探偵たちは藪の中
取り調べは警察の管轄。見られないのが当たり前だ。文句を垂らしながら歩く探偵団の横で世祖は#名前2#に電話をかけた。まさか事件に巻き込まれるとは思ってなかったのだ。 「もしもし、世祖か? どしたー?」 「ケース、まきこぁれた」 「まじで!? かぁー、コナンのせいじゃねえの? あいつお祓い行けよ……それか石切丸にハラキヨしてもらうだな。三日月みたいに」 「うーさい」 「あ、すんません。それで、迎えにいくのは東都デパートか?」 「うん」 「おっけ、終わったら電話くれ」 「はい」 電話を切ると離れた場所で待ってくれていたらしい少年探偵団たちが世祖を呼んでいた。 「なに?」 「とりあえずスポーツ用品店に行くことになったんだよ。元太が顔を見てないのはバスケ部の人たちがいたからって言うからよ」 「わかた」 と、また電話だ。また#名前2#かと思ったら鳴狐だった。え、鳴狐?? 「もしもし」 「世祖さまですか?」 「きつね……」 「腹話術でありますぞ! 本物は家におりまする!! それで、#名前2#さんから連絡がございましたが、同じ東都デパートにいるそうなのでご連絡しました。これ以上、関わる前に帰ってきなさいとのことです」 「……7階、スポーツの」 ぶつっと電話を切るとコナンが「今度こそいいか?」と聞く。 「うん。むかーぇくるって」 「ええっ、もう世祖ちゃん帰っちゃうの?」 「うーうん。手ー、ふやす」 とりあえずスポーツ用品店行こうと言った世祖の姿はちょっと怒っているようだった。 スポーツ用品店に行くと店員さんが杯戸高校バスケ部がユニフォームを着ていったと教えてくれた。哀と同じようなグレーのユニフォームだ。みんなグレー好きなの? 「でも、バスケ部だらけなら犯人の2番って番号も見間違えだったんじゃないの?」 「? なんで? バスケは4、から。だよ?」 「え?」 少年探偵団たちと哀が声を揃えて聞いてきたが、コナンはいい所を取られて悔しそうだ。 説明して、と促すとコホンと一息いれて「バスケの審判は指で番号を指して選手を言うんだけど、1番はシュートとか指すようになってから紛らわしいってことで4番から番号を降るようになったんだ」 「そうだったんですか」 「ああ。だから元太の2番は当たってるってことだ」 「ほらなー?」 「おにーさん。杯戸こーこー、もーひとり、いない?」 「ああそういえば、1人だけ別の用事で来た人がいたよ。空手部って言ってたけど」 「! それ、ペイント、した?」 「ペイント? ああ、確かに目の周りにしてたよ」 「ありあと!」 「世祖、次は4階のおもちゃ屋さんだ」 「うん」 エレベーターを待っていたら、ちょんちょんと背中をつつかれた。 「世祖、」 「!」 「迎えに来たよ」 振り向くと鳴狐こと粟口鳴(あわぐちめい)はぴょこんと狐のパペットをくっつけて立っていた。 「あれ、鳴狐さん!?」 「え、コナン君知り合いなの? っていうか、ナキギツネ?」 「あ、ああ……。京極さんが負けたくない相手って公言してる人で、杯戸高校の元空手部の人だよ」 「へえー、京極さんの!」 「こんにちは、わたくし粟口鳴と申します。鳴狐とお呼びくださいませ」 「鳴狐?」 「あだ名にございます。#名前2#さんにつけていただきました!」 「よろしく」 腹話術だったり本人だったりと忙しいが、とにかく先ほどの電話の相手はこの人らしいとコナンは納得した。世祖の表情がほがらかなものに変わっている。エレベーター近くの椅子に集まって自己紹介をするとコナンがより詳しく説明をしてくれた。 「強いんだけど顔のペイントを落とさないから、大会には出られないんでしたよね?」 「ええ。ですがこのペイントは落とせませんので! 真とは良き友であり仲間でございます!」 「凄いんだねえ」 「我が兄の一期は真の本当のライバルでありますから、わたくしはまだまだにございます」 「……なんで、腹話術なんてしてるの?」 「面白いから」 ここは本人なんだ、と微妙な空気が流れたところで世祖が事件のことを説明したスマホを見せた。 「なるほどなるほど、それでしたらわたくしも見たかも知れません」 「ほ、本当かよ兄ちゃん!?」 「服は!? 身長はどうでしたか!?」 「服は哀さんの、身長は阿笠さんほどでしょうか」 「男だった!? 女だった!?」 「どうでしょうか。なにしろ、見たのは階段の上からですから」 「階段の、上?」 「ぶつかられたのに謝られませんでしたので、何事かと思いながら見ましたら人混みの中をパーカーを被った方がバタバタと走っていましたよ。ちょうど、6階のところを」 「そんなんで身長なんか分かるのかよ……」 「ぶつかった時に覚えておりました。空手をやっていますから、動体視力は良いほうですよ。その容疑者を見ていませんので分かりませんが、女性にしては筋肉がありましたよ。男性にしては…まあ、普通というところでしょうが」 「じゃあ、男だな。あのおばさん、筋肉あるようには見えなかったし」 「ですね!」 「だね!」 「あ、おい、お前ら…!」 エレベーターは遅くなりそうだから高木刑事のとこ行こうぜ!と走っていく探偵団の前に鳴狐が通せんぼした。 「な、何だよ…兄ちゃん……」 「それよりも、まずはお話を聞かせて欲しいのであります」 「おねがい」 階段を降りながら話を聞かせてもらうと、鳴狐は「それではなぜ証言が違うのかが説明しなければ刑事さんたちから信用を薄くされてしまうでしょう」と言う。 「シンヨウ、」 「君たちが刑事さんたちに頼られなくなる、ということでありますよ」 「……」 少年探偵団たちは黙ったまま俯いてしまった。事件解決出来ればいいと思っていたが、確かにこのままでは自分たちの沽券に関わると気付いたのか歩くのをやめて階段を見つめる。ここに何かの仕掛けがあるのは分かってるのに。 「なあ、お前ら。犯人を階段で見かけた時に元太みたいに何か変わったことは無かったか?」 「変わったこと?」 うーん、と考え込んだ光彦と歩美の後ろにこのデパートの店員であろう男の人が汗ダクダクで歩いてきた。白い子どもマネキンを抱えてひぃひぃ息をする。 「すまない、後ろ歩いてもいいかい?」 「あ、すいません……って、あああ!」 「え、なんだい……?」 「どうしたんだ、光彦」 「このマネキン! 僕が犯人を見かけた時に置いてありました! しかも沢山!」 「おじさん、そのマネキンどうしたの?」 「5階にあったマネキンを7階に運んでるんだ……。昔の名残で5階倉庫に眠っていたからね。ついでに、立て看板も外に出したなあ。それがどうかしたのかい?」 「ううん、教えてくれてありがとう!」 何かに気づいたようなコナンがおもちゃ屋さんに急ごう!と走り出した。何に気づいたのだろう?と世祖もいそぐが鳴狐に止められた。 「?」 「世祖」 「…?」 「犯人捕まえても何もしちゃダメ。分かった?」 「……うん。だいじょーぶ」 「ならいいんだけど」 鳴狐と手を繋いで階段を急いで降りると、また少年探偵団たちに待ってもらったみたいだ。 怒った様子もなく「もう大丈夫か?」と聞いてくるコナンにだいじょーぶと言う。まだキュラソーのことを引きずっているとでも思われているのだろうか。……違うとは言いきれないのが悲しい話だ。 おもちゃ屋さんでは歩美が一緒に犯人を見たと言う女性の店員さんに話を聞いた。茶髪の優しそうな人だったが鳴狐を見て顔を赤らめていた。 やめておけ、こいつはここでは腹話術を使って話すやつだぞと言ってあげたい。本丸にいた時ならばオススメもできただろうが。 「お姉さんも、犯人見たよね!?」 「あっ、あー、ごめーん…! 私、その時走ってる最中にコンタクト落としちゃったらしくてぼやけて見えてたのよね……」 「そっかあー」 「あ、でも犯人が階段の所でちょっと止まったのは分かったなあ」 「そうそう! 逆光ですごく黒かったんだよね!」 「靴の裏を見てたから、何か取りたかったのかもしれないわね」 店員さんにお礼を言って歩き出す。なんで証言がこんなに変わるのか分からないまま話が終わってしまった。コナンは不敵に笑っていて事件の行方を心配している鳴狐を安心させるように足を叩いた。