ゼロの執行人

いらっしゃいませーと声をかけるといつもの2人にもう1人一緒にいた。 「今日は3人なんですね」 「あはは、4人がけ座っていいですか」 「どうぞー。注文決まったら呼んでください。あ、今日は安室さんいないんでサンドイッチはないでーす」 「了解ー」 #名前2#くんの横には世祖ちゃん。世祖ちゃんの前に色白の男の子が座った。ハーフなのかな?と思うぐらい白くて綺麗な姿だった。ちょっと見えた瞳もピカピカしてて髪の毛はクリーム色というかなんというか、甘い色だった。 「物吉、何食べる?」 「何がおすすめですか?」 「パンケーキ美味いぞ、ここ」 「せい、それー」 「俺はナポリタンかなー」 「じゃあ僕もナポリタンにします」 「……」 モノヨシと呼ばれた人をじっと世祖ちゃん、#名前2#くんが見つめる。丁度カウンター側を見ているふたりの顔はここからでも良く見えた。 「そういうところだぞ、物吉」 「あははは」 「梓さん、オーダーお願いしまーす」 「はーい」 もう聞いてると言っても過言ではない注文を紙に書いて調理にかかる。今まで1人でほとんどこなしていたけれど安室さんの力ってやっぱりすごい。彼がいないと痒いところに手が届かない感覚だ。バイトの彼に頼りっきりは良くないと思うのだが……。 「やっぱりダメだなあ」 「ダメって何がですか?」 「え?」 モノヨシと呼ばれた子がこちらを見ていた。キラキラした目が私を見ている。ちょっとドキドキしてしまった。 「お姉さん、ダメって言葉の方が良くないですよ。いつもポジティブに、幸せな言葉を言いましょ!」 「あはは、そうね……」 自分より一回りは年下だろう男の子に諭されてしまった。恥ずかしいと思ったのがバレたのか#名前2#くんもにひひと笑っている。 「物吉は幸せを呼ぶ人間なんで、言うこと聞いといた方がいいっすよー」 「なぁにそれ? 新手の宗教?」 「俺が神様信じるような人間じゃないって知ってるくせにー」 「世祖ちゃんは信じるかもしれないでしょ?」 隣に座っている世祖ちゃんはぶんぶんと首を振った。モノヨシくんも「宗教じゃないですよ、ただの運です」と笑っている。 「運、かあ。開運ってこと?」 「招き猫みたいなもんで、幸運を運ぶって感じです」 「ふーん?」 イマイチ信用しきれないなあと思いながら料理をする。茹で上がった麺をフライパンに入れて隣のコンロにはパンケーキを焼き始める。 秘技、同時操作!ってわけじゃないけど、パンケーキは基本的に焼いてるだけなので安心だ。1回冷やす行程があるにしても。 「うちに幸運があるとしたらーー、毛利さんのツケが支払われるとかかなあ?」 「現実的っすねー」 「毛利さんって?」 「うちの上に住んでる眠りの小五郎さん! ビルのオーナーにしても、ツケがかなり大きいのよね」 「あの人、麻雀も競馬も大好きですからね」 「物吉、麻雀は金かけたら違法だから」 「そうでしたっけ」 そこから2人は麻雀について花を咲かせてしまった。世祖ちゃんはつまらなそうにスマホをいじっている。私が小さい頃はスマホや携帯なんて自分の持ってなかったなあ、時代は変わったなあと思い浮かべた。 パンケーキの方が一足先に完成しそうだ。冷蔵庫からクリームを取り出してシロップも用意する。 ナポリタンのお皿も念の為取り出した。 「はーい、お待たせしましたー」 「ありがとうございますー!」 #名前2#さんはお腹がすいてたのか満面の笑みで受け取って世祖ちゃんと自分のおしぼりを破いた。いそいそと手をふいてフォークを持ち食べ始める。彼らの食べ方はいつも美味しそうで見ているこっちも素敵な気分になる。 「美味しいですね、ここ」 「美味しいけど、なあ」 「#名前2#くん、まだ安室さんに会わないつもりですかー?」 ぎぎぎっと#名前2#くんはゆっくり顔を逸らした。ご丁寧にお皿も手に持ったままだ。そしてもそもそとスパゲッティを飲み込む。 「いやー、あはは。すいません」 「喧嘩したんですか?」 「そうみたいなの。私もよくは知らないけどね。ただ、安室さんが#名前2#くんにシフトを聞かれたら教えてあげてって言うから。会いたくないんだなって」 「向こうも会いたくないんですかね?」 「どうなのかしらー? 安室さんのプライベートとか知らないしなあ」 毛利さんが逮捕されたあの日以降、#名前2#くんと安室さんは会わなくなってしまった。私の知っている限りでは、の話だけど。 小五郎さんに聞いても#名前2#くんが世祖ちゃんを預かってもらう時だって安室さんは隠れるほどらしい。じっと#名前2#くんを見つめると「迷惑かけてる自覚はあるんすけどぉ」と呟く。 「あの人は年上だし、喧嘩して仲直りってわけにもいかなくて」 「喧嘩して、って……」 「#名前2#さん、腹割って話そうタイプですもんねー。喧嘩してる時は本当に腹割りそうですけど」 「えてしてみょー」 #名前2#くんが喧嘩してるところ。想像するのは簡単だった。だってすごく似合う。 「ちゃんと仲直りできたら報告しますんで。待っててください」 「はーい。早くしてくださいねー」 「……」 「そこは返事をするところ!」 そんな約束を交わしたのも忘れた数週間後、ようやく安室さんから「#名前2#くんと和解しました」と言われた。それと迷惑をかけてすみませんとも。 我がカフェの看板アルバイターの顔は喧嘩してきたかのように怪我だらけだった。本当に殴られたのかなとも思ったけど、男同士の友情と言うやつは女は分からない。殴りあって解決なんて今の人でもあんまりやらないと思うのだけれど。 「……。仲直りできてよかったですね!」 それだけ言うと安室さんもニッコリして仕事に取り掛かってくれた。ちらりとシャツから見える手にも包帯が巻いてある。どれだけの喧嘩したんだろう。気になるけど聞けなかった。