ハロウィンの花嫁

 結婚式場だという場所に向かうと、元警視正という人とそのフィアンセさまに出会った。村中努です。クリスティーヌ・リシャールです。仲のいいふたりはお互いの紹介をしてみせたが世祖には余計に混乱するような形になってしまい世祖はすぐに隠れてしまった。  リシャールなんて、からかわれることも多い名前だったんじゃないかと思うが彼女はとても明るく婚約者に対してべろべろに甘かった。自分の周りでこういった甘やかしを見るのは羽田名人ぐらいだし、しかも彼からは嫌われているので間近で恋愛のパワーにあてられるのは久々だった。  フランス人だという彼女は日本語が上手で小五郎さんたちとぜひ来てくださいと言われたが、あんまり興味はないので遠慮したいところだが。少年探偵団たちは世祖と一緒に行くことを決めてしまったようで、芋づる式に俺も参加することになっていた。 「あら、電話だわ」  クリスティーヌさんが席を立ったとき、俺の方にも電話がかかってきた。ちょっとすみません、とクリスティーヌさんとは反対方向の角に向かう。 「はい、#名前1#ですけど」 「すまない、私だ」 「え、詐欺……?」 「……風見だ」 「まあ、はい。分かってましたけど。なんでしょうか?」 「あの件のことだが、君たちに依頼を頼みたい」 「了解です。またどこかで待ち合わせしますか?」 「そうしてくれ。彼女の方は大丈夫か?」 「世祖? 平気だと思いますけど」  ならいいんだが。そう言ってくれるこの人はきっと世祖がなぜ入院したのかは知っているのだろう。大丈夫です、もう平気なんで。誰のことを指しているのかは言わなかったが、風見さんはそれ以上はなにも言わなかった。 「じゃあ、みんなにお願いできるかしら」 「はい!」 「うん!」  子どもたちの元気な返事が聞こえる。フラワーボーイでも頼んだんですか? と聞くと「それとはまた別で!」とクリスティーヌさんが手を振った。 「今、友達が渋谷に来てるから会えないかって連絡が入ってね。これから打ち合わせがあるのに困ってたんだけど、この子たちがわたしの代わりにって」 「それぐらいならおやすいごようだぜ!」 「ですね!」 「わたしたち、最強の少年探偵団だもんね!」  ふむ。世祖が心配だから俺もついていっていいか聞くと、勿論! という声が返ってきた。蘭ちゃんは小五郎さんのところに戻らなきゃいけないらしいし、何か起きた時に世祖に保護者がいないのはちょっと怖い。  クリスティーヌさんから地図を受けとって、村中さんたちに挨拶をして。ようやくヒカリエから出発した。地図を見るのはコナンが、俺と世祖はあとからついていく。世祖はもごもごと何かを見ていた。その何かは、俺には分からないけれど。  コナンたちについていったら、たどり着いたのは薄暗い路地裏の廃ビルのような場所だった。本当にここなんですか? 光彦の震える声にコナンは「ここだって地図には書いてあるんだよ」とすげなく返した。哀も確認するが、やっぱりここだと言う。世祖は地図が合ってるかどうかよりも、上に行きたがっていた。 「クリスティーヌさん待ってるかもしれないから。はやく確認しに行くぞ」 「う、うん」  コナンたちを今度は後ろにひきつれて、階段を上る。一番上の階に、布をかぶせて置いてあるらしい。扉はひとつしかなかった。  開けるぞ、と念の為に自分が先頭に立って扉をひらく。ふつうの廃墟、というのも変だけれど。ふつうの部屋だった。 「あ、あれかな」  ずかずかと近づいていくと、世祖が「まっっ」と珍しく声を上げた。え? と振り向けばコナンが突撃するようにこちらに向かってくるのが見えた。ぐふっと、腹に直撃した子どもを抱え込む。扉は無情にも閉じられていた。コナンが突撃したというよりは、コナンは世祖によって投げ飛ばされたような気がする。でも、一体どうして? 「灰原! 世祖つれて下に行ってくれ!」 「江戸川くんは!?」 「#名前2#さんと何とか抜け出す!」 「いや、何言ってんだよ……」 「#名前2#さんこそ……」 「大丈夫だって、いざとなったらお前だけは助けるから」 「それじゃ意味ねーんだって! 世祖は今具合が悪いんだよ! あんたがついてやらなきゃ!」 「……まあ、とりあえず。この液体を持ち帰ればいいんだな?」 「そりゃあ、そうだけど……って、なんで#名前2#さんがこの爆弾のこと知ってるのさ」 「まーーた協力依頼がきたってこと。あと世祖が小五郎さんやられて気が立ってるから、解決するのがはやく終わりそうならそうしてやりたい」 「……」  それだけじゃないだろ、とコナンは言いたげな顔をしていた。俺の考えとしては世祖は小五郎さんが誤認逮捕されたあの時からずーーっと気がたっていると思う。主に、小五郎さんまわりで。  ふわり、と視界に何かが覆いかぶさった。あれ? と思ったが口には出さない。コナンには幽霊は見えていないのだから。 「これ! 俺たちが前に処理したやつだよ!」 「お前じゃなくて主に俺がな」 「え? なになに、皆知ってるの?」 「お前の墓参りに行った時にぶち当たった事件だよ」 「あ、そうなんだ……。へへっ、そりゃあ薮つついちゃったかな」  何でここにいるんだよ、と言いたいがコナンがいるから言えない。幽霊たちは俺が話さないことをいいことにずっと何かしゃべっているが聞こえないフリを続けた。  上着に湿らせて下に落とすよ、と言われて服を脱いだ。それなりに安くはなかったジャケットなのでちょっと悲しいが仕方がない。適当に聞き流していた爆弾処理班のふたりの言葉を頼りに慎重にポット部分を開いた。ちゃぷりとそれぞれ浸して窓から放り捨てる。  外を見れば世祖たちが下にちゃんと待っていた。世祖の具合はここから見ても悪そうだ。コナンはどうする? と聞いてくるがここからしか抜け出せないのだから仕方がない。  ベルトを抜いて排水管をくぐらせるように引っ張ったあとコナンを抱えた。幽霊たちがまたぎゃーぎゃー騒いでいるが気にしていられない。手にベルトをしばりつけてゆっくりとズラしていく。 「#名前2#さん、このままじゃ爆弾が」 「いやー、大丈夫。もうちょっと降りれば」  排水管が取り付けられている細い部分にまでたどり着いた。もうすぐ爆発だぞ! と声が聞こえる。こういう時幽霊がいるのは便利だなと思う。  しっかり握ってろ、と声をかけてコナンを抱えて後ろへ飛び跳ねた。体を限界まで逸らしていたから自分の想定以内の被害だ。爆風を受けながらも何とか地面へ受身をとりながら転げ落ちると悲鳴が聞こえた。  コナンの頭を体に押し付けて何とか体をととのえる。大丈夫、沖野さんたちと初めて会った時のあの感覚よりは全然マシだ。あついし頭もぼうっとしてくるけど。体はびしびし風にあたって痛いけど、まあなんとか生きてるし。  コナンを抱え込み少年探偵団たちの上を通り越して地面にぶつかった。衝撃は大きく、何度もばかみたいにバウンドしてゴロゴロと転げ回る。視界がぐにゃぐにゃで目を開けているのか傷ついているのかさえもよく分からなかった。  いろんな声が聞こえてくるから返事をしたつもりだったが、口がまわらなかった。  でも、名前はちゃんと届いたらしい。世祖。倒れそうになる世祖の頭を支えて、俺はようやく深呼吸できるようになった。煙で肺がやられそうになってたけれど。  病院で話を聞いたところによれば、世祖は今大きなストレスを抱えていてどうしようもない状態になってるのだそうだ。だから今、奇妙な言葉を発しながらベッドの下で暴れているのも仕方がないらしい。  考えられる可能性としては、プラーミャを調べた時に何かを拾ってしまったか。ネット上にある情報にはアクセスしやすいかもしれないが、世祖の場合は電波そのものを読み取っているからその分負荷がかかる。この前の俺が倒れたときの暴走の話と、今回のプラーミャのせいで世祖は相当疲れているんだろう。それに気づけなかったのは俺が悪い。  全く。保護者として情けない。すまないと呟いたけれど、ベッド下にいる世祖には聞いているわけはない。誰に向けた謝罪なのか、自分でもよく分からない。ただ、世祖に対して誠意のある行動とはとうてい思えなかった。