ゼロの執行人
その日の午後遅くにIoTテロが発覚した。ニュースの報道もはやく、知識の深い人々はすぐに毛利小五郎は無実だ、という発信をしていた。一般人を装ったアカウントで刀剣たちもやってくれたので恐らくこれで批判は収束されるだろう。妃先生に聞いてみたところ、毛利探偵はそのまま不起訴になるらしい。お迎えに一緒に行くかあ、とガソリンスタンドに寄ったら世祖がびしっと手を止めた。 「え? なにこれ」 世祖のスマホが手渡される。沖野さんから電話がかかっていた。おそるおそる手に取ってみると「#名前2#くんかい」といつもの声の調子で言われた。 「沖野さん、あの……」 「IoTテロは止められないけれど、被害の拡大は止めたいんだ」 「は、はい!」 「毛利たちの方は鈴木財閥が助けに行くから。君は僕の言うとおりに動いてくれ」 「えっ、あの、鈴木財閥って……えっ」 「早くしてくれ。ここで失敗すると文化的にも人的にも被害が大きい」 「は、はい!」 まるで刀剣男士たちのようにコマとして働くのは久々だ。イヤホンを耳につけて車に乗り込む。この車、大丈夫なのかなとつぶやいたら沖野さんから「世祖が防いでくれるよ。インターネットといっても電波なのは変わらないからね」という。 「はくちょうの探査機が落とされるのは時間の問題だ。僕もNAZUの方を助けに行くけれどうまくいくかは分からない」 「いや、あの探査機ってなんですか!!?」 「NAZU不正アクセスのせいでテロが起きてるってことだよ。……。犯人を考えると、警視庁に落される予想がある」 「やばいじゃないですか!!!」 「これが歴史改変ならまだしも、奇跡的に助かったっていうのがこの時代の正史なんでね」 「はぁ~~~~~。めんどくさい。世祖も働いてくれるんですか」 「NAZUのコードはわかってるんだ」 「え、分かってるんですか」 「そりゃあね」 「でも、それを使うと……」 「歴史としてまずい」 「うぅ……」 刀剣男士たちよりも難易度が高くないだろうか。車を飛ばし、ついた先はサミットの予定地だったエッジオブオーシャン、に行くためのモノレールの入り口だった。 「来たな!」 「大包平!?」 「鶯丸は面倒だというのでな」 「いや、ありがとう。お前の刀借りるぞ!」 「おう! ……んん!?」 「すまん、この事件を解決しろっていわれてるのは俺なんだ」 大包平は唇をとがらせたが引き締めた顔になり、ほら、と刀を顕現させた。 「使い道を誤るなよ」 「わかってる。……乗ってくか?」 「応とも!」 大包平をのせて走り出す。沖野さんからの連絡はまだない。NAZUは今どうなってるんだろう。犯人のせいでそんなに巻き込まれて沖野さんも仕事したのに……。エッジオブオーシャンに着いたらすぐに沖野さんから電話が入ってきた。 「コードが失敗したようだ。これから準備に入ってくれ」 「は、はい!」 「いいかい。これは歴史を守るための裏方の作業だ。大きなことをしでかすなよ」 「わかってますって!!」 パラシュートが出ないカプセルの方は大丈夫、らしい。そんなの嘘だろ、と思うが歴史ってすごい。爆発音とオレンジ色の光が見えたと思ったら沖野さんから「向こうは仕事が完了したみたいだよ」という。 「向こうって……」 「少年たち、だよ」 「えっ。俺、やっぱりコナンの後始末ですか」 「公安の痴情の縺れってやつだよ」 「はぁ……???」 「#名前2#、無駄口叩いてる暇はないぞ」 世祖がぐるぐるっと目をまわして空を見ている。エッジオブオーシャンのところにカプセルが来るらしい。ここに避難すればいいのか、ここから避難すればいいのか人々も分からなくなってるみたいだ。握りしめた刀を見ていたら大包平に背中を叩かれた。 「気張るな」 「でも……」 「いざとなれば俺の方が真剣必殺でも繰り出してやる」 「……っふ、そうだな」 ちょっとだけ気が抜けた。カジノタワーにもう来るってことが分かってる。これで止めないと毛利さんたちが死ぬ、と沖野さんに言われた。ここが正念場だ。呼吸をしずめて、刀を振る。コナンたちが間に合う時間を作れるだけあのカプセルの勢いを殺すのだ。なにも、刀いっぽんで止めようってことじゃない。大丈夫、世祖もついてる。俺がふるうのは天下五剣と張り合う大包平なのだ。 「いまだ、行け!」 「はい!!!!」 刀を、ふるった。無音だった。それは火事場の馬鹿力というものだったのだろうか。俺が振るった刀は勢いよく空を割りカプセルの横に触れた。スピードのあるそれと斬撃が重なって火花が飛んだ。 「っあ!!!!」 「おい#名前2#生きてるか!!」 一瞬何があったのか分からなかった。呼吸をしていなかった気がする。せき込むと同時に鼻から血が出ているのに気づいた。それに倒れていることも。世祖は腹にしがみついて号泣していた。よだれがすごい。 「カプセルは!?」 「花火が軌道をズラしていた。時間稼ぎは十分だ」 よかった。……本当に、よかった。なんだかとてつもなく疲れた気がする。 「泣いてるのか」 「ああ?」 「涙だろう、それ」 大包平に指摘されて涙も出てることに気づいた。すごく変な感じだ。限界突破というやつだろうか。久々にやってしまった。 「世祖が力を全開にしてお前をサポートしていたからな。反動が来たんだろう」 「そっか。……」 舌も、うまく動かない。耳がこもっている気もする。心臓が張り裂けそうなくらいにいたい。 「ゆっくり休め。毛利とかいう家族はみな無事だ」 「そっか。…そおかああ」 それだけ知られれば十分だ。守れて、よかった。涙が止まらない。これじゃあ俺も世祖のことを笑えない。大包平に車のキーを取ってもらって、帰り道を頼んだ。正直、体はもう動かなかった。 体調不良で寝込んでいたら沖野さんから電話がかかってきた。よくやったね、とうなずいてもらえたので「歴史守れましたかね」というと、沖野さんはけたけた笑い出した。 「あれ、もしかして、君信じたのかい」 「えっっ」 どうやら嘘だったらしい。沖野さんは笑いながら「でも、君、テンション上がって仕事してたじゃないか」という。それはそうだけれど。なんか納得しない終わり方になった。 毛利探偵は無事に家に帰れたらしく、後日家にたずねたら無事な姿を見られた。ポアロの中には安室さんもいつも通り働いている。まあ、それは別に構わない。公安もそういう仕事だったのだろうし、毛利探偵をターゲットにするなよとか言いたいことはいっぱいあったが意味もないのは確かだ。 「#名前2#さん、こんにちは! 今日は世祖ちゃん一緒じゃないんですか?」 「この前のIoTテロでうちのパソコンも壊れちゃって……。今はショックで家で寝込んでます」 「そっかあ。うちのテレビも壊れちゃってまた今度買いに行かなきゃいけなくて…」 「そりゃあ大変だ。買い物に行くなら付き合いますよ。世祖、そういうの選ぶの強いんで」 「本当ですか!? 安室さんに頼むとうちの常連さんたちに炎上しかねないのでどうしようかなって思ってたんですよ~!」 炎上。梓さんも炎上するのか。なんというか、安室さんのことを考えるとJKって強いなあと思う。笑うと筋肉痛で体が痛む。梓さんと別れて前を向くと、通り道の向かい側で橘弁護士が歩いているのが見えた。声をかけようか迷った。でも、俺が今また首を突っ込むのは怒られる気もした。事件はあれで終わったのだ。あとは……。 「SNSの監視はもうちょっと続けとこうかなあ」 アフターケアも大切だ。