチせずに教えろよー!」 「後でなー」  靴を履いて外に出るとぴゅうっと冷たい風が吹く。#名前2#は、今日はちゃんとお弁当食べてるだろうか。  最近は世祖の前で頑張って作るくせに食べる時になって食欲が失せるのかゴミ箱に捨てられているのが目に付くようになった。まだキュラソーのことから脱却できてるわけではないのだ。コナンや哀は慣れているのかきちんと割り切っているが、#名前2#は心の根っこがまだ繋がっている。頭で言い聞かせても心ばかりは自分の思うとおりに動くものではない。寝る時にキュラソーという言葉を魘されながら呟く#名前2#をあと何日見れば良いのだろう。 「…そ! ぃそ! 世祖ってば!」 「! ぅん、なに?」 「着ぐるみんとこで風船貰えるんだってよ! 貰いいこーぜ!」 「うん!!」  クマのようなゆるキャラの着ぐるみと一緒にいるサポートのお姉さんが風船を配っていた。元太が「今日、こいつ誕生日なんだぜ!」と世祖を指差した。人に向かって指を向けるなと言いたいところだが店員の手が視界を遮った。お誕生日おめでとう。その言葉にふふっと笑った。  お礼に頭を下げて風船をもらった。女の子だからかピンク色だった。元太は黄色で光彦は水色。らしい色をチョイスするのは長年の勘だろうか。風船をもらって帰ってきたら哀と歩美が大手のBAを見ていた。次郎太刀を思い出した。本丸でよくメイクをさせられたから途中から池の中に顔を突っ込んだ覚えがある。 「おめぇらにはあんなの早いっての」  コナンの暴言のようなそれは哀にはムカっと来たらしい。そのまま化粧品の実演コーナーになぜかクレームのように立ちはだかった。マスカラかぁ……。  小学生がしても可愛くないし、世祖はあまり化粧は好きではない。がっつりしたメイクは女装をした#名前2#たちがやっていた。何気に動画の再生回数が伸びていて#名前2#は爆笑していたがあれは加州が男の娘と呼べるような可愛らしさがあったからだ。  やってもらった2人は可愛くもないし、綺麗とも呼べない……。はやく落とした方が可愛いよ、と言ってあげたい。 「さ、行きましょレストランに」 「あ、おい、お前ら! それで行く気かよ!?」  あ、と思った。コナンの言葉にのっかって止めさせればいいのだ。 「哀、歩美」 「なあに、世祖? 貴方もやってもらう?」 「んーん。哀も、歩美も、みんあより、かーいい。から、メイク。いらない」 「……ぁ、そう、かしら?」 「うん…。メイクはまだ早いよね」 「うん。メイクは、かーいくない子が、するの」  頭の中にゲラゲラと笑う女装した#名前2#と陸奥が浮かんでくる。奴らは可愛くなかったからメイクもすごかった。見違えるメイク技術はもはや特殊技術と同じだ。 「……じゃあ、私達トイレで落としてくるから先に行っててもらえる?」 「うん、ドクター」 「あ、ああ」  世祖の言葉に見ていた男4人はおおーっと感心していたがこれぐらい自分の彼女に言えなきゃなあと思う。メイクしたい女の子の気持ちも分からなくはないのだが。  食事は大人4人分を分け合った、というか子どもたちで3人分を分け合って食べた。元太がかなり多く食べたが概ね満足だ。オレンジジュースをじゅずっと飲むと話題はもう一つのイイことについて移った。 「何だろうね、世祖ちゃん!」と言われたがまあデパートだし商品券とかそこら辺しか思い浮かばない。あとは仮面ヤイバーの特設ショーでの特別券とか? 他にはデパートであるものって、……。 「ジャジャーン、商品券じゃ」  やっぱりだった。しかも1万円。太っ腹だ、福引をやっていたおじさんたちが。 「これも福引で当たったんじゃよ。世祖くんだけ、というのは可哀想かと思ってな。これでプレゼントを君たちには買ってやろうかと思ったんじゃ」  ササササとまるで忍者のように世祖の横に座っていた少年探偵団たちが出口へと向かっていく。お支払い、まだ済ませてない……。 「僕、前から天体望遠鏡が欲しかったんですよね!」 「俺は野球のバットとグローブな!」 「わたし、おっきなぬいぐるみ!」 「あっ、おいおい、商品券は一万円じゃから……」 「あら、じゃあ私はフサエブランドの新作ポーチでも見てこようかしら。世祖は? どうする?」  フサエブランド。ドクターの初恋の人のブランドだ。途端に#名前2#とキュラソーのことが頭に浮かんできた。心の傷が治ってないのは世祖も同じだったようだ。哀への返事も声が震えた。 「うーうん」 「いらないの?」 「……うん」 「欲しいもの、博士が何でも買ってくれるってよ? 誕生日プレゼントなんだから買ってもらえばいいじゃない」  ぇえ、と博士が情けない声をあげるがコナンがその横っ腹をつついて世祖を見てみろと促す。世祖は泣きたそうな顔で葉を噛み締めていた。 「……#名前2#。まだイルのこと、忘れ、ないの。うなされて、ごはん、も、たべ…ない。やせて、心配で、」 「……。じゃあ、#名前2#さんのために何か選びましょ」 「え?」 「博士、私と世祖の分は#名前2#さんのプレゼントに回してちょうだい」 「いいのか!? 哀君も世祖君も」 「キュラソーのことは、私だって辛いもの。それに#名前2#さんには何かと助けてもらってるしこんな時ぐらいお返ししようとか思うわよ」  さ、行きましょ世祖。と腕を引っ張られる。頭の中ではそんなの無理だ、とはなっから諦めの境地だった。#名前2#を笑わせようとなにかしても彼は笑えなくなっている。スコッチが死んだ時と同じ、それに。あの時は確かキュラソーが助けてくれたのだ。だけど今回は助けてくれる人がいない。一体どうすれば……。  エレベーターに乗ってどこに行こうかしら?と聞く哀に1階と答えた。ブランド品を扱っているコーナーだ。本当にいいの?と聞く哀に世祖は頷いてエレベーターのボタンを押す。 「何を買おうとしてるの?」 「……#名前2#が、イルの、お墓に、もってく、もの」  自分で供えられたら受け入れもするだろう。プレゼントは欲しいもの、と言うがあれは欲しいものではなく本人に必要なものが与えられて然るべきだ。#名前2#に必要なものは、それだ。  世祖は何も言わなかったが哀は頷いてエレベーターが降りていくのを待った。お供えされるものをわざわざ買うなんてバカバカしい話だが哀は受け入れてくれるらしい。 「哀の、ぷぇれんと、は」 「いいわよ、別に」 「んーん。#名前2#と、そうだん、する。ポーチで、いい?」  世祖の誕生日だというのに世祖は律儀にプレゼントを買おうとしていた。ぷっと吹き出した哀はひとつ提案をした。 「なら、私も博士と相談して世祖に贈るわ。何が欲しいの、世祖は」 「! ありがとう! せい、まくら、がいい!」 「枕?」 「うん。#名前2#の腕、かたい、から」 「なるほどね」  腕枕してもらっても痛いものは痛い。一緒に眠るのに小さくて便利な枕が欲しかった。  ブランド品専門ブースに着いて色々見るがやはりフサエブランドが良いだろうという結論に決まった。供えると言っても盗まれないように持ち帰らなければならないし、その時は世祖か#名前2#が持ち歩くことになるので下手に大人らしいものだと変に思われるからだ。  カバンは供えにくいのでもっと小さな化粧ポーチとなった。どれがいいだろう、と探していって見つけたのは赤地に茶色の柄の入ったレザーポーチだ。似たようなものに黄色のもあったが、哀の方が似合うと笑ってキュラソーにはこちらにした。これなら世祖が持っていてもおかしくないだろう。 「じゃあ写メをとって江戸川君に送りましょ」 「うん!」  2人で顔を合わせてポーチを掲げる。カシャン、とシャッター音が切られた音がした。  少年団バッジからコナンの声が出てきた。(世祖も持ってはいるが携帯してない。)10階で人が刺されたから、急いで降りてくる人がいないか見ておけという指示。そして哀には受付に事件を説明して、急いで逃げる奴がいないか確認しろと言うものだった。 「行きましょ、世祖!」 「うん!!」  と言っても、世祖はこういう事をしゃべることは出来ないので(というより向いてない。)話は哀に任せてエントランスを見張っていたら女性が駆けてきた。 「あっ!」 「えっ、うわ、なんだよ!?」 「お姉さん、お願い!」  哀の声が聞こえて、出ていこうとする彼女にぶつかって世祖はわざと転んだふりをした。当たり屋と言えば聞こえは悪いが1番効率的だ。  小学生がぶつかって謝りもせずにいると周りからの目線がびしばし飛んできて顔を覚えてもらえるから。(どこかのFBIも当たり屋だったそうだが、……真似ではない。)どうやらお姉さんも容疑者の一人みたいだ。  警察に呼び止められた容疑者は3人。フリーターとさっきぶつかった主婦とシェフだった。だが、階段で少年探偵団たちは犯人を見たと言うし、まあすぐに解決するだろうと思ったのだがそうはいってくれなかった。 元太は「犯人は小柄。服に2の番号。薄いグレーの服」と言って 光彦は「犯人は大柄。濃いグレーの服。男らしい走り方」と言って 歩美は「犯人は白に近い明るい灰色。身長は博士よりも少し高い。女性」と言った。  近いのはグレーというだけ。なるほどねずみ色だ。容疑者を見るとみんなねずみ色だ。……おいおい神様もやってくれる。 「それ、ほんとーに、2だた?」 「おう、間違いねえぞ!!」 「色は?」 「ぇ?」 「色は? 番号の、色だよ!」 「な、何色だったかな……」 「……はぁー、そっか。まあ一瞬ならしたかねえか」  色が分かればかなり絞れたのだろうが……。小林先生が大阪ニコニコ運輸のマークのOとSを0と9に見間違えたようにそういう事もあるかと思ったが、違うのか。  フリーターの背中には赤く米花とある。すごくダサい。色は元太の言う、哀と似たような色。  主婦の服には6っぽいブローチ。色は歩美の言う明るいグレー。  シェフの背中には東京スピリッツのTとSが被ったようなマーク。色は光彦の言う濃いグレー。  そうそう、あとはケガというか何かしらの症状がある。フリーターには突き指。主婦には風邪。シェフは水虫だ。水虫は……外目だと分かんない。足がかゆい人に見える。 「あとは、歩美くんがどうして犯人を女性と思ったかだな」 「歩美ちゃん、どうしてそう思ったんだい?」 「うーんとねえ、なんとなく、だよ」 「な、なんとなく?」  刑事たちが呆れているので仕方なく世祖も歩美に質問することにした。見てないことを推理するのはコナンの役目だが、証言を正すのは世祖にも出来る。哀、と耳打ちして刑事たちに話すように伝える。 「女性っぽい仕草だったんじゃない?」 「えぇ?」 「前に高木刑事が遭遇した銀行強盗では縁石の上に乗って身長が水増しされたりカフェのオーナーがサングラスをかけていたのを忘れたりしたでしょう? そして、老人は時計を内回りにしているのを見て女性だと思った」 「あ、ああ。でも、その事件に君はかかわって、」 「いいから話を聞いてちょうだい。あと、これは世祖が話すの大変だから私がしてるだけよ」  ほら、これと哀のスマホに送られてくる文章におおーっと警察がなるがそれなら警察に読ませた方が早くないか?という結論になった。  世祖の考えによると、階段では身長の水増しもできないし少年探偵団たちは色をグレーに統一させていて違うのは濃度のみ。子どもたちはサングラスなどはかけてないので、逆に犯人側に何かあったのだろうということ。  歩美の話が女性らしい何らかの仕草だとすると、時計の話もそうだったように男もありうるから先にグレーの謎を解いた方が早いということ。 「な、なるほど……」 「言われてみれば、そうですね。違うのは濃さなんだから少年探偵団たちではなく犯人の方に何らかの錯覚があったのでしょう」 「だな」 「じゃあさ、手袋持ってるか聞いてみてくれる?」 「手袋?」 「包丁には犯人の指紋がついてなかったんでしょう? 僕なら捨てちゃうけどな」 「それもそうだな。では、手袋があるか見せてもらいましょうか?」  だが結果はみんなシロ。きちんと自分のを持っていて返り血などもない。むむ、と顔を探偵のものに変えたコナンの横で世祖は早く家に帰りたいなあと思っていた。