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王様と呼ばせるギルガメッシュと出会ったのはつい先日のことだ。公園にて桜と護衛の平野と世祖を遊ばせていた。何をして遊ぶかと言うと原始時代ごっこという(大人からすれば何が楽しいか分からない)ものだったが3人ともキラキラした笑顔なので公園に生かせるのは心配ではなかった。そこら辺は時臣とは違って慎重であったり安全圏の手段をとらないのが#名前2#だ。ただ、龍之介が殺人をやめた訳では無いので子どもだけではやはり警察が色々言う。なので毎回雁夜か龍之介が保護者としてつくようになった。奇しくもギルガメッシュと出会ったのは龍之介がついている時だった。 「そこな雑種ども、何をして遊んでいる」 「……んえ?」 「おい、聞いているのか? 我が話しかけているのだ。さっさと答えよ」 「どもー。え、俺に話しかけてんの?」 「ここにいる雑種はお前だけだ」 「あっそお。世祖たちね、今原始時代ごっこしてんだって」 「原始時代?」 「そうみたい」 「そんなことが面白いのか」 「さあー? 面白いんじゃない? 誰も守ってくれないし、誰かと戦うこともないし、ただ生きるために生きるだけだもの」 人に支配されない世の中というわけか。ギルガメッシュは頷くが龍之介はもう彼を見ておらず世祖が砂場の砂を掘り進めるのを止めさせにいっていた。砂を戻すのも大変なのだから止めさせないと。 「………ん?」 サーヴァントはサーヴァントの気配を感じ取ることが出来る(アサシンには遮断スキルがあるが。)のでここに来たわけだが、サーヴァントの気配を発しているのはその砂場の砂を掘り下げている小さな少女だった。 しかも横にいる少年は人間の気配ではない。別の何かだ。自身の宝物庫にあるそれらと気配はよく似ていた。 「世祖ー、砂は戻さなきゃダメ」 「やらー」 「ダメですー」 「ダメー」 ギルガメッシュのことを気にした様子もなく、桜と平野は世祖のことをぐいっと腕をつかむが止まってくれない。背中に背負ったランドセルがずりずりと頭を通り過ぎてもはや亀の甲らのようになってしまった。 「ぶっははは、世祖、やば、その格好!」 「龍之介さん、そんなに笑っちゃダメだよ」 「だって、あっはは!!」 「雑種よ」 いつの間に近づいてきたのか、ギルガメッシュが世祖のランドセルを踏みつけた。ぐずり、とつられて頭が砂場にのめり込む。ヒィッと桜から小さく悲鳴がもれた。 「そなた、サーヴァントだな? これは面白い。サーヴァントが砂遊びとは!」 ギルガメッシュにとっては世祖が本当にサーヴァントかそうでないかはどうでもよかった。面白いものが頭を下げていた。それだけで踏むことに決めた。高笑いしながらぐりぐりと踏みつけたギルガメッシュを見て、平野は#名前2#に教えてもらったジョジョに出てくるDIO様みたいだなーと思っていた。龍之介は世祖が死ぬかと思ったが、もう少し様子見しようと傍観を決め込む。世祖は何をしでかすかわからない人間だ。 「おい、聞いているのか?」 ぐるん、と世祖の体が浮かび上がる。うつ伏せになっていたからだが足から反り上がり、ギルガメッシュの驚いた隙に体をギルガメッシュに絡ませる。足が腰にしっかりと張り付いたのを確認して世祖はがつんと頭突きのようなものを食らわせた。頭突き、とはまた違う。親指を額に添えてぶつけた際にばちんと力が弾けたのだ。 「っがぁ……!?」 「こーちは、サー」 世祖はにっこりと邪悪な笑みを浮かべた。ひゅーいと龍之介の口笛が公園に虚しく響いた。 起き上がると置いてあったのは白餡と大きく書かれた包み紙とちょこんと立っている最中だった。 「………」 これが最中と知らないギルガメッシュは不思議に思いながら最中をつつく。ぽてりと倒れたそれに害はなさそうだと拾い上げると甘い匂いがした。 「食べますか?」 「……そなたは」 「どうも、バーサーカーのマスターで#名前2#って言います。最中、うまいっすよ」 聖杯戦争の最中だというのに自ら姿を晒し、自ら自分がマスターであることを晒した愚か者は、ポケットから同じ包み紙を取り出してギルガメッシュに見せるとそのまま口に放り込んだ。彼はそれをむしゃむしゃと食べてごくりと音を鳴らして飲み込んだ。それで毒味になったつもりか、と毒づきながらギルガメッシュも食べてみる。うまかった。 「#名前2#くん? 今日はやけに早いね、ってうわああ!? 誰!? 誰この人!!?」 「はぁ? 我を知らぬと申すか、雑種よ」 「ザッシュ! ザクじゃなくて!? zapzapzapじゃなくて!?」 「雁夜、うっさい。桜は世祖と龍之介と一緒にいるから」 「あ、うん、分かった……」 カリヤと呼ばれた男はそれまでの騒ぎが何だったのかと聞きたくなるくらいに突然に大人しくなった。そして、よろよろと腰を抜かした体を#名前2#に押されて部屋から出ていく。ずべり、とこけた音がまた聞こえた。#名前2#が大丈夫かー?とドア越しに声をかける。「へいきー」とか細い声がドアをすり抜けてさらにか細くなった。#名前2#はそれを聞いて頷きながらギルガメッシュと向き合う。平凡な男だった。見目が特別いいとも言えず、体つきは綺礼には及ばず、礼儀は時臣の方が弁えている。こいつめ、と少しだけ思った。こんな姿でよくもまあ王の前に出ようと思ったものだ。 「王様、っすよね?」 「……」 「英雄王、ギルガメッシュ。沖野さんと世界を回った時にちょいと話を聞いてたもんで。ただ、まさかこんなにイケメンとは思わなかったなあ。この世界にデスマスクはあるんすけど」 「………」 「うちのバーサーカーがやらかしたみたいですみません。代わりにお詫び申し上げます」 土下座をして頭を擦り付ける#名前2#にギルガメッシュは何故か居心地の悪さを感じた。人に拝頭の礼を取らせることは当たり前であったはずなのに。なぜだろうか。違和感と共にぐわん、と頭が揺れた。フラッシュバックして浮かび上がる英霊「指貫世祖」とその守護をした男。何振りもの刀と過ごした時間。高校生から少年になった男との日々。戻って守護の男が迎えた末期。英霊となる少女は泣いていた。自分のせいで男が死んだ、と泣いていた。 目の前の男は、その守護にーー……。 「お前は」 「はい?」 「人間なのか?」 「はぁ。人間でございますが。皆様のような英霊となる存在でもありませんし。ああ、刀剣男士も見たんですか? あいつらと英霊の格はどうなのか分かりませんけどあいつらの主人は英霊になったりするんすかねえ」 へらっと笑った男は確かに人間であるはずなのに、全くそうは見えなかった。 ギルガメッシュは基本的に王としてのプライドを持ち合わせているため、人へ寛容とか跪くという態度はとらない。だが、今回ばかりはその膝を床に下ろして#名前2#と視線を合わせた。世祖が知りうる限りの#名前2#という男は、自分の幸せを顧みず世祖を守ることに専念していた。当初はそれが自己の存在価値とは思っておらず、仕事としていた。なのに、いつの間にか家族へと変わり架け替えのない者となり最後は1ポンドの肉へと変わっていた。 世祖が盗み見た己のマスターである時臣の話や、先ほどの公園で見た男、部屋に来て腰を抜かせた男の話。それらを見て思ったのは、彼は今や変わり果てている。少女のために傷つくだけでは済まないのだ。それ以上に、彼はいま人を助けることに縛られている。 「面白い、面白いな」 「そうですか?」 我がそう言うならそうなのだ、というギルガメッシュの暴言に#名前2#はそれならそうなんでしょうねと笑って返した。 ギルガメッシュを家に置くと大抵困るのがいかにゲームをやらせないか、という話だった。カービィのセーブデータをわざとではないかと思うほどに#名前2#が使っていたものを使うので、なんとか死なないようにサポートしなければならない。それに、有給を取ってるとはいえ#名前2#もまだ仕事に出ている。なんとか徹夜だけは避けたい……。 使い魔を放って時臣に連絡を入れる隙さえも油断できない。テレビの前を陣取られてカチャカチャとゲームを始めてしまうのだ。そうならない様に仕舞ってしまうと方方から批判が上がって面倒だし。今日もまたそうなるのか、と待機していたらギルガメッシュは不思議と物吉の組木細工をちょこちょこ弄るだけで何もしなかった。 「どうしたんですか、王様」 「…………敬語はいらん」 はあと腑抜けた声を出して#名前2#は夕飯のお好み焼きをギルガメッシュの前に置いた。ギルガメッシュは王様だから、と隔離させたのは#名前2#だ。彼なりの礼儀であったし、ギルガメッシュも王と言われて臣下と食事はしないと話をされていたし納得もしたのだがひとり虚しく食べるのもまた興ざめだ。誰かを呼び出して配置するのもいいが、それでもやはり物足りない。今日は初めて皆と食べる日だった。 「それじゃあ、頂きます」 「いただきまーす」 龍之介の通る声が皆の声を飛びのけてギルガメッシュの耳によく入ってくる。ソースをかけて青海苔とカツオ節をかけるのが#名前2#がよくやるものでそこに追加してマヨネーズをかけるのは雁夜がよくやる。ギルガメッシュはどうしようかと思って結局マヨネーズもかけた。ぐちゃぐちゃしたが美味い。時臣からもらう酒よりもかなり美味い。何故だろうか。 「美味いか? これも食べな」 敬語は外せと言ったが気軽く話しかけろとは言っていない。むっと睨みつけるとひらひら手を振られた。意味がわからない。 「#名前2#、青海苔足りねーぞ」 「ほいよ!」 「ん、」 ぽーいと投げられたのに行儀が悪い、と顔をしかめるが皆は慣れているのか気にしていなかった。缶に詰められた青海苔はどこかの港から貰ってきたらしい。マジックで大きくミナトと書かれていた。受け取ったキャスターはバサバサとお好み焼きにたっぷりとかけて食らいつく。まるで犬のような食べ方だった。 「………」 「あ、慎二! ソース口についてるぞ」 「んぐ、ナプキンは?」 「乱持ってねえ?」 「僕今日は持ってないや。次郎さんは?」 「ああ、ナプキンはないねえ。ティッシュならあるよ」 「えー、ティッシュー?」 「慎二、文句言うなー。次郎、回してやんな。慎二のキャッチング下手だから」 「うるさいな! 僕だってできる!」 「出たよ、できる詐欺。そんなのは園児たちだけで充分だっての。世祖、お前俺が見てないからってエビ取ろうとすんなよ」 「あーい」 「桜、食べられなかったら残していいから。そんなに顔青くさせるなよ……」 「え、あ、大丈夫かい、桜ちゃん!?」 「うん……。大丈夫です、このくらい、食べられます」 「歌仙ー、桜に飲み物くれてやってくれー。冷蔵庫にまだヤクルトあるだろー?」 「仕方ないねえ」 「雁夜も食べきれなかったら残せよー。獅子王が食べるから」 「はぁ!? なんで俺なんだよー」 「いや何となくだけど。あ、キャスターも食べると思う」 「食べてやるから今度こそ掃除当番から外せよ! なん連続当たってんだ!?」 「神さまの言うとおりにしないと罰当たるから仕方ねー。っと危な! 世祖、お前すぐコップ倒そうとするのやめろってマジビビる……」 何と騒々しいことか。隣の部屋は防音対策しときましたからと連れられた部屋の理由がわかった。こんなにうるさいのでは楽に食事も出来ない。刀剣男士はよく慣れているな、と視線を向けたら皆がクスクスと笑っていた。 「………」 面白い、のか。この状況が。喧しく耳も目も塞ぎたいようなこの状況が。ギルガメッシュにはよく分からない。皆で机を囲んで食べるという状況が。#名前2#は目まぐるしく机の周りを見ているし、皆思い思いにお好み焼きを食べている。 「………………」 ギルガメッシュはこの輪に入りたいという思いを無視して臣下たちはこのように煩いものなのだと頭に叩き込んだ。 デザートには手作りだというアイスが出てきた。塩をまぶした氷水の中でアイスの元をもんで作るらしい。味はバニラっぽいが少ししょっぱかった。 不味いのに#名前2#たちはその不味さを笑いながらアイスを食べる。不味いなら食べなければいいのに、どうしてそう笑うのかギルガメッシュには分からなかった。 「ぁ、王様。いかがでしょうか、アイス……」 「……うまくはないな」 五虎退はギルガメッシュの横に座ると「ごめんなさい、次はうまく作ります」と頭を下げた。 「なんだ、そなたが作ったのか」 「はいぃ……」 泣きそうな声を出されて、泣くな泣くな!と叫びながらまたアイスを食べる。ほら、食べてる! 我は食べてるぞ!となぜか気を遣う羽目になった。王であるのに、と思うがなぜか五虎退のような子どもらしい者たちは甘やかしたい気持ちがあるのだ。 「王様、俺のやつも食べます? お、ゴコ。お前も食べるか?」 「有難うございます…!」 ハウス栽培されたイチゴだから旬の味じゃないのが残念すけどねー、と#名前2#はギルガメッシュと五虎退にスプーンを差し出した。大きな一口だ。子ども扱いして、と思うがわりと構われるのは好きだ。しゃりしゃりとあまじょっぱい感覚にうへぇと顔を歪める。自分のバニラよりもまずかった。 「あはは、太鼓鐘は面白そうなもの作るんすけど不味かったり美味しかったりと半々なんすよねー。はぁー面白い。王様、お代わりありますからね。ゴコ、慎二が泣きそうな顔でイチゴ食ってるから様子見に行ってやってくれや」 「はい」 よろしくなー、と走る五虎退を見送った#名前2#の背中にはコアラか何かのように桜が張り付いていた。 「………!!?」 「あ、背中の桜は気にしないでください。世祖の力借りて亀の甲羅体験してるんす」 全く何が面白いのか分からない。道理で先程からカリヤという男があわあわこちらを見ているわけだと納得する。#名前2#は相変わらずヘンテコリンなことを平気でやる男だ。だからこその停戦申し入れなのだろうが。 「おい、#名前2#」 「なんざんしょ?」 なんざんしょ、とは分からないが敬意はあるようなので無視してギルガメッシュは自信満々に王として言ってのける。 「そなたを我のモノとしてやろう!!」 「おーぅ、ノーセンキューです」 「なんだとぉ!?」