Twisted「おいで」「爪先」「居た」
それはとある生徒たちの会話で聞こえてきた単語だった。訳もわからず聞いた通りの音で検索したらちゃんとネットの百科事典でヒットした。 xreader。その、キャラクターと読者の恋愛を楽しむためのもの、らしい。俺はこの学園に入ってからその概念を知ったが一部の人間たちにはかなり有名な話らしくてこの学園内は、その、限られた人間のみが立ち入れるユートピアだとかなんだとか。俺は即売会なども知らないので何が何だか分からないのだが、つまり、とある人間のxreaderなるものが、相当に流行ってるらしいと。そういうことみたいだった。 「で、xreaderって結局はどう言うもの……」 「いや、あのさ、概念が幅広いんだわ」 「そ、そうなんだ……」 夢見るための小説というのは聞いているが、だからといって具体的なものは一切分かっていなかった。それで何とか調べられないかな、とウィスパーに呟いたところ「個人情報バレバレのアカウントでそれはやばいから今すぐツイート消しとけ」とクラスメートのサーシャに言われたのだった。 アレクサンドルことサーシャはそのxreaderについてはかなり詳しいらしかった。DMで「なんでリアルのアカウントでツイートするとやばいのか」ということを教えてくれた。xreaderを読むもののことをshipperと言うらしいが、それをこのような場所でツイートすると偏見が生まれやすいだとかなんだとか。正直そういう内輪のノリは苦手だったがサーシャからすると俺の方がやばいやつ、と言われているらしい。canonに見られたらやばい、なんて言われても俺にはよく分からなかった。 それで冒頭の話に戻る。ここNRCではxreaderがそれなりに流行っている、らしい。しかも聞いたところによると自分以外の場合もあると言われて混乱している。読者に話しかける形式かと思ったらサーシャは「そういうのもあるんだけどさあ、」と言葉を濁した。 「xreaderって、うちでは専属のサイトがあるんだけど」 「専属のサイト?」 「話がこんがらがるから1回リセットして最初から話していい?」 サーシャは珍しく真顔でジョークを言うので頷いてやるとゴホン、と仕切り直しに咳をして「まずはxreaderってのは創作物なわけ」という話をし始めた。 「そ、それは分かるんだけど」 「で、多く……これメジャージャンルとかって言うよりもその傾向があるって意味で捉えて欲しいんだけど、二次創作に入る」 「うん」 「二次創作っていうとslashのやつとか色々とあったけど今回はキャラクターと読み手の俺たちの関係性の話。それがreaderって入る所以」 「な、なるほど」 「xは単純に掛け算の意味ね」 「あ、原作と読者のクロスオーバー」 「そうそう。デッドプールみたいに第四の壁を壊しているんじゃなくて、俺たちがその中に入ってる感じ」 今の説明は個人的にはピンと来るものがあった。メタフィクションとかじゃなく、俺たちはその中のキャラクターになっているらしい。ゲーム主人公などと同じ感覚だろう。 「ここまでが序盤の序盤」 「まだ先があるのか……」 「実際に見てもらうと分かるんだけど、xreaderには色んな形式がある」 「形式?」 「俺たちが入ってるわけだけど、まあ本当に俺たちがいる訳じゃないし」 「そりゃあそうだろうな」 「だからxreaderでは形式が作られた。大まかに分けて4種類。 ①reader insertタイプ。y/nとかの略称を使って読者がそのまま自分の名前とか好きな映画とかを入れる」 「略称なんだ……。読みにくくない?」 「慣れれば割と気にしない。場合によってはコピペして自分で置換する」 「ガチだな!!」 「②youタイプ。デッドプールみたいに画面の向こうから話しかけてくる」 「デッドプールじゃん……」 「メタネタじゃないしな。これはABHと呼ぶ人もいる。二人称小説としての表記だな」 「表記が多い……」 「まあそんなもんだ」 「③original characterタイプ。これは今までの読者優先システムじゃなくてアバターを楽しむタイプって感じだなあ」 「今までのヤツもアバターっちゃアバターじゃないのか?」 「まあお前も読めば分かるけど、自分っぽいけど自分じゃない存在のRIと別個体として見るOCは違うから」 「へー……」 「最後に、これはそこまで見かけることはないけどお前ハーツラビュル寮だし教えとく。self insertってやつ」 「ハーツラビュル寮が関係あるのか……?」 「ハーツラビュル寮といえばSIと思われるくらいには。逆に言うとSIって主張してもほぼ炎上しないのがハーツラビュルだな」 「うちの寮そんなにすごいのか」 「SIってのは、書き手が中に入ることなんだよね。つまり、そこに俺たち読者は関係ない。だから多くの人はそういうのは隠してOCに紛れさせてるって感じのが多い。炎上したくないしね。ハーツラビュル寮は『厳格なルールの元にSIを書いてる』ところ。だからルール違反をすると寮長の指示で削除されるようにシステムが組まれてるらしい、よ」 「なにそれこわっ!!」 「他の人が何か言う前に自治が強いってのと、普通に面白いからみんな見てるってのがある。ハーツラビュルは強いよ……」 その時の俺はなぜ作者がハーツラビュル寮と分かっているのかだとかも聞いていなかった。お前も登録すれば読めるようになるよ、と差し出されたNRYCというサイトについつい登録してしまったのだった。 言われるがままにreaderという単語を入れてみると数千というworkが出てくる。これが作品のことらしい。 「大手キャラはまあカーム先輩、#名前2#先輩かな」 「? 学校の人が?」 「うん。xreader読むだけだったら別にAO3とかでもいいんだけどうちの学校は寄宿舎だしその中での恋愛とかを楽しみたい人もいるわけ。で、それが脈々と受け継がれてるのがこのNRYCってわけ。Not Real Yes Cartoon。シャレでreaderとcharacterって言う人もいるけど俺はcartoonの方が好きだな」 「ふうん……」 単純にどんなものか聞いてみたかっただけなのに、よく分からない沼に爪先を突っ込んでしまった気がする。目に付いたのはたった一言「おいで」と書かれていたworkだった。下にキャラクターという欄があり、#名前1#/readerと書かれている。 「#名前1#・Distlerってちゃんと書かれるんだな」 「検索がしやすいからな」 ぽん、と俺はそのままタップしていた。流れるように読み始めた俺を見てサーシャは「マットは絶対書くがわになると思うけど」と笑った。