ゼロの執行人
世祖は何らかの事件の糸口をつかんだようだったが俺には何も言わなかった。世祖はそのまま沖野さんに連絡を入れたらしく、沖野さんの方から「今回の事件には首を突っ込むんじゃない」と言われてしまった。 「でも、あの、毛利探偵が疑われてるって……」 「仕方ないことだよ」 「仕方ないって、そんな…!! 毛利探偵はあなたの友人じゃないんですか」 「残念だけどね、これは命令だよ。いいね?」 「……」 沖野さんにそう言われると俺は何も言えなくなる。自分は、上の人に逆らうようにはできてない。世祖はにゅっと唇をとがらせていたが何も言わなかった。毛利探偵に一番お世話になってるのはお前だぞ、と心の中で言ったけれど我慢する。それは世祖に言っても詮のないことだ。 「あの。じゃあ、俺が世祖と関係なく動くのはいいんですか」 「へぇ? 具体的にはどうするって?」 「……刀剣たちに頼みます」 「ふむ……君は審神者守護であって、審神者ではないからね。世祖の命令しか聞けないかもしれないのに。いいのかい」 「許可を、いただけるなら」 沖野さんはちょっと黙っていたが、突然笑い出した。 「今連絡が入ったよ。弁護士として、鴬谷という男が自分のツテを探ってくれるそうだよ」 つまり、鶯丸が仕事してくれたのか? いや、でもアイツの主要な管轄は警察ものではなくどちらかというと民事ものだ。 「僕のあずかり知らぬところで誰かの冤罪を晴らす青年を助ける人もいるみたいだ。よかったね」 「あ、ありがとうございます!!!」 「ただ、覚えていてほしいのは僕は知らないってことだ。くれぐれも、小五郎にも敵にもバレることはないように」 「はい!」 沖野さんは今回は珍しく俺にも優しかった。というより、さっきの言葉で何か裏があるのはわかったし、沖野さんが何かやらしかしたのか、やらかしそうになっているのか、とにかく関わってることを前提に動いた方がいいかもしれない。となると、長谷部たちは今回は当てにしない方向なのと、あと世祖は……。世祖は俺の足にくっついたまま離れようとしない……だだをこねる姿勢になっていた。今回は手伝ってもらうことは考えないようにしよう。用事はもう終わりだ、と言わんばかりに電話が切られたが、着られる直前、沖野さんには世祖を早く寝かしつけるように怒られた。沖野さんの声を聞いて起きてしまったんですよ、と言ったら言い訳がましくて怒られそうな気がしたのでやめた。 朝起きてスマホを見ると昼頃には会おうと書かれていた。世祖にどこに行くか確認してもらって、着替えさせた。もう一件、不在着信が入っている。一件は大包平として、もう一件はコナンの方だった。一応メッセージでも送るか、とアプリを開いたらちょうど電話がかかってきた。 「もしもし」 「あっ、#名前2#さん……って、ごめん。もしかして、今起きた?」 「ああ……いや、大丈夫。毛利探偵がなんかあったってネットで騒がれてたけど」 「うん……実はね、」 コナンはサミット会場の爆破の容疑者として毛利探偵が捕まったことを教えてくれた。任意同行じゃないのか?と思ったが、公安警察に公務執行妨害でしょっ引かれてしまったらしい。 「それで、#名前2#さんたちにお願いがあるんだけど……」 「あー、世祖に仕事期待しても今回は…」 「え? そうじゃなくって! 僕たち、車とかないし移動するとき#名前2#さんにお願いしたくて。暇だったら、でいいんだけど」 「ああ、そっち」 確かに車移動は基本的に毛利探偵がやってたものだ。いいよいいよ、連れの弁護士もそっちに行かせる、と言うとありがとう!と嬉しそうな返事をもらった。鶯丸に連絡を入れると妃弁護士とは知り合いだから、とそこで待ち合わせすることになった。世祖は予定の変更にぐずったが洋服を着替えると行先が変わるのにも納得してくれた。 車で蘭ちゃんたちを迎えて妃弁護士の事務所に行くとすでに鴬丸たちが待っていた。 「久々にあったな、少年」 「お、お久しぶりです……」 鶯丸は知り合いかもしれないが大包平は自己紹介がまだだった気がする。兼平だ、とぶっきらぼうに言うので蘭ちゃんの方はちょっと怯えていた。鶯丸はそれにすぐに気づいてか「ぶっきらぼうな男だが仕事は確かだ。俺たちはこの事件の弁護は得意ではないが、当てを探すことはできるからな」と笑った。肉親の弁護はできないので妃弁護士も毛利探偵を助けてあげることはできない。 妃先生に聞いてみても、やっぱり請け負ってくれる人があまりいないらしい。公安相手に戦うというのは難しいようだ。鶯丸たちを見ても首をふられた。 「公安を相手にすると99パーセントは相手に勝機があるから、ここで戦うと言い出す人間は相当の根性があるか、裏があるかのどちらかだろうな」 「鶯丸、一言多い」 「すまんな。仕事柄裏切られるかどうかを考えなければならないからな」 はははと明るく笑う鶯丸を見て蘭ちゃんの顔色がさらに悪くなった。おい、と声をかけようとしたとき白鳥警部が入ってきた。毛利探偵が送検されることになったらしい。世祖は驚いた様子もなかった。こうなることはわかっていたのだろう。と、スマホに哀から連絡が来た。 「大包平、コナンを阿笠博士のところに送って行ってあげてくれるか」 「別にそれは構わないが……」 「ついでに世祖も一緒に。俺は蘭ちゃんたちともう少し人を当たってみるから」 大包平はきちんと察してコナンと世祖と手をつないで部屋を出ていった。顔に似合わず律儀な男だろう、と鶯丸が笑っている。 「あのう、さっきの呼び名は……」 「ああ、気にしないでください。#名前2#が考えたあだ名なので」 しばらくしてリペアリングしてある世祖のスマホから哀の声が聞こえてきた。圧力ポットが爆弾の原因? というと……誤作動か何かってわけでもなさそうだ。21世紀にもなっていまだにスマホが爆弾のスイッチ扱いになるのか。蘭ちゃんはまだ顔色が悪かった。寝た方がいいぞ、と言っても泣き出しそうな顔で否定するばかりだ。 「寝た方がいいって。メンタルが死ぬぞ」 「メンタル……」 「精神的に死んじゃうと勝てる勝負も勝てないってこと。空手と同じ。毛利探偵が負けるってことは絶対にない」 「でも……。公安警察が…」 「うん、でも確実に冤罪ってことはわかってる。いざとなれば無理やりにでも証明する。毛利探偵、ぜーーーったいパソコンをいじってないって言えるから。あの人、相当な機械オンチだし。いまだにスマホでメッセージつけるときはてなをつけられない人なのに」 俺の言葉に蘭ちゃんはふふっと笑った。